婚約破棄はまだ早い?男装令嬢、でも乙女!それは密かな二重婚約 〜幼馴染の純情騎士も、腹黒な美形商人も、どっちも素敵で選べませんっ!~

季邑 えり

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第四章

4-1

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 重傷者の家族数名と、王都からの応援部隊と共に旅立つ私は、男装をすることに決めた。この方が何かあったときに動きやすく、また盗賊などと戦闘となった場合には身を守るだけでなく、相手を倒しやすい。

 剣を腰に帯びるのも久しぶりだ。私の一番の武器は毒針ではあるが、やはり剣で対応できるのであればそれに越したことはない。

「クローディア嬢、まるで護衛騎士のようですな。馬にも乗って、はは、なかなか勇ましい方だ」

 今回の王都からの応援部隊のゼオ隊長は、そう言っては笑っている。それこそ彼が若かりし頃は、彼が戦場に出れば敵を十人屠ったと同じ、とさえ言われる達人なのだ。ゼオ隊長が来るということは、ブリス王国もここで一気に敵を叩く作戦に切り替えたのだろう。

「なぁにレーヴァンの奴も、すぐに見つかりますよ。アイツはようやく、俺のお眼鏡にかなった奴なんだ。戻ってきたら、俺の後を継いでもらわないと」

 そう言っている彼こそ次期騎士団長候補と言われている。随分とレーヴァンのことを可愛がっていることが、言葉の端々にわかる。婚約者としてはとても嬉しい。

 クレイグは今回、後から来る補給物品を運ぶためにまだ王都に残っている。揃い次第出発すると言っていたから、きっと私より遅れて来るのだろう。

 久しぶりに馬に乗ると、心地よい風が吹いている。辺境地までの道のりの道中、つい考えてしまうのはレーヴァンのことだけれど、一般人もいるため気が抜けない。

 大丈夫、彼にはまた会える。そう信じて私はつい下を向きがちになってしまう心を奮い立たせ前を向いた。





「レオン、ここにいたのね」

 辺境地に着いた私は、当時同じ部隊にいたレオンを見つけると、早速話を聞くために呼び出した。

「クローディア、よく来たな。まぁ、そうだよな。レーヴァン隊長を探しに来たんだろ?」

「えぇ、王都では情報が限られていたから。でも、あなたが生き残っていてくれて、良かったわ」

 辺境の砦は、今や負傷兵で溢れている。少しでも動くことの出来る者は、他の動けない者の看病に当たっている。人手と物資不足は明らかだった。

「あぁ、俺もレーヴァン隊長に救われたんだ、クローディア。……すまない」

 がくり、と頭を垂れたレオンを見て動揺するが、私は気丈にふるまった。

「レオン、詳しいことを教えて。何がどうなったの? どうしてレーヴァンは行方不明になったの?」

「それは……、あぁ、お前には本当のことを話すよ」

 そう言ってレオンは、彼の最後の姿について教えてくれた。

 レーヴァンの部隊は、王都から来た実戦経験のない隊員が多く、当初は苦労したようだ。次第に馴染んできたところで、フェイルズ国の大侵攻があり戦闘となった。

 当初、突撃してきたフェイルズ国の軍隊が優勢であったが、ブリス王国の辺境部隊も全員を投入して応戦した。その一つの部隊がレーヴァンの部隊であったという。

「それで、彼はいつもの通りの装備で出たのね」

「あぁ、レーヴァン隊長の指揮は凄かったよ、あの大剣が目印となって隊員を鼓舞してさ、勇猛な隊長だったよ」

「それで、どうなったの」

 声が震えてしまう。彼の最後の姿など、聞きたくはないけれど、ここで真実を知らなければ後悔してしまう。

「部隊のうちの、結構若いヤツがさ、こう……飛び出しちまってさ。命令以上に深入りするなって所を、敵陣に突っ込んじまった。それで部隊全体がこう、奴らについていこうとして。それを見たレーヴァン隊長が、部隊全体をまとめるために敵陣に切り込んだ」

「……それで、彼は」

「若い兵隊は、ケガはあったが何とか陣地まで戻ることが出来たんだが……どうやら、レーヴァン隊長が囮となってくれたから、らしい。最後の姿は、その若い兵隊によると……敵陣に突っ込んだ後は……馬から落ちて」

 そこで、レオンはいきなりウッと咳き込んだ。

「すまん、クローディア、俺が側近として控えていたのに……隊長の姿はそれ以降、行方不明だ。それと、戦場には、これが落ちていた」

 そう言って、レオンが私に渡してくれたのは、レーヴァンが普段使っていたという大剣の鍔の部分で、それには私の渡した紫色の剣帯飾り紐がついていた。紐には誰のかわからない、赤黒い染みがついている。

「これが、折れた刀身の傍にあった。その周辺にレーヴァン隊長らしき死体は見当たらなくて、俺も時間がなくて、持って来ることが出来たのはこれだけだ」

 剣が折れ、鍔が外れた。それは騎士にとって命の次に大切な、そして己を守るものを失ったことを意味する。私はその鍔を受け取った瞬間、彼の姿を思い出して膝をついた。

「あ……ああ、あああ!」

 嗚咽と共に涙が溢れてくる。この鍔を見るまでは、触るまでは敢えて想像していなかった、彼の死を身近に感じ、これまでになく私は大声で泣いた。


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