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第四章
4-12
しおりを挟む部屋に着いた時にはもう既に、媚薬が私の体中に作用していた。意識が朦朧とする中、求めるのは彼の手と口と……身体だ。
「あぁっ……あっ……うんっ……はぁっ、はぁっ、あああんっ……」
服がまとわりついていてもどかしい。かろうじて貴金属類を外すと、ドレスを脱ごうと手を動かすが後ろに届かない。
「もうっ、ああっ……脱ぎたいっ、脱ぎたいのっ……」
クレイグは泣いて頼む私の様子に必死になってドレスを脱がせようとするが、うまくいかない。私は自分の足につけていた短剣を取り出すと、自分でドレスを切り裂いた。
「ディアっ、危ないっ」
自分の肌まで切ってしまう勢いで、私は短剣を動かしていた。その腕をクレイグが抑えると、彼は私の代わりに短剣を使いコルセットの紐を切り始めた。最後の紐が切れると、パサリと胸を締め付けていたものが落ちていく。
「はぁ……ぁぁ……」
コルセットを外して、ようやく息を吸いこむことができる。ドレスも切り裂いていて、私が身に着けているのは紐で結ぶタイプのショーツだけだ。でもそれも、直ぐに外してしまう。
クレイグの前で、私はこんなにも肌を見せたことはない。けれど、今は体中を熱く流れる血が彼を求めている。引きちぎれそうな頭で、必死になって彼を呼んだ。
「クレイグ、クレイグっ……お願い、お願いだからっ」
ベッドに身体を横たえて、腕を伸ばして彼を求める。この熱をどうにかして欲しい、その思いに駆られた私は、クレイグの葛藤など何も考えることが出来ずにいた。
(Side クレイグ)
媚薬の作用の出たクローディアは、その目を蕩けさせて私を見てくる。彼女は、私ではなくレーヴァンを選び彼に抱かれた。その事実に一度は打ちのめされたが、それはレーヴァンが前線に配置されたために焦った彼女の決断だ。
熱に浮かされた状態では、他のことを考えるのは難しいだろう。待つことは慣れている。幼い頃から、彼女だけが私の中の唯一の女性なのだ。
その、ブルーラベンダーの瞳。騎士の訓練は厳しいのか肌にはいくつもの傷跡が残っている。エール王国にいる間だけでも、私に甘えて欲しいと常に傍にいるようにしていたが、父親から厳しく育てられているクローディアは、甘えることを知らない少女だった。
そのクローディアが、私を求めて腕を伸ばしている。何もつけていない白くたわわな乳房が揺れている。ぷくり、とピンクに染まった乳首が目に留まるが、今ここで彼女をその思いのままに抱けば、後で苦しくなるのはクローディアだ。
私は自分の首に締めていたネクタイを外すと、それを彼女の目にあてて縛る。
「クレイグ?」
「私のことを、彼だと思えばいい。今は、媚薬を抜くために触るよ」
ベッドに二人で座り、後ろからクローディアの丸みのある身体を包み込むように抱きしめた。少女であった彼女は、いつのまにか豊かなふくらみのある乳房を持つ女性へと成長していた。胸を持ち上げるように下から支えると、その重みを掌で感じる。
そして彼女の肩に顔を近づけると、ツンと汗と一緒に彼女の香りが鼻につく。雌の匂いだ。それだけで全身の血が下半身に集まるのを感じる。今、ただの雌となったクローディアの相手ができるのは、ただの雄となれる私だけだ。
初めて会った頃、彼女はまだ三歳の赤ん坊をちょっと卒業しただけの、幼児だった。十歳にして既に数学を解くことに面白みを感じていた私は、神童とも天才とも言われていた。その私をタチアナ様が見出し、婚約者として選ばれた。
クローディアを気に入ったというよりも、タチアナ様に選ばれたことが誇らしかった。公爵位を継ぐのはクローディアであるが、その配偶者としての地位と商会が与えられる。将来を見越し、私は勉学に集中し学年を飛ばして学位を取り、卒業した。
思春期に入ると、どうしても将来の妻となるクローディアをそうした目で見てしまう。だが、まだ六,七歳の彼女に欲情した自分が許せなくなり、私はしばらくクローディアと距離をとるようになった。
彼女も女性らしい体つきになった頃に会うと、私の中に眠っていた欲望が再びむくむくと芽を出した。だが、まだ子どもの域を出ない彼女に対し、私の周囲には女性が絶えない。
彼女に手を出すわけにはいかない。私は欲望の対象として女性と遊ぶことはあったが、まさかそれが彼女を苦しめていたとは、その時はわかっていなかった。
私の中には常に、クローディアがいる。共に成長する過程で、彼女のことを大切に思うようになった。時間をかけて熟成した愛に、いつか彼女も気がつくだろう。そう思うことで、もう一人の婚約者がいようと気にはならなかった。
だが、クローディアはレーヴァンを選んだ。しかし今、彼はここにいない。その生死もわからない。
苦し気に息を吐くクローディアの顎を持ち、横を向かせる。ネクタイで目を覆っている今、彼女が思い浮かべるのは私ではない。
——それでもいい、それでいい。
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