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第四章
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「レオン、この箱はこっちでいいの?」
「あぁ、そこに置いて。後、細かなことはサーシャ嬢に聞いてくれ」
レオンは念のため、クレイグと会ってから返事をくれることになった。私の言葉だけでは頼りなく感じるのであろう、でもそれは仕方のないことだ。つい先日までは同級生として一緒に学んでいた仲間なのだ。いきなり雇用主になると言っても、割り切れないものがあるだろう。
本当はすぐにでもレーヴァンを探しに行きたいが、敵地に何の準備もなく行くことはできない。まずは運んできた物資を配ることになった。
「サーシャ嬢って、領主の娘の?」
通常、家族が王都に避難しないで前線の砦に残ることは少ない。だが、話を聞くとサーシャ嬢は自ら救護所の看護役を願い出たようだ。
「あぁ、彼女が物資と救護所の担当をしている。慣れたもんだよ、看護の知識もあるし、美人だからマドンナって呼ばれているんだ」
「そうなの、お嬢さまなのに凄いわね」
「それを言えばクローディア、お前なんか高位貴族、それも公爵令嬢がこんなところにいていいのか?」
「お父様の許可を頂いているわ、大丈夫よ」
私は単純にサーシャ嬢に感心したのだ。レオンと話していると、それらしい女性を見つけてレオンが声をかけた。
「あっ、サーシャ嬢、追加物資はこちらでいいですか?」
「まぁ、レオンさん。ありがとう、ところでもう怪我は大丈夫ですか?」
簡易なドレスにエプロンをあてた彼女は、とても可愛らしい容姿をした女性だ。
「あぁ、俺は大丈夫です。あ、サーシャ様、こちらは俺の同級生で」
「クローディアです、レオンと同じ騎士科にいたので、こんな格好をしていますが女性ですよ」
初対面、それも同年代の女性なので私は優し気に微笑んで彼女を見たが、サーシャ嬢はレオンに向けていた微笑みをスッと消した。
「騎士科にいたクローディア様って……あの、もしかしてレーヴァン様の」
「サーシャ様はご存じでしたか、彼女はレーヴァン隊長の婚約者です」
「レオン、それは……」
彼が行方不明の今、周囲にあまり気を遣ってもらいたくない私は、レオンを睨むと彼もしまった、といった顔をしている。
サーシャ嬢は、なぜか表情を消したまま私の顔をジッと見つめている。
「レーヴァン様の婚約者ですか。貴方が……」
初対面のはずが、彼女は私のことを試すように見つめた後、「それでは」と言ってその場を離れた。人当たりのいい、と聞いていた彼女であったが、私に接する態度は温かいものではなかった。同年齢の女性同士であっても、私たちは全く打ち解けることはなかった。彼女は、私を徹底的に無視してきたからだ。
「もうっ、なにあの女。私のことバカにしてっ!」
誰にも言えない憤りを枕にぶつける。サーシャ嬢は、徹底的に無視するだけでなく、あからさまに私を邪魔者扱いしてきた。
確かに、この砦にとって今の私は騎士でも何でもない、面倒な客人扱いだ。だがそれも、クレイグと彼が運んでくる物資を待っているのであって、邪魔をしたいわけではない。
サーシャ嬢を忌々しく思いつつも、彼女の献身がなければこの救護所が成り立たないのも事実だ。砦全体の騎士からマドンナと崇められている彼女の影響力は強い。明日からは、もっと過ごしにくくなるだろう。
一体、私の何が気に入らなくて意地悪をしてくるのかわからないが、これまでも意味のわからない嫉妬や妬みから来る悪戯や無視など、日常茶飯事だった。
イライラする気持ちを一旦口に出すと、すっと眠りが近づいてくる。
「明日からは、少し遠くまで探しに行こう」
レオンと共に、渓谷の辺りにレーヴァンを捜索に行く許可も出た。明日からは忙しくなるだろう。ふわぁ、と欠伸をして、枕を抱きしめる。彼の面影が残るこの部屋で、結局私は滞在させてもらっている。隊長でも何でもない私が特別待遇なのは、私が公爵令嬢という身分でもあるからだ。
——私は、私の戦い方で戦う。
そう決めたのは私。二つの公爵の名を持ち、巨大な商会の後継ぎである私にしか出来ない戦い。それを具体的に考えながらも、思い浮かぶのは彼のことだ。
今、レーヴァンはどこで、何をしているのだろうか。どうか、生きていて欲しい。そう願いながら今夜もレーヴァンの使っていたベッドに身体を横たえた。
「あぁ、そこに置いて。後、細かなことはサーシャ嬢に聞いてくれ」
レオンは念のため、クレイグと会ってから返事をくれることになった。私の言葉だけでは頼りなく感じるのであろう、でもそれは仕方のないことだ。つい先日までは同級生として一緒に学んでいた仲間なのだ。いきなり雇用主になると言っても、割り切れないものがあるだろう。
本当はすぐにでもレーヴァンを探しに行きたいが、敵地に何の準備もなく行くことはできない。まずは運んできた物資を配ることになった。
「サーシャ嬢って、領主の娘の?」
通常、家族が王都に避難しないで前線の砦に残ることは少ない。だが、話を聞くとサーシャ嬢は自ら救護所の看護役を願い出たようだ。
「あぁ、彼女が物資と救護所の担当をしている。慣れたもんだよ、看護の知識もあるし、美人だからマドンナって呼ばれているんだ」
「そうなの、お嬢さまなのに凄いわね」
「それを言えばクローディア、お前なんか高位貴族、それも公爵令嬢がこんなところにいていいのか?」
「お父様の許可を頂いているわ、大丈夫よ」
私は単純にサーシャ嬢に感心したのだ。レオンと話していると、それらしい女性を見つけてレオンが声をかけた。
「あっ、サーシャ嬢、追加物資はこちらでいいですか?」
「まぁ、レオンさん。ありがとう、ところでもう怪我は大丈夫ですか?」
簡易なドレスにエプロンをあてた彼女は、とても可愛らしい容姿をした女性だ。
「あぁ、俺は大丈夫です。あ、サーシャ様、こちらは俺の同級生で」
「クローディアです、レオンと同じ騎士科にいたので、こんな格好をしていますが女性ですよ」
初対面、それも同年代の女性なので私は優し気に微笑んで彼女を見たが、サーシャ嬢はレオンに向けていた微笑みをスッと消した。
「騎士科にいたクローディア様って……あの、もしかしてレーヴァン様の」
「サーシャ様はご存じでしたか、彼女はレーヴァン隊長の婚約者です」
「レオン、それは……」
彼が行方不明の今、周囲にあまり気を遣ってもらいたくない私は、レオンを睨むと彼もしまった、といった顔をしている。
サーシャ嬢は、なぜか表情を消したまま私の顔をジッと見つめている。
「レーヴァン様の婚約者ですか。貴方が……」
初対面のはずが、彼女は私のことを試すように見つめた後、「それでは」と言ってその場を離れた。人当たりのいい、と聞いていた彼女であったが、私に接する態度は温かいものではなかった。同年齢の女性同士であっても、私たちは全く打ち解けることはなかった。彼女は、私を徹底的に無視してきたからだ。
「もうっ、なにあの女。私のことバカにしてっ!」
誰にも言えない憤りを枕にぶつける。サーシャ嬢は、徹底的に無視するだけでなく、あからさまに私を邪魔者扱いしてきた。
確かに、この砦にとって今の私は騎士でも何でもない、面倒な客人扱いだ。だがそれも、クレイグと彼が運んでくる物資を待っているのであって、邪魔をしたいわけではない。
サーシャ嬢を忌々しく思いつつも、彼女の献身がなければこの救護所が成り立たないのも事実だ。砦全体の騎士からマドンナと崇められている彼女の影響力は強い。明日からは、もっと過ごしにくくなるだろう。
一体、私の何が気に入らなくて意地悪をしてくるのかわからないが、これまでも意味のわからない嫉妬や妬みから来る悪戯や無視など、日常茶飯事だった。
イライラする気持ちを一旦口に出すと、すっと眠りが近づいてくる。
「明日からは、少し遠くまで探しに行こう」
レオンと共に、渓谷の辺りにレーヴァンを捜索に行く許可も出た。明日からは忙しくなるだろう。ふわぁ、と欠伸をして、枕を抱きしめる。彼の面影が残るこの部屋で、結局私は滞在させてもらっている。隊長でも何でもない私が特別待遇なのは、私が公爵令嬢という身分でもあるからだ。
——私は、私の戦い方で戦う。
そう決めたのは私。二つの公爵の名を持ち、巨大な商会の後継ぎである私にしか出来ない戦い。それを具体的に考えながらも、思い浮かぶのは彼のことだ。
今、レーヴァンはどこで、何をしているのだろうか。どうか、生きていて欲しい。そう願いながら今夜もレーヴァンの使っていたベッドに身体を横たえた。
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