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第二章
2-4
しおりを挟むううぅ、しまった……、油断していた……
店の中で気を失ってから、どのくらい経ったのだろう。まだ生きているということは、私が襲われたのは身代金目的だろうか。それとも他の理由だろうか。まさか、エール王国ではなくブリス王国で狙われるとは思っていなかった。完全に私のミスだ。
スーレル殿下は大丈夫だろうか、彼が狙われたとなると国際問題になる。それを喜ぶのは、多分隣国のフェイルズ国か。
ふと、気を失う前の光景を思い出す。そうだ、ええと……ルフィナ嬢だ。彼女が絡んでいるように見えた。
目をそっと開けると、薄暗い家の中で手足を縄で縛られている。
「うぅぅ……う……」
女性の声が聞こえる。身体の向きを変えてみると、なんとルフィナ嬢も同じように縛られて床に寝転がされていた。時間がわからないが、日の傾きからするにどうやら夕刻前のようだ。窓からは傾いた日の光が差し込んでいる。
「ルフィナ嬢、大丈夫か?」
幸い口を縛られていなかったので声をかける。声を出しても構わないということは、この家は王都でも郊外の方なのか。家の様子を見ると、どこかの貴族の屋敷のように見える。
「い、痛い」
「ルフィナ嬢、どこが痛い?」
「はぁ……あぁ、お姉さま……ごめんなさい」
身体をくねらせて彼女に近づくと、泣き始めてしまった。
「ううっ、ぐすっ、う……お、お姉さま……私……」
「ルフィナ嬢、何があったのか教えて欲しい、どうしてこんなことを」
今、ここに閉じ込められている理由が知りたい。彼女が絡んでいるとして、どうしてこうなったのだろう。
「ごめんなさい……お姉さまが、もう、遠くに行かれてしまうと思って、私……ううっ、ぐすっ」
「ルフィナ嬢、私はどこにも行かないよ、どうしてそう思ったの?」
「だって、お姉さまが二人もの男性から、プロポーズされているのを見て……お姉さまは困っていると思って」
「うん、それで、どうしたの?」
あの場面を見られていたのか。しかし、そこからどうして私が攫われないといけないのか。
「お、お姉さまを助けようと。二人で、知らない国に行こうと、思って……私、私!」
ルフィナ嬢は感極まってまた泣き出してしまう。頼むから、泣くのではなくて教えて欲しい。
「それで、誰に何を頼んだのかな。ルフィナ嬢」
「お、お姉さま。わ、私、昨夜知らない男の方に声をかけられましたの。困っているお姉さまを助けたいのであれば、今日、あのお店にお姉さまだけを連れて来いって」
「そうなの。で、その知らない男の言う通りにしたの?」
「わ、私も怪しいと思ったのですが、それよりもお姉さまを助けられるなら! って……でも、でも。その人はお姉さまを気絶させるから、私が怒ったら今度は、わ、私をっ」
ルフィナ嬢はまたひどく泣き始めてしまう。だが、大筋の話は見えてきた。犯人は最初から私狙いでルフィナ嬢を利用したのであろう。彼女を使って私をおびき寄せるために。
「はぁ、参ったな」
思わずため息が出る。手を動かしてみるが、縛り方はどうやらプロの仕事のようだ。だが、これなら時間をかければ何とか解けると思うが、すぐには自由にならない。
どうやら犯人たちは、私がスーレル王太子殿下と一緒であったことには気がつかなかったようだ。ならば今頃、殿下の護衛が走っているに違いない。昼前に攫われたとすると、それから半日経っている。護衛達はお父様に私がいなくなったことを伝えるであろう。
もう既に捜索隊が組まれているに違いない。だが、この場所を探し出すことができるだろうか。
どうにかして捜索隊に私がここにいることを知らせたいけれど……。一人であれば、どうにかできたかもしれないが、今私の傍にはルフィナ嬢がいる。
彼女を助けながら自分が助かる道を探さないといけない。どうするべきか、どうしたらいいのか。床に転がりながら私は必死に考えていた。
その時ガチャリと扉が開き、ドカドカと男たちが入ってくる足音が聞こえた。
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