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第三章
3-12
しおりを挟む「えっ、レーヴァンの休暇って、ほとんどないの?」
寝不足のまま二人で朝食を食べながら、休暇期間の確認をするとレーヴァンはすぐにでも辺境へ引き返すと言う。
「あぁ、前線に配備されたから、本当は余裕がないんだ。だが、今回はどうしても帰ってこいと指令があったから、戻って来た。クローディアにも会いたかったからな」
最後に、とはさすがにつけないけれど。それが含まれたような言葉だ。
「ねぇ、前線配備って、レーヴァンがそこまでしないといけないの? 後方部隊では、ダメなの?」
いくら腕がいいと言っても、彼は次期公爵になる人だ。できれば書面でもって確実にすれば、前線に行くことを止められるかもしれない。
「クローディア。勘違いをするな、これは俺の意思だ。騎士として今は戦う時なんだ。わかって欲しい」
「レーヴァン、私、あなたと籍だけでも入れておきたい。その準備はしているの、もうお父様も了解しているから、お願い。貴方が次期ルートザシャ公爵となる身であることを、確実にしておきたいの」
「……クローディア、それは、嬉しいけれど。少し待ってくれ」
「レーヴァン、お願い。私、貴方を失うことになったら耐えられない」
カチャリ、と飲んでいたカップをテーブルに置いた。
「大丈夫だ、クローディア。前線と言っても兵力の差がある。それに、今回俺は指揮官を任されそうだから、勝利して無事に帰ってくれば勲章ものだぞ。そうすれば、少しはアイツにも勝るところを証明できる」
レーヴァンはどうやらクレイグをライバル視しているようで、何かしらの武功を立てたい、その上で私と恥じることなく結婚したい、と言ってくれた。
「そんなこと、気にすることないのに。クレイグはクレイグだよ、彼には多分、商会の権利を渡せば話がつくと思うし、私もそこに異論はないから。それよりも、レーヴァンに傍にいて欲しい」
彼を説得したいところだけど、もう決心は変わらないようだった。ここまで来ると、同じく騎士を目指していた者としては理解するべきなのだろう。
「わかった、レーヴァン。もう、前線に行くなとは言わない。でも帰ってきて。生きて、帰ってきて。そして、ちゃんと私の純潔を奪った責任をとってね」
「あぁ、わかっている。俺が帰ってくるのはクローディアの所だけだ」
そう言うと、レーヴァンは蕩けるように目を細めて私をぎゅっと抱きしめてくれる。この温もりを離したくはないけれど、今は彼を信じて送り出す時なのだろう。そして、私は以前レーヴァンのために用意していた贈り物を思い出した。
「あっ、そうだ。レーヴァンに渡したい物があったの。剣帯飾りだけど、使ってくれる?」
私は部屋の隅に置いてあった紫色の剣帯飾りを持って来くると、レーヴァンに渡した。長い期間、私の部屋にあったその飾り紐を渡しながら、さりげなくテーブルの向かいに座る。
「ありがとう、この色を見るといつでもクローディアが傍にいるみたいだな。嬉しいよ」
そう言って、彼は飾り紐を手に取って大切そうに撫でながら、ぽつりと漏らすように呟いた。
「だが、クローディア。万一、俺に何かあったら……、俺のことを気にせずアイツのところに行けよ」
「え、どういうこと?」
突然、レーヴァンは真面目な目をして私を見つめた。
「さすがに俺も、万が一のことを考えないといけない身だ。もちろん、帰ってくるつもりだけど、絶対とは言えない。その時、俺はいつまでもクローディアを縛りたくはない」
「レーヴァン、ダメだよ、ちゃんと帰ってきて」
「聞くんだ、クローディア。俺は避妊しなかったし、君もしていないだろう。万が一、子どもができていて、俺が帰らなかったらどうするんだ。それでもあの男は、君と子どもを迎え入れてくれるだろ?」
確かに、クレイグであれば私のことを全て包み込んでくれるだろう、それだけの愛情を感じている。
「えぇ、そうかもしれない。けど、私っ」
「クローディア、今は戦争をしているんだ。王都にいると実感しないだろうが、辺境は違う」
「レーヴァン……」
「戻ってくるよ、クローディア。大丈夫だ、ただ、万が一のことを話しているだけだ」
そうして再び食卓に向かい、「食べよう」と言って私を励ましてくれる。私も、こうなると考えていたことをレーヴァンに話そうと思い、重い口を開いた。
「レーヴァン、私も戦場に行って、私なりに戦おうと思っているの」
覚悟を持って話すと、レーヴァンは手を止めて私を見た。
「どういうことだ、クローディア。君は跡取りだから派遣されることはないはずだ」
怪訝な顔をして、そして少し怒りながら私を見つめる彼は、心配と怒りと戸惑いを一緒にしたような顔をしている。
「戦場に行くと言っても、騎士としてではなくて。その、商売をしようと思っているの」
「は? 商売?」
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