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第五章

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「サーシャ嬢、私とレーヴァンの二人で話をさせてください。彼は私の婚約者です。記憶を失くしていたとしても、今の彼の保護者代わりとなるのは私です」

 領主の館についた後、レーヴァンと会おうとしてもサーシャ嬢が立ちはだかった。

「クローディア様、彼は長時間の移動をしたばかりなのです。その彼が、あなたたちと会って刺激が強すぎて、疲れが出ているようですわ。話をするのは、明日にしてください」

 どうあっても彼のいる客室に入れてくれそうにない。この館にいる者は全て、領主の娘である彼女の味方だ。

 こんなことであれば、私の宿泊しているホテルに無理にでも連れて行けばよかった。だが記憶を失くしている彼が、今安心できる人物はサーシャ嬢だけだ。その彼女の実家の館に連れて行くというのは自然だったが、やはり反対すれば良かった。

 ギリ、と歯を軋ませる。悔しい、せっかく見つかったレーヴァンを横取りされたような気持ちがしてしまう。

「サーシャ嬢、ですが事実確認が必要です。彼の葬儀が、あと一週間後に予定されているのです。その前に生存報告をしなければ、彼の財産や地位などが没収されてしまいます」

 そう伝えると、どうやらサーシャ嬢もさすがに動揺したようだ。

「わ、わかったわ……では、レオンさんだけで、会ってください」

「なぜ、私が会えないの? それを止める権利があなたにあるって言うの?」

 怒鳴るように言っても、サーシャ嬢はそれでも顔色を変えずにいた。

「クローディア様は、遠慮してください。そもそも、あなたもレーヴァンと会っていてもいい身分なのですか?もうすぐ結婚されるのですよね、あのクレイグ様と。でしたら、もうかつての婚約者のことなど構わない方がよろしいのでは?」

 まるで私とレーヴァンはもうこれ以上会わない方がいい、と言う。

「レーヴァン様のことは、私が責任をもって面倒みますわ。レーヴァン様は、私と結婚する約束をしてくれています。お父様も、常々強い騎士様と結婚することを私に望まれていました。ですから、安心なさって。誰も反対する方はいませんのよ」

 彼女の言葉は、私には剣のように突き刺さってくる。確かに、クレイグとの結婚を控えた私が会うのは、褒められたことではない。

 だが、レーヴァンと私は結婚を誓った仲だ。たとえそのことを彼が思い出さずとも、私の中にくすぶる想いが消えたことはない。

「わかりました。では今日は彼の体調のことを考えて帰ります。ですが明日、来ます。レオン、本人確認をお願いできるかしら。そして、すぐにお父様たちに連絡して、葬儀を止めなくては」

「そうだな、クローディア。急ぐべきはそこからだ。サーシャ嬢、レーヴァン隊長のいる部屋へ案内してください」

 レオンがサーシャ嬢と共に奥の部屋に行くのを見届けて、私は一旦馬車に戻る。レーヴァンが生きていた。その事実が確認できれば、やらなければいけないことは多い。

 彼が生きていてくれた。そのことに浸る暇もなく、私は急いで各方面に連絡をする手筈を考える。このままでは、彼は死んだことになってしまうからだ。





「レーヴァン、体調はどう? 頭痛は治ったかしら?」

「あ、あぁ……、もう大丈夫だ」

 サーシャ嬢の家に行くと、俺は客室に案内された。クローディアと会ったことが強い刺激になったのか、その日、頭痛に襲われた俺は、彼女と話したいと思っていたが先方が遠慮したと聞く。

 だが、生存確認だけは急がなくてはいけない為、レオンだけが部屋に入って来た。

「隊長、レーヴァン隊長。少しお話を伺ってもよろしいでしょうか?」

「あぁ、頼む。俺は……三年より前のことがわからない。サーシャ嬢が教えてくれているが……果たしてそれが真実かどうか、検証もできない」

「隊長……、えぇ、お話し、しましょう……隊長、レーヴァン隊長!」

 俺を見て、感極まって泣き出したレオン。聞けば騎士団を辞めてずっと、俺を探していたという。男泣きに泣いた彼は、自分以上にクローディアは俺を慕っているという。

「だが、彼女はもうすぐ結婚すると聞いた。もしかすると、俺の存在は邪魔になるんじゃないのか?その……彼女の結婚の」

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