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第二章

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(Sideレーヴァン)

「クローディア嬢が何者かに攫われましたっ」

「なにっ? クローディアが?」

 緊急事態といって報告に来た者は、彼女が王都内で攫われたと伝えた。すかさずそこにいたクレイグが声を上げる。

「今日はスーレル殿下と一緒のはずだが、殿下は大丈夫なのか?」

「は、はいっ。自分はスーレル殿下から伝令を伝えるように命令されました。殿下はご無事です。ただ、一緒にいたクローディア嬢と知り合いとみられる令嬢のお二人が、姿を消してしまったとのことです」

 ガタンっと席を立つ公爵閣下は、顔を青くしている。俺は急いで情報を得るために騎士団に向かおうとしたところで、クレイグが声をかけた。

「閣下、今日のクローディアはスーレル殿下と出かけていました。情報であれば殿下の方が持っているでしょう、私であれば殿下と直接話すことができますので、まずはそちらに行ってまいります」

「う、うむ。わかった、ではよろしく頼む」

 部屋を出ようとしたところで今度は、ルートザシャ公爵家の家令がやってきた。

「か、閣下! このような手紙が先ほど届けられました。お嬢さまをっ、クローディア様を預かっている、と」

「何っ、そのような手紙が来たのか! 早く見せろ!」

 閣下は急ぎ中を読むと、どうやら身代金を十億ルータル、夕刻までに用意しろとある。

「そ、そんな……さすがにこれだけの現金をすぐに用意は」

 さらに顔を青くした閣下に向かい、クレイグが言葉をかけた。

「閣下、私が用意しましょう、十億でなくとも、まずは一億ルータルを用意します。その上で交渉すればよい。身代金目的の誘拐であれば、まだ良かったではありませんか。最悪、十億出せばいいわけですから」

「だが、さすがに十億ルータルをすぐに用意することなど、できるだろうか」

「お任せください、私であれば今日中に一億、明日には十億すぐに用意致します。しかし十億など、クローディアの命の値段としては安く見積もられたものです」

「そ、そうなのか?」

「そうですね。エール王国での商会の力を知る者であれば、百億は要求してもおかしくはないです。ということは、彼女の背景を詳しくは知らない者なのでしょう。甘くみたことを後悔させてみせますよ」

 彼はくっと口角を上げた。その顔の裏には、何かとてつもなく黒いものを感じて背筋がぞっとする。気のせいだと思いたい。

 とにかく、まずはそれぞれが情報と資金を集めるために動くこととなる。クレイグは資金だけでなく、この国で働く彼の秘書を支援要員として手配すると言った。そして部屋を出る前に俺に話しかけてきた。

「グランストレーム殿、まずは一旦休戦だ。クローディアの無事が最優先される今、情報が命だ。私は私のルートで情報を集めるが、とはいっても外国人の私に集めることのできる情報は限られている。君のルートでの情報が必要だ、頼む」

 そうして差し出された手を、俺はぐっと握った。クレイグは十億ルータルという資金に、支援要員を明日にでも用意できると言う。ここにきて俺は彼との違いを見せつけられるが、俺もこの国では少しは名の通った騎士だ。

「レーヴァンと呼んでくれ。まずはクローディアを無事に取り戻すことが先決だ」

「わかった。私のことはクレイグと。身代金目的であれば初動が重要になる。相手の裏をかいていけば、無事に取り戻せるはずだ」

「あぁ、わかった」

 俺たちは緊張感の中にあっても、彼女を取り戻すという使命に向かい協力することを決めた。

 そして閣下を見ると、手を額に当てて困った顔をしていた。

「閣下、心配かとは思いますが、俺たちが必ず見つけ出します」

「いや、レーヴァン。急いでクローディアの元に向かわねば。今日は王太子殿下と出かけたということは、あいつのことだ、暗器をしこたま仕込んでいるであろう。心配だ」

「確かに、クローディアのことは心配ですが、あいつも騎士の端くれですよ」

 そういったところで、閣下ははあっとため息をついた。

「心配なのはクローディアではない。いや、心配は心配だが、あいつがやりすぎて誘拐犯達をせん滅することの方が心配なのだ。最近のクローディアは、騎士としては卑怯な方法に偏っていて、それを恥とするどころか得意技として誇っている」

「うっ、言われてみれば確かに。毒針もしこたま持っているでしょうね」

「あぁ、せめて命だけでも残しておけばいいのだが」

 二人でうーん、と唸っていると、クレイグはそんな俺たちを見て一言呟いた。

「二人とも……クローディアはそんなに卑怯なのか?」

「卑怯だな」
「卑怯だ」

 間髪入れずに答える俺と閣下を見て、クレイグは小さくため息をついていた。


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