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第四章
4-2
しおりを挟む「クローディア、その……、実は捜索隊が組まれる予定だったんだ。だが……、傷病者が多すぎてそっちに人員を割けなくて」
レオンは申し訳なさそうに、泣きじゃくる私に声をかけた。捜索隊、その言葉を聞いた私は少し落ち着いてきたこともありレオンに問いかけた。
「捜索隊って、どういうこと?」
「あぁ、実はその戦場の近くには、大きな渓谷があって、川が流れている。普段はそれほどでもないが、あの戦闘のあった日は増水していて、川がわりと地表近くで流れていたんだ」
「レオン、それって」
「もしかして、レーヴァン隊長がその渓谷まで逃げることが出来て、川に落ちていたとしたら。万が一の可能性だが、流されて下流域で助かっているかもしれない」
「レオン!」
私は立ち上がると、レオンの首根っこを掴んで叫んだ。
「ちょっと、そんな情報があるなら初めに言ってよ! 可能性があるんでしょ! レーヴァンが生きているかもしれないのね!」
「ちょ、ちょっと待て、クローディア! 捜索隊を出せなかったと言っただろう!」
私が首を抑えているからか、ぐぎぎ、と変な声を出し始めたのでさすがにパッと手を離した。
「ご、ごめんっ、でもでも、どういうことなの?」
「だから、可能性は限りなく低いんだ。それに人手が足りないのはわかるだろう。今回、ようやく補給人員が来てくれたからいいようなものの、またいつ攻めてくるかわからない敵の陣地に、捜索隊を出す余裕はないよ」
「そうなのね、でもレオン。あなたはどう思うの?」
「お、俺か? 俺は……、レーヴァン隊長なら、川に逃げた可能性はある。あそこに渓谷があるのは知っていた。だが、傷を負った身体で流されたとして、生きているかどうかまでは」
声を小さくしたレオンに、それでも私は問い詰める。
「レオン、もし、もしも貴方だったら探しに行けるの?」
「俺か? あぁ、俺ならあの辺りの地形も知っているし、扮装してフェイルズ国に行くこともできる。俺も上官に頼んだんだ、だが、無理だと言われた」
「そう、そうなのね。……レオン、お願いがあるのだけど」
私は少し考えると、彼に提案することにした。
「騎士を辞めて、私の商会で働かない? しばらく、レーヴァンの捜索をするために働く人として、あなたを雇いたいの」
「なっ、俺が? お前のところで働くのかっ?」
「えぇ、待遇は今の給料の倍は出すわ。もちろん、危険地域手当とか、かかる経費は言って。レーヴァンが見つかった時は、報奨金も出すわ」
「そ、そんな待遇で、大丈夫なのか?」
「レオンこそ、一旦騎士を辞めてしまうと、なかなか戻れないけれど……でも、戻る時はお父様にお願いすれば、どこかに所属できると思うけれど。どうかしら」
「クローディア、お前……偉くなったんだな」
「……まぁね。一応、ブリス支部長をしているの。一応、だけど」
実際はクレイグがいなければ回らないけれど、レオンを雇うことぐらいは許されるだろう。万が一反対された時は、私の個人資産を動かせばいい。
「そうか、うん、クローディア……その話は一晩考えさせてくれ。それと、悪いが……レーヴァン隊長の私物を片付けて欲しいと上官が言っていた。隊長の部屋を、そろそろ空けたいそうだ」
「わかったわ。私物の整理ね。行ってくるわ」
レーヴァンが滞在していた部屋に行くと、彼がまるでそこにいるようだ。少し乱雑に置かれた衣類に、古びた鞄。この鞄は辺境に行く時はいつも使っていたものだ。まだ寝て起きたままのベッドの上は、シーツがよれている。枕には、まだ彼の匂いが残っているようだ。
「レーヴァン、必ず貴方を探し出すわ」
彼の部屋の整理が終わると、もう、夜は更けていてそのまま私はそこで休むことになった。まるで彼に抱かれているような、夜となった。
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