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第三章

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 馬を走らせること三日間。はやる気持ちもあって、私はいつも以上に馬を酷使して駆けた。エール王国を出国する直前に父から連絡が来た。レーヴァンが一時王都に戻るため帰ってこい、と。

 レーヴァンに会える、この半年ほどすれ違いばかりだった私たちは、あの誘拐事件の後にまともに話した時間がなかった。そうしている間に戦争は刻々と酷くなっている。

「お父様、只今戻りました」

 早速父の執務室に寄ると父は疲れた顔をこちらに向け、そして話し始めた。

「クローディア、間に合ったか。明日レーヴァンが辺境から休暇で帰ってくるが、お前はこの意味がわかるか」

「お父様、もしかしてそれは……彼が、前線に派遣されると言うことですか?」

 騎士団では前線に派遣されることが決まると休暇を与えられる。それは、死地に赴く前に家族などに別れの挨拶をするように、という配慮でもあった。

「なぜ前線に行くのですか? 彼は私の婚約者で、未来のルートザシャ公爵になる人です」

「あぁ、私もそれを主張したのだが、いかんせん、まだ正式に婚姻していない。さらに彼は辺境ではすこぶる評判がいい。前線部隊の一つを任されるようだ」

「お父様、お父様の力で何とかすることは出来ないですか? 戦地といっても、前線と後方部隊とでは死ぬ確率が違います。お父様、ルートザシャ公爵家として、そこまでの武功を求めるのですか?」

 私は興奮して机を思わず叩いてしまうが、そんな私の様子を見た父は深く息を吐いた。

「クローディア、彼が、レーヴァンが前線配置を希望したのだ。それをさすがに覆すことはできない」

「っ……」

 私は言葉が出なかった。戦地の中でも一番危険と言われる前線部隊に配置されるという。それは、彼に限りなく死が近いことを意味している。

 私は今になって、彼を失うことへの恐怖を感じた。レーヴァンがいなくなる。その現実に私は震え、そして自分の隠れていた想いに今更気がついた。

——レーヴァン、貴方を失いたくはない。


*****

(Side レーヴァン)

 王都を目指して馬を走らせる。辺境に来て半年がたち、ようやくまとまった休暇を取ることが出来た。

この半年間、開戦時の襲撃後は小競り合いが続いていたが、大規模な戦闘は避けられていた。だがフェイルズ国の兵士が国境に留まっていることは常に緊張感を生んでいる。

 クローディアにプロポーズをしてから、もう既に半年もたっている。目まぐるしく変わる戦況に、俺は日々翻弄されていて、それだけの月日が流れている感覚がなかった。

「もう、卒業したよな、クローディア……」

 あの跳ねっ返りは今、どうしているのだろうか。卒業後に辺境騎士団に入団したレオンに聞くと、彼女は騎士団に所属するのではなく、エール王国に行ったと聞きほっとしたことを思い出す。

 戦場には来るな、それが俺の本心だった。彼女にはあの現場を体験しないで欲しい。

「しまった、ブローチを購入していたのに」

 クローディアに俺からの愛のメッセージを込めたブローチ。もう半年以上前に頼んだものが、なぜか俺の手元に届いていない。帰る前に宝飾店を訪ねようと思っていたことをすっかり忘れていた。

 仕方がない、また何か別のものを用意しよう。とにかく今はクローディアに会いたい。婚約してからこれほど会わなかったのは初めてだ。

エール王国にいるクローディアの元に俺の休暇の知らせが届くように頼んだから、帰ってきていて欲しい。

 会いたいんだ、クローディア。

 俺は逸る心のままに馬を駆けた。パラついた雨に濡れたがそれも気にすることなく、俺は馬を駆けた。


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