77 / 88
第五章
5-9
しおりを挟む「わかった。そこまで言うなら協力するよ。ギャラリーも、そうだな、何人か声かけておくよ」
「ありがとう、レオン。最後にまたお願いすることになっちゃったけど、助かるわ」
「いいってことよ。レーヴァン隊長のことは任せてくれ。手続きも出来たし、あとは王都に帰って家族と会えば、地位も回復できる」
レオンは完璧なまでに手続きを終えていた。もう既に葬儀はキャンセルされ、反対にレーヴァンの生還お祝いをすることになったようだ。死んだと思っていた者が生きて帰ってくる。これほど喜ばしいことはないだろう。
ご両親の喜ぶ姿が目に浮かぶようだ。私の父も、息子代わりとして彼を可愛がっていたから、嬉しいだろう。
だが、私はその姿を見ることはない。
「レオン……私ね、明日の手合わせが終わったら、もうエール王国に戻るわ。だから、レーヴァンのことをお願いしたいの。父には、レーヴァンとの婚約破棄を進める手続きをするように手紙を書くわ」
もう、明日が終われば彼を追わないことを私は決めた。今日のレーヴァンとサーシャ嬢を見て、私は覚悟を決めたことをレオンに伝えた。
「クローディア、……それで、いいのか?」
「レオン。私にはクレイグがいるのよ。三年間、私の傍で私を支えてくれたのは、クレイグなのよ。それに、レーヴァンも三年間、女性と何もなかったとは思えないわ。今はサーシャ嬢もいるし、彼らが本当に恋人同士で、将来は結婚するのであれば、私はこれ以上関わらない方がいいと思うの」
「クローディア、それはまだ決まった話ではないだろう。昨日のレーヴァン隊長の話でも、サーシャ嬢はただ単に助けてもらった恩人って感じだったぞ」
「でもね、レオン。記憶を失っている彼を支えているのは、サーシャ嬢よ。私ではないわ。それに、却って都合がいいかもしれないわ。私のこと、思い出せないのなら、新しい恋にも抵抗がないハズよ」
そう、言いながらも私の頬を涙が伝う。わかっている、クレイグを愛しながらレーヴァンを愛することなど出来ない。そんな都合のいい制度はない。まして、どちらかを私の愛人とすることなど、誇り高い彼らをそんな風に扱うことなど出来ない。
「だから、ね。もうこれで、終わりにするわ。いいじゃない、最後にレーヴァンと打ち合って、彼に負けて終わるのよ」
「……クローディア、お前」
パティオの中を風が吹き抜けていく。巻き上がるような風は、私の髪をふわりと上に持ち上げた。
「ピアスも、明日が終われば……もう外すわ」
露わになった耳朶には、サーモンピンクのピアスがついている。もう、随分と輝きを失っているその石を、私は癖になった指で摘まんだ。
——もう、終わる。
準備をするために私たちは辺境の砦に向かいながら、もう一度、私はピアスを触りながらレーヴァンのことを思い出していた。
レーヴァン、あなたはいつも私を心配して、私が傷つく前に打ち負かしていたのよ。今なら素直に「ありがとう」と言えるその気遣いも、当時の私は「もっと真剣に勝負して!」と言って、憤っていたわね。
久しぶりに握りしめる剣を持つと、心が落ち着いてくるのがわかる。刃をつぶしたその剣は、通常のものより小ぶりだ。筋力の落ちた私が持つことが出来るのは、これが精一杯だ。
昨夜、大急ぎで用意したブラウスに着替え、久しぶりに男装する。胸当てを付けないのは、前回と同じだ。
砦の中にある鍛錬場に行くと、そこは既に大勢の騎士団のメンバーがいた。どうやら、「赤髪のレーヴァン」が帰って来た、さらに彼が手合わせをしてくれる、ということで予想以上の人数が集まったようだ。
レーヴァンはその赤髪を立てて、複数人を相手にしていた。まるで踊るように剣を使う彼はとても強い。
「凄い……腕は落ちていないどころか、上がっているわね」
こんな遊びのような手合わせであっても、この三年間の彼の鍛え方が半端なものではなかったことが伺える。さらに、騎士団にいた頃よりも実戦経験を積んだ彼の技は多彩になっている。時に足を使う彼は型にはまってなどいない。
辺境騎士団員も、そんな彼との打ち合いを楽しんでいるようだ。
「レーヴァンには、ここが合っているのかもね」
このまま、ここでサーシャ嬢と結婚すれば、彼は辺境の砦を守る騎士となる。のびのびと暮らすには、王都よりも辺境の方が暮らしやすいのだろう。
「クローディア、用意はできたか」
レオンも既に一度、レーヴァンと手合わせをしたようだ。汗を拭きながら近づいてきた彼に、審判をお願いする。
「レオン、わかっていると思うけど……ギャラリーは私の後方に集めておいて」
「……わかった」
レオンはそう言うと、手合わせの勝負のついた騎士団員を一か所に集めた。次は私の番だ。
「クローディア、君は……こうした服を着ていたのか?」
男装した私の姿を見たレーヴァンが、私を見て不思議そうな顔をしている。
10
お気に入りに追加
210
あなたにおすすめの小説
王太子殿下の執着が怖いので、とりあえず寝ます。【完結】
霙アルカ。
恋愛
王太子殿下がところ構わず愛を囁いてくるので困ってます。
辞めてと言っても辞めてくれないので、とりあえず寝ます。
王太子アスランは愛しいルディリアナに執着し、彼女を部屋に閉じ込めるが、アスランには他の女がいて、ルディリアナの心は壊れていく。
8月4日
完結しました。
冷酷無比な国王陛下に愛されすぎっ! 絶倫すぎっ! ピンチかもしれませんっ!
仙崎ひとみ
恋愛
子爵家のひとり娘ソレイユは、三年前悪漢に襲われて以降、男性から劣情の目で見られないようにと、女らしいことを一切排除する生活を送ってきた。
18歳になったある日。デビュタントパーティに出るよう命じられる。
噂では、冷酷無悲な独裁王と称されるエルネスト国王が、結婚相手を探しているとか。
「はあ? 結婚相手? 冗談じゃない、お断り」
しかし両親に頼み込まれ、ソレイユはしぶしぶ出席する。
途中抜け出して城庭で休んでいると、酔った男に絡まれてしまった。
危機一髪のところを助けてくれたのが、何かと噂の国王エルネスト。
エルネストはソレイユを気に入り、なんとかベッドに引きずりこもうと企む。
そんなとき、三年前ソレイユを助けてくれた救世主に似た男性が現れる。
エルネストの弟、ジェレミーだ。
ジェレミーは思いやりがあり、とても優しくて、紳士の鏡みたいに高潔な男性。
心はジェレミーに引っ張られていくが、身体はエルネストが虎視眈々と狙っていて――――
王太子の子を孕まされてました
杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。
※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。
命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。
【完結】誰にも相手にされない壁の華、イケメン騎士にお持ち帰りされる。
三園 七詩
恋愛
独身の貴族が集められる、今で言う婚活パーティーそこに地味で地位も下のソフィアも参加することに…しかし誰にも話しかけらない壁の華とかしたソフィア。
それなのに気がつけば裸でベッドに寝ていた…隣にはイケメン騎士でパーティーの花形の男性が隣にいる。
頭を抱えるソフィアはその前の出来事を思い出した。
短編恋愛になってます。
愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。
そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。
相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。
トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。
あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。
ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。
そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが…
追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。
今更ですが、閲覧の際はご注意ください。
箱入り令嬢と秘蜜の遊戯 -無垢な令嬢は王太子の溺愛で甘く蕩ける-
瀬月 ゆな
恋愛
「二人だけの秘密だよ」
伯爵家令嬢フィオレンツィアは、二歳年上の婚約者である王太子アドルフォードを子供の頃から「お兄様」と呼んで慕っている。
大人たちには秘密で口づけを交わし、素肌を曝し、まだ身体の交わりこそはないけれど身も心も離れられなくなって行く。
だけどせっかく社交界へのデビューを果たしたのに、アドルフォードはフィオレンツィアが夜会に出ることにあまり良い顔をしない。
そうして、従姉の振りをして一人こっそりと列席した夜会で、他の令嬢と親しそうに接するアドルフォードを見てしまい――。
「君の身体は誰のものなのか散々教え込んだつもりでいたけれど、まだ躾けが足りなかったかな」
第14回恋愛小説大賞にエントリーしています。
もしも気に入って下さったなら応援投票して下さると嬉しいです!
表紙には灰梅由雪様(https://twitter.com/haiumeyoshiyuki)が描いて下さったイラストを使用させていただいております。
☆エピソード完結型の連載として公開していた同タイトルの作品を元に、一つの話に再構築したものです。
完全に独立した全く別の話になっていますので、こちらだけでもお楽しみいただけると思います。
サブタイトルの後に「☆」マークがついている話にはR18描写が含まれますが、挿入シーン自体は最後の方にしかありません。
「★」マークがついている話はヒーロー視点です。
「ムーンライトノベルズ」様でも公開しています。
【R18】兵士となった幼馴染の夫を待つ機織りの妻
季邑 えり
恋愛
幼くして両親を亡くした雪乃は、遠縁で幼馴染の清隆と結婚する。だが、貧しさ故に清隆は兵士となって村を出てしまう。
待っていろと言われて三年。ようやく帰って来る彼は、旧藩主の娘に気に入られ、村のために彼女と祝言を挙げることになったという。
雪乃は村長から別れるように説得されるが、諦めきれず機織りをしながら待っていた。ようやく決心して村を出ようとすると村長の息子に襲われかけ――
*和風、ほんわり大正時代をイメージした作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる