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第三章

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キョトンとした顔をして、レーヴァンは話を聞いている。

「私の身分だと騎士として戦場に行くことは出来ないけど、商人としてなら自由に行くことができる。それに、武力だけが戦争を止める手段ではないでしょう?」

「どういうことだ? 商人として戦場に行くなんて、死の商人にでもなるつもりか?」

 一般に、武器などを扱う商人のことを死の商人という。だが、母はそれだけは扱うことを許していない。一旦、武器を扱い始めると暗い噂が付きまとい、商売ができる国も限られてくるためだ。

「武器を扱うのではなくて、日用品とかぜいたく品とか。大丈夫、戦地だと言っても人がいる限り物流は止まらない。そこに入り込むつもり」

「クローディア、それでどうやって戦争を止めるというのか。日用品を売ることで戦争が止められるなら、こんな苦労はいらないはずだ」

「まぁ、そうね。ある程度の規模がないと出来ないわ。だから、私の使える資産を全部投入して始めるつもり」

 私はレーヴァンに計画の一端を伝えた。彼には経済の流れがわかりにくいようだったけれど、計画については概ねのことを理解してくれたようだ。

「わかった、クローディア。君には君の戦いがあるのだろう。それに反対はしないが、けして無理をしないで欲しい。君の安全が一番大切だよ」

「わかっているわ、レーヴァン。私にとって、あなたが一番大切なのと同じでしょ。無理はしないわ」

 そうして二人で会話をしていると、父からの伝言が届く。レーヴァンに宮廷騎士団まで来るように、との伝達であった。

 身支度を整えたレーヴァンは、行ってくるよ、と一言を残して出かけて行った。彼も生家のグランストレーム伯爵家に顔を出したいだろうし、今日は忙しくなるだろう。今夜は戻ってくるかどうかわからない。

 すぐにでもまた辺境に戻る、と言っていたけれど、父がもう少し休暇を取るように説得してくれるといいのだけど。

 初めて二人で夜を過ごした後の、未だ恥ずかしい身体をぎゅっと抱きしめる。この身体の至る所に、彼はキスをしてくれた。まだその感触は、生々しく残っている。

 それでも、辺境に行く前にもう一度会えるだろうか。浮き立つ心を抑えることができない私は、その時、本当に幸せだった。


*****

(Sideレーヴァン)

「俺が部隊長ですか? 指揮官ではなくて」

「あぁ、今回君を辺境から呼び寄せたのは他でもない、王都からの応援部隊を率いて欲しいからだ」

 宮廷騎士団長から発せられた言葉は、俺の想像を上回っていた。何か頼まれるだろう、ということは頭にあったが、せいぜい補給路のことか誰かの視察だろうと思っていた。だが、内容は俺の予想を超えていて、なかなか厄介だ。前線で新人の寄せ集めで戦うなど、果たして大丈夫なのだろうか。その不安から思わず声が震えてしまう。

「団長、その応援部隊の規模はどの程度でしょうか」

「今回は第一弾として、五十人程の志願兵が集まった。全員を率いる部隊長としてレーヴァン、君を任命することになった」

 学園の一介の指導官から、実戦部隊の長となることは、出世ともいえる。だが、これから俺が向かうのは前線だ。そこで気の知れた仲間と共に戦うのと、訓練も十分ではない志願兵を率いるのとでは、難しさが違ってくる。

 そして部隊長になるということは、俺は戦場で自分の命よりも優先すべき事柄が増えることを意味する。五十人の命を預かるのだ。

「わかりました、で、出発はいつになりますか?」

 この半年間、常に緊張を強いられてきた辺境の兵士達にも、疲れが見えてきている。この王都からの援軍は、彼らにとっても貴重な戦力となるはずだ。できれば一刻も早く行って、みんなが交代して休んでほしい。

「一週間後を予定している。お前もしばらく休め、親孝行でもしてこい」

 一週間とは、当初の予定よりも長く滞在することになる。クローディアとようやく結ばれた今は、単純に嬉しい。

「わかりました、出発までに装備を整えておきます」

 俺は騎士団の詰所を出ると、ルートザシャ公爵閣下に会うために彼の執務室を訪ねる。クローディアのことを話しておかなければ。俺は逸る心を抑えながら詰所を後にした。


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