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第二章
2-12
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私は彼に従順なフリをして、その隙にレーヴァンに目配せをした。三,二,一……
ゴンっと鈍い音が響く。
私は思いっきり頭を後ろに振って、頭突きをすると男は一瞬だがふらりと身体が傾いた。
その隙にナイフを持っている手を叩くと、刃物はカランと音をたてて落ちていく。
「はぁっ」
向きを変えた私は気合を入れて、男の股間に蹴りを入れる。——決まった!
「うぐっ」
男は蹴られた股間を握りながら、ドサッと前に倒れた。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」
無事に男を倒すことができた私のところに、レーヴァンは走り出してきた。
「クローディア、無事か?」
ようやく近づくと彼に引き寄せられて、ぐいっと抱きしめられる。その予想しなかった行動に、私の方が固まってしまう。
「あのね、って、むむっ」
いきなりレーヴァンは私の頬を両手で挟むと、唇を合わせてきた。角度を変えて私の唇を食むように貪り始める。
「んーっ、んーっ!」
私は彼の胸をドンドンと叩くが、激しいキスが止まらない。レーヴァンは私を強く抱きしめながら、夢中になって私を貪る。そんな彼を止めたのは、珍しく銃を持ったクレイグだった。
「そこまでだ」
涼しい顔をしたクレイグは銃口をレーヴァンの頭にあてて、今にもカチャリと引き金を引きかけていた。
「クレイグ! 貴方まで来てくれたの?」
レーヴァンが銃口に気がつくと、両手を上げて私から離れた。
「レーヴァン、私の前で何をしている?」
静かに、だけど確実に怒っているクレイグは、私をレーヴァンの腕の中から引き離すと同時に私の口にキスをしてきた。
チュッとひと際大きなリップ音をさせて、でもすぐに私の耳元で囁く。
「続きはまた、後で」
思わずボッと顔が赤くなってしまうが、今はそれどころではない。良く見ると周囲には騎士団の人たちが大勢いる。クレイグは私を抱きしめながら、銃は既に上着の中に戻している。
「あ、あのっ、今組織の人たちが地下にいますが、私が痺れ薬の入った爆薬を仕掛けておいたので、うまく作用していれば今頃倒れていると思います」
「わかった」
騎士団はそう聞くと、布を口に充てて走って中に入っていく。
「あっ、そうだ、三人のゴロツキも別にいて、そっちが誘拐犯なんだけど、気絶させて縛ってあるの」
そう言うと更に別の騎士たちが、私の示す方向に走っていく。
三人のゴロツキの男たちは既に縄で縛ってある。
人身売買組織の人間も、屋敷に入った者たちは痺れ薬で倒れていた所を騎士団の人間によって捕らえられた。あの黒装束の男も、縄で縛られ連れられて行く時に爆薬を私が仕掛けたことを知ったようだ。
「その女っ、卑怯だぞっ、爆薬に痺れ薬を仕掛けるだとっ」
私を見て口を開いた男に、ニコリと笑って私は答えた。
「あら、ありがとう。卑怯って、私にとっては褒め言葉なの」
周囲にいた騎士団の人たちは皆、どうやら背筋が凍る思いがしたらしい。
「あっ、しまった」
レーヴァンは騎士団と一緒に屋敷の状況を確認するため慌ただしくしている間、私は耳を触ると片方のピアスを失くしていることに気がついた。
「ピアスか、その色は……レーヴァンの髪の色だな」
傍にいるクレイグはすぐに気がついて、私の片方の耳元を見ている。髪をさっと耳にかけると、じっとその何もついていないピアスホールを見ている。
「ディア、こっちの耳のピアスは私が贈ろう」
そう言って彼はもう一度、私の髪を耳にかけるとニヤッと笑った。あ、これは何か企んでいる顔だ。
「ええと、うん……ありがとう」
きっとクレイグのことだから、私には想像できないような額の宝石のピアスかもしれない。常に「上等な女は上等なものを身につけるように」と言っている人だ。そして私を飾ることは、実は母以上にお金に糸目をつけないことも知っている。
「あっ、痛っ」
ブーツを履きなおそうと屈むと、つい、黒装束の男に殴られた腹部が当たって痛い。
ゴンっと鈍い音が響く。
私は思いっきり頭を後ろに振って、頭突きをすると男は一瞬だがふらりと身体が傾いた。
その隙にナイフを持っている手を叩くと、刃物はカランと音をたてて落ちていく。
「はぁっ」
向きを変えた私は気合を入れて、男の股間に蹴りを入れる。——決まった!
「うぐっ」
男は蹴られた股間を握りながら、ドサッと前に倒れた。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」
無事に男を倒すことができた私のところに、レーヴァンは走り出してきた。
「クローディア、無事か?」
ようやく近づくと彼に引き寄せられて、ぐいっと抱きしめられる。その予想しなかった行動に、私の方が固まってしまう。
「あのね、って、むむっ」
いきなりレーヴァンは私の頬を両手で挟むと、唇を合わせてきた。角度を変えて私の唇を食むように貪り始める。
「んーっ、んーっ!」
私は彼の胸をドンドンと叩くが、激しいキスが止まらない。レーヴァンは私を強く抱きしめながら、夢中になって私を貪る。そんな彼を止めたのは、珍しく銃を持ったクレイグだった。
「そこまでだ」
涼しい顔をしたクレイグは銃口をレーヴァンの頭にあてて、今にもカチャリと引き金を引きかけていた。
「クレイグ! 貴方まで来てくれたの?」
レーヴァンが銃口に気がつくと、両手を上げて私から離れた。
「レーヴァン、私の前で何をしている?」
静かに、だけど確実に怒っているクレイグは、私をレーヴァンの腕の中から引き離すと同時に私の口にキスをしてきた。
チュッとひと際大きなリップ音をさせて、でもすぐに私の耳元で囁く。
「続きはまた、後で」
思わずボッと顔が赤くなってしまうが、今はそれどころではない。良く見ると周囲には騎士団の人たちが大勢いる。クレイグは私を抱きしめながら、銃は既に上着の中に戻している。
「あ、あのっ、今組織の人たちが地下にいますが、私が痺れ薬の入った爆薬を仕掛けておいたので、うまく作用していれば今頃倒れていると思います」
「わかった」
騎士団はそう聞くと、布を口に充てて走って中に入っていく。
「あっ、そうだ、三人のゴロツキも別にいて、そっちが誘拐犯なんだけど、気絶させて縛ってあるの」
そう言うと更に別の騎士たちが、私の示す方向に走っていく。
三人のゴロツキの男たちは既に縄で縛ってある。
人身売買組織の人間も、屋敷に入った者たちは痺れ薬で倒れていた所を騎士団の人間によって捕らえられた。あの黒装束の男も、縄で縛られ連れられて行く時に爆薬を私が仕掛けたことを知ったようだ。
「その女っ、卑怯だぞっ、爆薬に痺れ薬を仕掛けるだとっ」
私を見て口を開いた男に、ニコリと笑って私は答えた。
「あら、ありがとう。卑怯って、私にとっては褒め言葉なの」
周囲にいた騎士団の人たちは皆、どうやら背筋が凍る思いがしたらしい。
「あっ、しまった」
レーヴァンは騎士団と一緒に屋敷の状況を確認するため慌ただしくしている間、私は耳を触ると片方のピアスを失くしていることに気がついた。
「ピアスか、その色は……レーヴァンの髪の色だな」
傍にいるクレイグはすぐに気がついて、私の片方の耳元を見ている。髪をさっと耳にかけると、じっとその何もついていないピアスホールを見ている。
「ディア、こっちの耳のピアスは私が贈ろう」
そう言って彼はもう一度、私の髪を耳にかけるとニヤッと笑った。あ、これは何か企んでいる顔だ。
「ええと、うん……ありがとう」
きっとクレイグのことだから、私には想像できないような額の宝石のピアスかもしれない。常に「上等な女は上等なものを身につけるように」と言っている人だ。そして私を飾ることは、実は母以上にお金に糸目をつけないことも知っている。
「あっ、痛っ」
ブーツを履きなおそうと屈むと、つい、黒装束の男に殴られた腹部が当たって痛い。
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