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第五章

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「そう、それで……冒険者の方に助けてもらったの」

「あぁ、一時は危なかったようだ。だが、頑丈な身体のおかげで助かったよ。頭を怪我していても、その場で立て、と言われた時は驚いたけどな。彼のおかげで生き抜くことができた」

 レーヴァンは、留守にしていた三年間のことを細かく話してくれた。それはまるで小説の冒険譚を読んでいるような、想像もつかない話であった。

「そう、それで……冒険者の方は幼馴染の方と結婚されたのね」

「あぁ、ほんっと、お互い好きあっているのに、すれ違いばっかりでさ。俺の方がヤキモキしたよ」

「そうなの、レーヴァンが恋愛事でヤキモキするなんて……随分と成長したのね」

「ん? 俺はそんなにも鈍感な奴だったのか?」

「えーっと、鈍感というよりはヘタレと言うか……、うん、まぁね」

 レーヴァンは私の婚約者であったが、そんなことに構わない女性達に人気だった。けれど、そうした女性に手を出したことはない。それは初めての相手が私だったから、知っていることだ。

「レーヴァンがヘタレだなんて、そんなことないわ! 夕べだって、すっごく激しくて、私……」

 サーシャ嬢が、突然私たちの会話に入り始める。そして、その話の内容からして、二人は既に身体を繋げているようだ。

 その言葉に私も身体をビクッと震わせてしまう。嫌だ、彼が私以外の女性を抱いたなんて……

 でも彼を、レーヴァンを責めることなど出来ない。私は、もっと酷いことをしている。私は思わずクレイグに何度も抱かれた身体を自分で抱きしめた。

「サーシャ嬢、そのことはまた後で話し合おう」

 レーヴァンは、サーシャ嬢を優しくいさめた。彼が彼女を見る視線が柔らかい。

「レーヴァン、とにかく貴方のことを心配している人が王都にもたくさんいるわ。あなたのご両親もそうだし、私の父もよ。とにかく、今レオンが手配をしているけれど、一度王都に来て欲しいわ」

 そんな視線をこれ以上見ていたくない。私は今後の話をレーヴァンにふった。

「あ、あぁ……そうだな」

「そんなっ、その前に私との婚約をしてくださらないと!」

 サーシャ嬢は何か焦っているのか、レーヴァンをどうにか引き留めようとしてくる。レーヴァンはそのサーシャ嬢をなだめるように、彼女の手を握り二人は見つめ合う。それを無視するかのように、私は話し続けた。

「その、記憶に関してもいいお医者様がいるかもしれないし。王都であれば、伝手はいろいろとあるわ」

 二人の関係を、今は聞きたくない。レーヴァンが手を握るのは私ではなくて彼女なのだ。その事実に胸がキリキリと痛み始めた私は、レーヴァンから視線をそらせた。

「……お願いしたい。俺は、まだ何も思い出せないから。何か、キッカケがあればいいが」

「キッカケ、ね。そうね……、レーヴァン。そういえば身体を鍛えているって、剣は使えるの?」

「剣だけじゃない、弓も得意だ。そう言えば、君は騎士科を卒業したと言っていたが」

「え、ええ。私はいつもあなたと手合わせして、負けていたわ」

 懐かしい、ブリス学園の話になる。最後の手合わせでは、私があの卑怯な技を使い勝つことが出来た。そこで私は、ある提案をすることにした。

「レーヴァン、久しぶりに私と手合わせしない? 私たち、よく打ち合っていたのよ。身体を動かせば、思い出すこともあるかもしれないわ」

「そうだな、それも一つか」

 根っからの体力バカ……いや、騎士魂を持つ彼のことだから、手合わせには関心を持ってくれた。心配そうに見つめるサーシャ嬢を横目に見ながら、私は閃いた計画を実行することにした。

「せっかくだから、闘技場で行いましょう。辺境の砦であれば、騎士団の皆さんも見ることができるわ」

 ギャラリーは多い方がいい。私は準備をするために東屋を出ることにする。あまり長い時間話をしていて、またレーヴァンが頭痛に襲われてはいけない。

 それに、サーシャ嬢と親密そうな彼を見続けるのも、私の心がもう耐えられそうにない。サーシャ嬢の胸元には、レーヴァンから贈られたというブローチが輝いている。

 レーヴァン、あなたが生きていてくれた。そのことに満足しなくては。

 私は平気なふりをして東屋を去ろうとすると、レーヴァンが後ろから抱きしめた。突然のことで、何が起こったのかわからなかった私に彼の声が頭上から降って来た。

「俺は、まだ何も思い出せないが……君が辛い顔をするのは耐えられない」

「……っ、レーヴァン」

 息が止まる。少し固くなった筋肉のついた腕が、私を背中から抱えるように腕に沿う。温かい体温は、以前身体を繋げた時と変わらない。そして、彼の匂いが私を包みこむ。

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