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第三章
3-7
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「クローディア、クローディア!」
王都についてすぐにルートザシャ公爵家に立ち寄るとそこには、小雨に濡れて立っているクローディアがいた。
「レーヴァン……やっと、やっと会えた!」
馬を降りて彼女を抱きしめると、いつから待っていたのだろう、身体が冷え切っている。
「クローディア、なぜ外で待っていた? 身体が冷たくなっているから中に入ろう」
「貴方が来るのが、待ちきれなかったの。レーヴァン、私、あなたに言いたいことがあるの」
「わかった、だがまずは湯に入るんだ。こんな冷たい身体では、風邪をひいてしまう」
公爵家の家令たちも、クローディアのことを心配していたのだろう。既に湯の張られた浴槽にメイドと一緒に入っていく。俺も長旅の姿のままでいると、執事が気を利かせて俺にも湯を勧めてくる。
「あー、そうだな。すまないが湯を借りる。俺も相当汚いだろう、ありがたい」
普段は客用に用意されている浴室を借り、身を綺麗にすると既に着替えが置いてある。俺のサイズに合わせた服は、まるで俺の帰りを待っていたようだ。
「お嬢様から、レーヴァン殿が宿泊されるであろうと命じられております。どうぞ、おくつろぎください」
俺のことを良く知っている家令は、俺をなぜかクローディアの私室に案内した。聞くと、もう湯を浴びて部屋にいるという。
「クローディア、俺だ、入るぞ」
これまで何度も公爵家に来たことはあるが、彼女の部屋に入るのは子どもの時以来だ。記憶にあるその部屋は、あまり変わりがなかった。
「クローディア、大丈夫か」
彼女はソファーに座っているが、いつもの覇気がない。まるで魂の抜けた人形のようだ。だが、その瞳が俺をとらえると、パッと輝きを取り戻した。
「レーヴァン、来て」
風呂上りの彼女は簡単なドレスしか来ていない。その上にカーディガンを羽織っている姿は、欲情的だ。
「っ、クローディア……いいのか」
「うん、傍に来て」
彼女の隣に座ると、甘えるようにクローディアは俺の首に手をまわした。彼女の豊かな胸が俺の胸筋にあたる。すかさず俺は腰に手を回し、ぐっと引き寄せると、彼女の頭が俺の肩にかかる。
俺もシャツと下穿きしか来ていない。柔らかい彼女の身体が巻き付くように、俺の身体に寄り添っている。少し、石鹸の香りがする。
一日中馬を駆けて疲れている俺の理性は脆く、すぐに切れそうになる。
「クローディア、まずい。ダメだ……」
俺がため息にも似た弱音を吐くと、クローディアは首に回していた腕を外し、今度は俺の両頬を手で挟む。
「レーヴァン、私、あなたのプロポーズの答えを言っていなかった。だから……」
「クローディア」
「私、あなたと結婚したい。レーヴァン、あなたのことを愛しているの。私、今になって気がついたの」
瞳を涙で潤ませて、クローディアが囁く。俺はドクン、と体中の血が巡るその音を聞いた。
「い、いいのか……俺で」
常に俺の頭の中にあったのは、クレイグだ。彼を超える男にならなければ、クローディアを手に入れることは出来ない。そう思い、俺の出来ることを追求して辺境騎士団の中でも武功を立ててきた。
「レーヴァンじゃなきゃ、ダメなの」
そう言ってクローディアは俺の唇の上に、優しく、唇を置いた。ただ触れるだけのキスは、まるで彼女の誓いのようだ。
「クローディア、俺は……、俺は!」
「だから、どこにも行かないで。私と結婚して、レーヴァン」
思いつめたような瞳をしたクローディアは、俺を説得しようと言葉を重ねる。こんなにも、女の顔をした彼女を見るのは初めてだ。
「レーヴァン、抱いて。私にあなたを刻み付けて」
それは甘美な声で、しかしはっきりと意思をもった声で囁かれた。
王都についてすぐにルートザシャ公爵家に立ち寄るとそこには、小雨に濡れて立っているクローディアがいた。
「レーヴァン……やっと、やっと会えた!」
馬を降りて彼女を抱きしめると、いつから待っていたのだろう、身体が冷え切っている。
「クローディア、なぜ外で待っていた? 身体が冷たくなっているから中に入ろう」
「貴方が来るのが、待ちきれなかったの。レーヴァン、私、あなたに言いたいことがあるの」
「わかった、だがまずは湯に入るんだ。こんな冷たい身体では、風邪をひいてしまう」
公爵家の家令たちも、クローディアのことを心配していたのだろう。既に湯の張られた浴槽にメイドと一緒に入っていく。俺も長旅の姿のままでいると、執事が気を利かせて俺にも湯を勧めてくる。
「あー、そうだな。すまないが湯を借りる。俺も相当汚いだろう、ありがたい」
普段は客用に用意されている浴室を借り、身を綺麗にすると既に着替えが置いてある。俺のサイズに合わせた服は、まるで俺の帰りを待っていたようだ。
「お嬢様から、レーヴァン殿が宿泊されるであろうと命じられております。どうぞ、おくつろぎください」
俺のことを良く知っている家令は、俺をなぜかクローディアの私室に案内した。聞くと、もう湯を浴びて部屋にいるという。
「クローディア、俺だ、入るぞ」
これまで何度も公爵家に来たことはあるが、彼女の部屋に入るのは子どもの時以来だ。記憶にあるその部屋は、あまり変わりがなかった。
「クローディア、大丈夫か」
彼女はソファーに座っているが、いつもの覇気がない。まるで魂の抜けた人形のようだ。だが、その瞳が俺をとらえると、パッと輝きを取り戻した。
「レーヴァン、来て」
風呂上りの彼女は簡単なドレスしか来ていない。その上にカーディガンを羽織っている姿は、欲情的だ。
「っ、クローディア……いいのか」
「うん、傍に来て」
彼女の隣に座ると、甘えるようにクローディアは俺の首に手をまわした。彼女の豊かな胸が俺の胸筋にあたる。すかさず俺は腰に手を回し、ぐっと引き寄せると、彼女の頭が俺の肩にかかる。
俺もシャツと下穿きしか来ていない。柔らかい彼女の身体が巻き付くように、俺の身体に寄り添っている。少し、石鹸の香りがする。
一日中馬を駆けて疲れている俺の理性は脆く、すぐに切れそうになる。
「クローディア、まずい。ダメだ……」
俺がため息にも似た弱音を吐くと、クローディアは首に回していた腕を外し、今度は俺の両頬を手で挟む。
「レーヴァン、私、あなたのプロポーズの答えを言っていなかった。だから……」
「クローディア」
「私、あなたと結婚したい。レーヴァン、あなたのことを愛しているの。私、今になって気がついたの」
瞳を涙で潤ませて、クローディアが囁く。俺はドクン、と体中の血が巡るその音を聞いた。
「い、いいのか……俺で」
常に俺の頭の中にあったのは、クレイグだ。彼を超える男にならなければ、クローディアを手に入れることは出来ない。そう思い、俺の出来ることを追求して辺境騎士団の中でも武功を立ててきた。
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「クローディア、俺は……、俺は!」
「だから、どこにも行かないで。私と結婚して、レーヴァン」
思いつめたような瞳をしたクローディアは、俺を説得しようと言葉を重ねる。こんなにも、女の顔をした彼女を見るのは初めてだ。
「レーヴァン、抱いて。私にあなたを刻み付けて」
それは甘美な声で、しかしはっきりと意思をもった声で囁かれた。
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