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第二章

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「どうした、ディア」

「うーん、ちょっと、ね。あの黒装束の男にお腹を殴られちゃって。多分、青あざになってる気がする」

「なにっ、殴られただとっ?」

 クレイグは驚いて声を上げるが、このくらいの青あざは騎士として訓練していれば普通に起こりうる。大丈夫だよ、と彼に伝えるが納得してくれない。

「ディア、君は私の大切な婚約者なんだ。その身体も大切にして欲しい」

 そう言って私を横抱きにしようとする。

「ク、クレイグ、大丈夫だよ、歩けるよ」

「私の愛しい宝石姫。君は今怪我をしているんだ、甘えなさい」

 騎士でも何でもないのに、意外と力のあるクレイグは軽々と私を持ち上げる。こうなると、下手に抵抗しない方がいいので私は大人しく抱っこされることにした。いわゆる、お姫様だっこだ。むちゃむちゃ恥ずかしい。

「そういえば、クレイグは銃なんて持っていたんだね」

「あぁ、荒事は得意ではないが、自分の身は自分で守れないとな。高価ではあるが、それなりの効果はある」

 拳銃、という武器はそれほど一般的なものではない。理由は簡単で、高価なものだからだ。だが、クレイグは最近になって常に拳銃を持ち歩くようになったという。

「まぁ、まさか君のもう一人の婚約者に使うことになるとは思わなかったけれど、ね」

 そう言ってクレイグは少し口角を上げて笑った。

「そういえば、二人は一緒に来たんだね、いつ知り合ったの?」

 私が問いかけたところで、レーヴァンが走ってくるのが見える。私がクレイグに抱っこされているからか、ものすごいスピードで走ってきている。

「クローディア! どうした!」

 はぁっ、はぁっと珍しく息を切らしたレーヴァンが、私を心配しながらみている。

「あ、あのね。ちょっとお腹を殴られていて。ほ、本当は自分で歩けるんだけど、クレイグが心配して……」

 最後まで話す前に、レーヴァンがクレイグに向かって吠えた。

「クレイグ、後は俺が運ぶ」

 レーヴァンが手を差し出して、私を奪い取ろうとするが、クレイグはそんなレーヴァンを冷ややかに一瞥した。

「何を言う、彼女は私の婚約者だ。私が運ぶ。君はまだ、騎士団での仕事が残っているだろう。クローディアのことは任せるんだな」

 挑発的な態度で、今度はクレイグがレーヴァンに吠えた。二人は一触即発のような状態でにらみ合っている。

「あ、あのね……も、もうっ! お願いだから、二人とも喧嘩しないでっ!」

 何だろう……この既視感。私はまたも、二人の美丈夫に挟まれて困り果ててしまう。もうっ、お願いだから勘弁してほしい。二人の婚約者のうち、一人を選ばなければいけないだなんて、もう、無理っ!

 結局、騎士団に首根っこを掴まれて連れて行かれるレーヴァンを見ながら、クレイグはニコリと笑っている。私は深い、深いため息をつきながら、彼と二人で馬車に乗るのであった。


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