73 / 88
第五章
5-5
しおりを挟む「サーシャ嬢、私とレーヴァンの二人で話をさせてください。彼は私の婚約者です。記憶を失くしていたとしても、今の彼の保護者代わりとなるのは私です」
領主の館についた後、レーヴァンと会おうとしてもサーシャ嬢が立ちはだかった。
「クローディア様、彼は長時間の移動をしたばかりなのです。その彼が、あなたたちと会って刺激が強すぎて、疲れが出ているようですわ。話をするのは、明日にしてください」
どうあっても彼のいる客室に入れてくれそうにない。この館にいる者は全て、領主の娘である彼女の味方だ。
こんなことであれば、私の宿泊しているホテルに無理にでも連れて行けばよかった。だが記憶を失くしている彼が、今安心できる人物はサーシャ嬢だけだ。その彼女の実家の館に連れて行くというのは自然だったが、やはり反対すれば良かった。
ギリ、と歯を軋ませる。悔しい、せっかく見つかったレーヴァンを横取りされたような気持ちがしてしまう。
「サーシャ嬢、ですが事実確認が必要です。彼の葬儀が、あと一週間後に予定されているのです。その前に生存報告をしなければ、彼の財産や地位などが没収されてしまいます」
そう伝えると、どうやらサーシャ嬢もさすがに動揺したようだ。
「わ、わかったわ……では、レオンさんだけで、会ってください」
「なぜ、私が会えないの? それを止める権利があなたにあるって言うの?」
怒鳴るように言っても、サーシャ嬢はそれでも顔色を変えずにいた。
「クローディア様は、遠慮してください。そもそも、あなたもレーヴァンと会っていてもいい身分なのですか?もうすぐ結婚されるのですよね、あのクレイグ様と。でしたら、もうかつての婚約者のことなど構わない方がよろしいのでは?」
まるで私とレーヴァンはもうこれ以上会わない方がいい、と言う。
「レーヴァン様のことは、私が責任をもって面倒みますわ。レーヴァン様は、私と結婚する約束をしてくれています。お父様も、常々強い騎士様と結婚することを私に望まれていました。ですから、安心なさって。誰も反対する方はいませんのよ」
彼女の言葉は、私には剣のように突き刺さってくる。確かに、クレイグとの結婚を控えた私が会うのは、褒められたことではない。
だが、レーヴァンと私は結婚を誓った仲だ。たとえそのことを彼が思い出さずとも、私の中にくすぶる想いが消えたことはない。
「わかりました。では今日は彼の体調のことを考えて帰ります。ですが明日、来ます。レオン、本人確認をお願いできるかしら。そして、すぐにお父様たちに連絡して、葬儀を止めなくては」
「そうだな、クローディア。急ぐべきはそこからだ。サーシャ嬢、レーヴァン隊長のいる部屋へ案内してください」
レオンがサーシャ嬢と共に奥の部屋に行くのを見届けて、私は一旦馬車に戻る。レーヴァンが生きていた。その事実が確認できれば、やらなければいけないことは多い。
彼が生きていてくれた。そのことに浸る暇もなく、私は急いで各方面に連絡をする手筈を考える。このままでは、彼は死んだことになってしまうからだ。
「レーヴァン、体調はどう? 頭痛は治ったかしら?」
「あ、あぁ……、もう大丈夫だ」
サーシャ嬢の家に行くと、俺は客室に案内された。クローディアと会ったことが強い刺激になったのか、その日、頭痛に襲われた俺は、彼女と話したいと思っていたが先方が遠慮したと聞く。
だが、生存確認だけは急がなくてはいけない為、レオンだけが部屋に入って来た。
「隊長、レーヴァン隊長。少しお話を伺ってもよろしいでしょうか?」
「あぁ、頼む。俺は……三年より前のことがわからない。サーシャ嬢が教えてくれているが……果たしてそれが真実かどうか、検証もできない」
「隊長……、えぇ、お話し、しましょう……隊長、レーヴァン隊長!」
俺を見て、感極まって泣き出したレオン。聞けば騎士団を辞めてずっと、俺を探していたという。男泣きに泣いた彼は、自分以上にクローディアは俺を慕っているという。
「だが、彼女はもうすぐ結婚すると聞いた。もしかすると、俺の存在は邪魔になるんじゃないのか?その……彼女の結婚の」
7
お気に入りに追加
214
あなたにおすすめの小説
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
王子殿下の慕う人
夕香里
恋愛
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。
しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──?
「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」
好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。
※小説家になろうでも投稿してます
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
結婚した次の日に同盟国の人質にされました!
だるま
恋愛
公爵令嬢のジル・フォン・シュタウフェンベルクは自国の大公と結婚式を上げ、正妃として迎えられる。
しかしその結婚は罠で、式の次の日に同盟国に人質として差し出される事になってしまった。
ジルを追い払った後、女遊びを楽しむ大公の様子を伝え聞き、屈辱に耐える彼女の身にさらなる災厄が降りかかる。
同盟国ブラウベルクが、大公との離縁と、サイコパス気味のブラウベルク皇子との再婚を求めてきたのだ。
ジルは拒絶しつつも、彼がただの性格地雷ではないと気づき、交流を深めていく。
小説家になろう実績
2019/3/17 異世界恋愛 日間ランキング6位になりました。
2019/3/17 総合 日間ランキング26位になりました。皆様本当にありがとうございます。
本作の無断転載・加工は固く禁じております。
Reproduction is prohibited.
禁止私自轉載、加工
복제 금지.
「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。
あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。
「君の為の時間は取れない」と。
それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。
そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。
旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。
あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。
そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。
※35〜37話くらいで終わります。
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。
石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。
ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。
それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。
愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。
【完】愛人に王妃の座を奪い取られました。
112
恋愛
クインツ国の王妃アンは、王レイナルドの命を受け廃妃となった。
愛人であったリディア嬢が新しい王妃となり、アンはその日のうちに王宮を出ていく。
実家の伯爵家の屋敷へ帰るが、継母のダーナによって身を寄せることも敵わない。
アンは動じることなく、継母に一つの提案をする。
「私に娼館を紹介してください」
娼婦になると思った継母は喜んでアンを娼館へと送り出して──
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる