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第二章

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「ルフィナ嬢、ルフィナ嬢。私よ、クローディアよ。そろそろ目を開けて」

 ベッドに横たわる彼女の頬をぺちぺちと叩くと、ようやくルフィナは目を開けて瞼をパチパチとさせた。

「お、お姉さま……私、どうしてここに」

「んっと、二人とも誘拐されたけど、あのね。ちょっと聞いて欲しい。今、貴方は私と間違えられているの。いい、誘拐犯には、そのままあなたがクローディアだと勘違いさせていて欲しい」

 私は起きたばかりの彼女に手短に説明した。どうやら身代金目的で公爵令嬢のクローディアが誘拐されたが、明日の朝に父が資金をもってやってくる予定であること。そして午後、人身売買の組織が来ることを伝えた。

「お姉さまっ、どうしてわかったのですか?」

「食事を持って来る男が教えてくれたわ。あと、今地下牢に囚われている女性達と一緒にいて、どうにかして組織をせん滅したいの」

「お、お姉さま、そんな危ないことを! わ、私がお姉さまを連れ出さなければ、こんなことには……」

「いいのよ、こんなことでもなければ、今地下牢にいる女性達を助けようとは思わなかった。人生、何が作用するのかわからないわね。いい? 明日、お父様に会った時にこの紙を渡して。あなたがクローディアとしてお父様の所にいてくれると、動きやすいわ」

 ともすると泣き出しそうな彼女を説得する。私一人であれば、なんとでもなるが、地下牢の女性達とルフィナ嬢とを守らなければ、となるとどうしても動きが鈍くなる。

 深夜の今、私はこうして地下牢を抜け出してルフィナ嬢のところに来た。窓から入れば、なんてことはない。入口の二人はウトウトと半分寝入っている。今、止めを刺してもいいができれば明日の朝は何事もなかったかのように、ルフィナ嬢を父の所へ届けたい。

 そのため、夕食を運んできた男にそれとなく予定を聞き出した。さらに、牢の鍵を開けたが女達はそのまま牢に閉じこもっているふりをしてもらった。今出ていかれれば、バレた時が恐ろしい。

 さて、ルフィナ嬢と打ち合わせも出来たことだし。私はスッと立ち上がると、今夜中に仕掛けておきたい武器を取り出した。

「ルフィナ嬢、いい? あなたはクローディアとしてお父様のところにいくのよ。そして、この屋敷であったことは忘れるの。いいわね、私が何をしていたか、とか。忘れてね」

 彼女も今から私が何をしようとしているのか、うすうす感づいたようだ。さすがに私のファン第一号である。

 また窓からそっと出て、私は暗闇の中に隠れる。夜明けまでにはセットしておきたい。私は音をたてないように忍び込み、準備ができるとまた地下牢に戻る。手足には再度、縄で縛られているかの如く軽く縛っておく。

 よもや、私が牢から抜け出して仕掛けをしたとは思わないだろう。私を怒らせたことを十分に味わうがいい。そう思いながら、牢の中で身を横たえた。私はこんな状況であるにも関わらず、明日がちょっぴり楽しみになってきたのであった。


 *****

(Sideレーヴァン)

 その日は朝から快晴であった。これまで追いかけていた人身売買組織を一網打尽にできる機会とあって、騎士団の面々も緊張感を持ちつつも漲るものがある。

「おそらく、誘拐犯が潜んでいると思われる屋敷はここだ。人身売買組織が女性達を引き取りに行く時、屋敷の中に入ったら行動を開始する。それまでは見つからないように、気をつけること」

 なんと、誘拐犯の潜んでいると思われる屋敷の情報をクレイグが掴んできた。騎士団が必死になって捜索していたが、彼は彼の情報網があるという。どうやって探し出した、と聞いたら

「企業秘密だ。真っ当なことしかしない騎士団とは違う。金の使い方を間違えなければ、情報は手に入るものだ」

 とサラッと言っていた。騎士団でその屋敷の裏をとると、やはり怪しいということだった。

「だが、まずはクローディアの安全が優先だ」

 クレイグにしてみれば誘拐された他の女性のことなど関係ない。クローディアのことになると必死だが、他のことに関しては悉く冷たくなるようだ。

 ルフィナ嬢のことにしても、傷つけるとクローディアが悲しむから、ということで保護することに賛成したにすぎない。

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