39 / 88
第三章
3-6
しおりを挟む馬を走らせること三日間。はやる気持ちもあって、私はいつも以上に馬を酷使して駆けた。エール王国を出国する直前に父から連絡が来た。レーヴァンが一時王都に戻るため帰ってこい、と。
レーヴァンに会える、この半年ほどすれ違いばかりだった私たちは、あの誘拐事件の後にまともに話した時間がなかった。そうしている間に戦争は刻々と酷くなっている。
「お父様、只今戻りました」
早速父の執務室に寄ると父は疲れた顔をこちらに向け、そして話し始めた。
「クローディア、間に合ったか。明日レーヴァンが辺境から休暇で帰ってくるが、お前はこの意味がわかるか」
「お父様、もしかしてそれは……彼が、前線に派遣されると言うことですか?」
騎士団では前線に派遣されることが決まると休暇を与えられる。それは、死地に赴く前に家族などに別れの挨拶をするように、という配慮でもあった。
「なぜ前線に行くのですか? 彼は私の婚約者で、未来のルートザシャ公爵になる人です」
「あぁ、私もそれを主張したのだが、いかんせん、まだ正式に婚姻していない。さらに彼は辺境ではすこぶる評判がいい。前線部隊の一つを任されるようだ」
「お父様、お父様の力で何とかすることは出来ないですか? 戦地といっても、前線と後方部隊とでは死ぬ確率が違います。お父様、ルートザシャ公爵家として、そこまでの武功を求めるのですか?」
私は興奮して机を思わず叩いてしまうが、そんな私の様子を見た父は深く息を吐いた。
「クローディア、彼が、レーヴァンが前線配置を希望したのだ。それをさすがに覆すことはできない」
「っ……」
私は言葉が出なかった。戦地の中でも一番危険と言われる前線部隊に配置されるという。それは、彼に限りなく死が近いことを意味している。
私は今になって、彼を失うことへの恐怖を感じた。レーヴァンがいなくなる。その現実に私は震え、そして自分の隠れていた想いに今更気がついた。
——レーヴァン、貴方を失いたくはない。
*****
(Side レーヴァン)
王都を目指して馬を走らせる。辺境に来て半年がたち、ようやくまとまった休暇を取ることが出来た。
この半年間、開戦時の襲撃後は小競り合いが続いていたが、大規模な戦闘は避けられていた。だがフェイルズ国の兵士が国境に留まっていることは常に緊張感を生んでいる。
クローディアにプロポーズをしてから、もう既に半年もたっている。目まぐるしく変わる戦況に、俺は日々翻弄されていて、それだけの月日が流れている感覚がなかった。
「もう、卒業したよな、クローディア……」
あの跳ねっ返りは今、どうしているのだろうか。卒業後に辺境騎士団に入団したレオンに聞くと、彼女は騎士団に所属するのではなく、エール王国に行ったと聞きほっとしたことを思い出す。
戦場には来るな、それが俺の本心だった。彼女にはあの現場を体験しないで欲しい。
「しまった、ブローチを購入していたのに」
クローディアに俺からの愛のメッセージを込めたブローチ。もう半年以上前に頼んだものが、なぜか俺の手元に届いていない。帰る前に宝飾店を訪ねようと思っていたことをすっかり忘れていた。
仕方がない、また何か別のものを用意しよう。とにかく今はクローディアに会いたい。婚約してからこれほど会わなかったのは初めてだ。
エール王国にいるクローディアの元に俺の休暇の知らせが届くように頼んだから、帰ってきていて欲しい。
会いたいんだ、クローディア。
俺は逸る心のままに馬を駆けた。パラついた雨に濡れたがそれも気にすることなく、俺は馬を駆けた。
6
お気に入りに追加
209
あなたにおすすめの小説
本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます
結城芙由奈
恋愛
本日、私は大切な人達を2人同時に失います
<子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。>
両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。
※ 本編完結済。他視点での話、継続中。
※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています
※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
伯爵は年下の妻に振り回される 記憶喪失の奥様は今日も元気に旦那様の心を抉る
新高
恋愛
※第15回恋愛小説大賞で奨励賞をいただきました!ありがとうございます!
※※2023/10/16書籍化しますーー!!!!!応援してくださったみなさま、ありがとうございます!!
契約結婚三年目の若き伯爵夫人であるフェリシアはある日記憶喪失となってしまう。失った記憶はちょうどこの三年分。記憶は失ったものの、性格は逆に明るく快活ーーぶっちゃけ大雑把になり、軽率に契約結婚相手の伯爵の心を抉りつつ、流石に申し訳ないとお詫びの品を探し出せばそれがとんだ騒ぎとなり、結果的に契約が取れて仲睦まじい夫婦となるまでの、そんな二人のドタバタ劇。
※本編完結しました。コネタを随時更新していきます。
※R要素の話には「※」マークを付けています。
※勢いとテンション高めのコメディーなのでふわっとした感じで読んでいただけたら嬉しいです。
※他サイト様でも公開しています
貴妃エレーナ
無味無臭(不定期更新)
恋愛
「君は、私のことを恨んでいるか?」
後宮で暮らして数十年の月日が流れたある日のこと。国王ローレンスから突然そう聞かれた貴妃エレーナは戸惑ったように答えた。
「急に、どうされたのですか?」
「…分かるだろう、はぐらかさないでくれ。」
「恨んでなどいませんよ。あれは遠い昔のことですから。」
そう言われて、私は今まで蓋をしていた記憶を辿った。
どうやら彼は、若かりし頃に私とあの人の仲を引き裂いてしまったことを今も悔やんでいるらしい。
けれど、もう安心してほしい。
私は既に、今世ではあの人と縁がなかったんだと諦めている。
だから…
「陛下…!大変です、内乱が…」
え…?
ーーーーーーーーーーーーー
ここは、どこ?
さっきまで内乱が…
「エレーナ?」
陛下…?
でも若いわ。
バッと自分の顔を触る。
するとそこにはハリもあってモチモチとした、まるで若い頃の私の肌があった。
懐かしい空間と若い肌…まさか私、昔の時代に戻ったの?!
帝国最強(最凶)の(ヤンデレ)魔導師は私の父さまです
波月玲音
恋愛
私はディアナ・アウローラ・グンダハール。オストマルク帝国の北方を守るバーベンベルク辺境伯家の末っ子です。
母さまは女辺境伯、父さまは帝国魔導師団長。三人の兄がいて、愛情いっぱいに伸び伸び育ってるんだけど。その愛情が、ちょっと問題な人たちがいてね、、、。
いや、うれしいんだけどね、重いなんて言ってないよ。母さまだって頑張ってるんだから、私だって頑張る、、、?愛情って頑張って受けるものだっけ?
これは愛する父親がヤンデレ最凶魔導師と知ってしまった娘が、(はた迷惑な)溺愛を受けながら、それでも頑張って勉強したり恋愛したりするお話、の予定。
ヤンデレの解釈がこれで合ってるのか疑問ですが、、、。R15は保険です。
本人が主役を張る前に、大人たちが動き出してしまいましたが、一部の兄も暴走気味ですが、主役はあくまでディー、の予定です。ただ、アルとエレオノーレにも色々言いたいことがあるようなので、ひと段落ごとに、番外編を入れたいと思ってます。
7月29日、章名を『本編に関係ありません』、で投稿した番外編ですが、多少関係してくるかも、と思い、番外編に変更しました。紛らわしくて申し訳ありません。
王子殿下の慕う人
夕香里
恋愛
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。
しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──?
「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」
好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。
※小説家になろうでも投稿してます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる