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第四章

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「これはこれは、美しい方。初めてお会いするようですが、お名前を伺っても?」

「私、こちらには遊びに来ただけですので、失礼しますね」

 舞踏会のホールにつくと、そこには首都にいる貴族が集められており、大勢の人でにぎわっていた。

「クレイグ、さっきから話しかけられてばかりなの。もうっ、どうにかして」

「ははっ、君も商人の端くれなら、商機と思って関係を築いていかないと。ホラ、あそこには宰相がいるよ」

 これまで何度も舞踏会なるものに参加してきたが、全く知らない人達の中に入るのは初めてだ。声をかけられて話をすることはできても、自分から話しかけていくのはなかなか勇気がいる。

 けれど、クレイグはブリス王国にいた時も、周囲に知る人などいないにも関わらず彼の周囲には常に人がいた。私も見習わなくては。

 今夜は何とかしてダストン王太子殿下と話がしたい。宰相は王太子派と聞く。彼であれば、ダストン殿下の近くに行けるかもしれない。

「クレイグ……、って、もう……」

 彼は既に他の男性と話をしている。男性同士であれば、商談をしやすいが私は女性なのだ。こちらから話しかけるのは勇気がいる。

「ごきげんよう、宰相閣下。今夜は楽しまれていますか?」

 それでもクレイグに言われたのだ。私はすり減ってしまった勇気のかけらを奮い起こして、宰相に話しかけた。

「おぉ、あなたは……、失礼ですが、エール王国から来られた方でしょうか?」

「っ、はい。シュテファーニエ公爵が娘、クローディア・シュテファーニエです。今回はこのようなお祝いの時を一緒に過ごすことができ、嬉しく思います」

「あなたが……宝石姫ですか。これはこれは、噂通りお美しいお方だ」

 フェイルズ国の宰相である彼は、白髪の混じる髪を後ろになでつけ、何か考えるような視線で私を見つめてきた。その目の下には、化粧では隠しきれないクマがある。彼も苦しい戦況の中、苦しんでいるようだ。

 敵地とはいえ、ここは前線から離れた首都の、それも王宮である。ブリス王国もそうであるが、今回はお互い辺境地の小競り合いに近いものがある。そのため、前線から遠く離れた地では戦時中と実感しにくい。

 さらにフェイルズ国はいつでも隣国を攻めて、そして領地を広げ、時にそれを返還して賠償金を得ることを繰り返している。常に戦時中となると、人々の感覚も狂うものだ。

「宰相、そちらの美しい姫はどなたかな」

 私が宰相と話をはじめようとしたその時、声をかけてきたのはダストン殿下であった。

「まぁ、初めまして。私はクローディア・シュテファーニエと申します。ダストン殿下とお見受けしますが」

「あぁ、私がダストンだ。エール王国の宝石姫、ようこそ我がフェイルズ国へ」

 ダストン殿下は、その銀色の長髪を一つにまとめ黒く光る双眸を怪し気に光らせて私を見た。クレイグよりも十歳ほど年上である彼は、黒に銀糸で刺繍をしたフロックコートをまとっている。そのコートの下には、屈強な男の体つきをしていることは、容易に想像できた。

 どうやら、宰相にしてもダストン殿下にしても、エール王国から私が来て今日参加していることを知っていたようだ。そうであれば、話は早い。

「私のことをご存知でしたか、嬉しいですわ」

 にこやかに笑顔を返すと、ダストン殿下も目を細めて私を見つめる。確か、彼はもう三十を過ぎて妻と子もいるはずだ。そんな人が、まさか私に懸想することもあるまい、と思うのだけど。

 彼が私を見る視線の奥に、怪しい熱を感じる。今にも舌なめずりしそうな唇を開いて彼は、私と話がしたいと言ってきた。

「っ、はい、私も殿下とお話できると嬉しいのですが……、あの、連れの者も一緒でよろしいでしょうか?」

「ふっ、連れの者も一緒に、か。つれないものだな。まぁいいだろう、今夜は面白くなりそうだ」

 そうして目配せをして、私を王宮の奥へと案内する。私は急ぎクレイグを呼ぶと彼も相手がダストン殿下であることを見て、私のところへとやってきた。

「クローディア、やるじゃないか。見直したよ、ダストン殿下とこれで話ができる」

「そうね、クレイグ。これからが本番ね」

 私たちはひっそりと話をすると、ダストン殿下の執務室に案内をされた。ホールの喧騒から離れたそこは、ひっそりとしていた。


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