46 / 88
第三章
3-12
しおりを挟む
キョトンとした顔をして、レーヴァンは話を聞いている。
「私の身分だと騎士として戦場に行くことは出来ないけど、商人としてなら自由に行くことができる。それに、武力だけが戦争を止める手段ではないでしょう?」
「どういうことだ? 商人として戦場に行くなんて、死の商人にでもなるつもりか?」
一般に、武器などを扱う商人のことを死の商人という。だが、母はそれだけは扱うことを許していない。一旦、武器を扱い始めると暗い噂が付きまとい、商売ができる国も限られてくるためだ。
「武器を扱うのではなくて、日用品とかぜいたく品とか。大丈夫、戦地だと言っても人がいる限り物流は止まらない。そこに入り込むつもり」
「クローディア、それでどうやって戦争を止めるというのか。日用品を売ることで戦争が止められるなら、こんな苦労はいらないはずだ」
「まぁ、そうね。ある程度の規模がないと出来ないわ。だから、私の使える資産を全部投入して始めるつもり」
私はレーヴァンに計画の一端を伝えた。彼には経済の流れがわかりにくいようだったけれど、計画については概ねのことを理解してくれたようだ。
「わかった、クローディア。君には君の戦いがあるのだろう。それに反対はしないが、けして無理をしないで欲しい。君の安全が一番大切だよ」
「わかっているわ、レーヴァン。私にとって、あなたが一番大切なのと同じでしょ。無理はしないわ」
そうして二人で会話をしていると、父からの伝言が届く。レーヴァンに宮廷騎士団まで来るように、との伝達であった。
身支度を整えたレーヴァンは、行ってくるよ、と一言を残して出かけて行った。彼も生家のグランストレーム伯爵家に顔を出したいだろうし、今日は忙しくなるだろう。今夜は戻ってくるかどうかわからない。
すぐにでもまた辺境に戻る、と言っていたけれど、父がもう少し休暇を取るように説得してくれるといいのだけど。
初めて二人で夜を過ごした後の、未だ恥ずかしい身体をぎゅっと抱きしめる。この身体の至る所に、彼はキスをしてくれた。まだその感触は、生々しく残っている。
それでも、辺境に行く前にもう一度会えるだろうか。浮き立つ心を抑えることができない私は、その時、本当に幸せだった。
*****
(Sideレーヴァン)
「俺が部隊長ですか? 指揮官ではなくて」
「あぁ、今回君を辺境から呼び寄せたのは他でもない、王都からの応援部隊を率いて欲しいからだ」
宮廷騎士団長から発せられた言葉は、俺の想像を上回っていた。何か頼まれるだろう、ということは頭にあったが、せいぜい補給路のことか誰かの視察だろうと思っていた。だが、内容は俺の予想を超えていて、なかなか厄介だ。前線で新人の寄せ集めで戦うなど、果たして大丈夫なのだろうか。その不安から思わず声が震えてしまう。
「団長、その応援部隊の規模はどの程度でしょうか」
「今回は第一弾として、五十人程の志願兵が集まった。全員を率いる部隊長としてレーヴァン、君を任命することになった」
学園の一介の指導官から、実戦部隊の長となることは、出世ともいえる。だが、これから俺が向かうのは前線だ。そこで気の知れた仲間と共に戦うのと、訓練も十分ではない志願兵を率いるのとでは、難しさが違ってくる。
そして部隊長になるということは、俺は戦場で自分の命よりも優先すべき事柄が増えることを意味する。五十人の命を預かるのだ。
「わかりました、で、出発はいつになりますか?」
この半年間、常に緊張を強いられてきた辺境の兵士達にも、疲れが見えてきている。この王都からの援軍は、彼らにとっても貴重な戦力となるはずだ。できれば一刻も早く行って、みんなが交代して休んでほしい。
「一週間後を予定している。お前もしばらく休め、親孝行でもしてこい」
一週間とは、当初の予定よりも長く滞在することになる。クローディアとようやく結ばれた今は、単純に嬉しい。
「わかりました、出発までに装備を整えておきます」
俺は騎士団の詰所を出ると、ルートザシャ公爵閣下に会うために彼の執務室を訪ねる。クローディアのことを話しておかなければ。俺は逸る心を抑えながら詰所を後にした。
「私の身分だと騎士として戦場に行くことは出来ないけど、商人としてなら自由に行くことができる。それに、武力だけが戦争を止める手段ではないでしょう?」
「どういうことだ? 商人として戦場に行くなんて、死の商人にでもなるつもりか?」
一般に、武器などを扱う商人のことを死の商人という。だが、母はそれだけは扱うことを許していない。一旦、武器を扱い始めると暗い噂が付きまとい、商売ができる国も限られてくるためだ。
「武器を扱うのではなくて、日用品とかぜいたく品とか。大丈夫、戦地だと言っても人がいる限り物流は止まらない。そこに入り込むつもり」
「クローディア、それでどうやって戦争を止めるというのか。日用品を売ることで戦争が止められるなら、こんな苦労はいらないはずだ」
「まぁ、そうね。ある程度の規模がないと出来ないわ。だから、私の使える資産を全部投入して始めるつもり」
私はレーヴァンに計画の一端を伝えた。彼には経済の流れがわかりにくいようだったけれど、計画については概ねのことを理解してくれたようだ。
「わかった、クローディア。君には君の戦いがあるのだろう。それに反対はしないが、けして無理をしないで欲しい。君の安全が一番大切だよ」
「わかっているわ、レーヴァン。私にとって、あなたが一番大切なのと同じでしょ。無理はしないわ」
そうして二人で会話をしていると、父からの伝言が届く。レーヴァンに宮廷騎士団まで来るように、との伝達であった。
身支度を整えたレーヴァンは、行ってくるよ、と一言を残して出かけて行った。彼も生家のグランストレーム伯爵家に顔を出したいだろうし、今日は忙しくなるだろう。今夜は戻ってくるかどうかわからない。
すぐにでもまた辺境に戻る、と言っていたけれど、父がもう少し休暇を取るように説得してくれるといいのだけど。
初めて二人で夜を過ごした後の、未だ恥ずかしい身体をぎゅっと抱きしめる。この身体の至る所に、彼はキスをしてくれた。まだその感触は、生々しく残っている。
それでも、辺境に行く前にもう一度会えるだろうか。浮き立つ心を抑えることができない私は、その時、本当に幸せだった。
*****
(Sideレーヴァン)
「俺が部隊長ですか? 指揮官ではなくて」
「あぁ、今回君を辺境から呼び寄せたのは他でもない、王都からの応援部隊を率いて欲しいからだ」
宮廷騎士団長から発せられた言葉は、俺の想像を上回っていた。何か頼まれるだろう、ということは頭にあったが、せいぜい補給路のことか誰かの視察だろうと思っていた。だが、内容は俺の予想を超えていて、なかなか厄介だ。前線で新人の寄せ集めで戦うなど、果たして大丈夫なのだろうか。その不安から思わず声が震えてしまう。
「団長、その応援部隊の規模はどの程度でしょうか」
「今回は第一弾として、五十人程の志願兵が集まった。全員を率いる部隊長としてレーヴァン、君を任命することになった」
学園の一介の指導官から、実戦部隊の長となることは、出世ともいえる。だが、これから俺が向かうのは前線だ。そこで気の知れた仲間と共に戦うのと、訓練も十分ではない志願兵を率いるのとでは、難しさが違ってくる。
そして部隊長になるということは、俺は戦場で自分の命よりも優先すべき事柄が増えることを意味する。五十人の命を預かるのだ。
「わかりました、で、出発はいつになりますか?」
この半年間、常に緊張を強いられてきた辺境の兵士達にも、疲れが見えてきている。この王都からの援軍は、彼らにとっても貴重な戦力となるはずだ。できれば一刻も早く行って、みんなが交代して休んでほしい。
「一週間後を予定している。お前もしばらく休め、親孝行でもしてこい」
一週間とは、当初の予定よりも長く滞在することになる。クローディアとようやく結ばれた今は、単純に嬉しい。
「わかりました、出発までに装備を整えておきます」
俺は騎士団の詰所を出ると、ルートザシャ公爵閣下に会うために彼の執務室を訪ねる。クローディアのことを話しておかなければ。俺は逸る心を抑えながら詰所を後にした。
2
お気に入りに追加
211
あなたにおすすめの小説
本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます
結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
本日、私は大切な人達を2人同時に失います
<子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。>
両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。
※ 本編完結済。他視点での話、継続中。
※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています
※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。
そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。
相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。
トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。
あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。
ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。
そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが…
追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。
今更ですが、閲覧の際はご注意ください。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。
あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。
「君の為の時間は取れない」と。
それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。
そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。
旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。
あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。
そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。
※35〜37話くらいで終わります。
巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた
狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている
いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった
そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた
しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた
当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった
この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる