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第三章
3-2
しおりを挟む「クレイグ、また四か月後だね。学園を卒業したら、しばらくはエール王国で過ごす予定なの」
彼が帰国するその日、見送りを兼ねて宿泊先となっているホテルに行くと、一行は既に荷物をまとめて出発するところだった。
「クローディア、もう大丈夫か?」
「うん、お腹の青あざはまだ残っているけれど、体調は良くなったよ。あとピアスもありがとう」
そう言って片方のグリーンイエローのピアスを見せるように顔を向けると、クレイグは耳にかかる髪をかき上げてそのピアスを見た。
「いいね、君に似合っているよ」
「それでね、父からお礼のお酒と、これは私からの感謝の気持ち」
そう言ってワインの目録と私の選んだプレゼントを渡すと、早速クレイグは箱を開けた。
「あぁ、ラベンダー色のネクタイか。ありがとう、ディア」
「どういたしまして。誘拐事件の時は助けてくれてありがとう。父からもお礼を伝えて欲しいと言われました」
「いや、将来の義理の父親なのだから、手伝うのは当たり前だ。事件後に挨拶もできなかったが、私からもよろしく伝えて欲しい」
今回、外交団の一員として来たクレイグだったので、思ったように自由な時間はなかった。事件後は慌ただしくて、私や父との時間を作ることができなかった。
「でも父が言ったのよ、クレイグにお礼の品物を用意しなさいって。何が良いのか迷ったけど、クレイグっていつも紫色のネクタイを着けているでしょ。だから迷わず決めることができたけど、この色に何か意味があるの?」
「クローディア、君はどこまでも鈍感なんだな。君の髪と瞳は何色だ?」
そう言って彼は私の髪を一房握りしめる。それは疑いようもなくラベンダー色をしている。
「ラベンダーの色の、紫」
「そうだね。では、これは何色かな?」
彼は身に着けているネクタイを見せつけるように持ち上げた。
「紫色、少し濃い」
「そうだね。私はいつでも、君の色に縛られているつもりだけど。一つくらい、君を思い出すものを身に着けていてもいいだろう? 離れている時間が長いんだ。ははっ、まるで私は君に首根っこを押さえられているようだ」
「も、もうっ! クレイグ!」
はははっ、と笑った彼は私の頭を優しく撫でる。
「またしばらく、離れないといけないけれど。私の言葉を忘れないように。クローディア、よく考えて、私を選びなさい」
彼は撫でていた手をサッと私の後頭部に回して、顔を近づける。ふわり、と唇の上に重なるのはクレイグの唇だ。
「名残惜しいが、また。そうそう、レーヴァンには君の気持が決まるまで手をだすな、と伝えたから。君も慎重に行動するように」
クレイグは私に注意を促すと、そのまま帰国する人たちの中に入っていく。彼の後ろ姿を見ながら、唇の上に手を置くとそこは少し、熱を持っているようだった。
「クレイグ……、本当に?」
これまで憧れていた彼の言葉が胸に響く。確かにクレイグであれば、私の持つ二つの公爵位も商会も全て上手くさばいていけるだろう。選ぶとしたら、彼が正解なのかもしれない。
そう思う一方で、私の心の中には確実にもう一人の存在がいる。
レーヴァン、彼はまっすぐな情熱を私に向けてくれる。
どうしよう、本当に選ばないといけないのだろうか。でも、決めなければいけない。
私は唇をきゅっと噛みしめた。
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