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第一章

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「それは、本当のことなのか?」

「……うん」

「わかった。詳しいことは、公爵閣下に聞くよ。俺も辺境から帰って来たばかりだから、挨拶に行く予定がある」

「いいの? 私も上手く説明できないから、父に聞いてもらえると助かるんだけど……」

「いいよ、クローディア。ああ、こっち向いて」

 そう言った彼は、私の顎を持ち上げて私の瞳を見つめている。するとスッと顔を近づけた彼は、私にチュッと軽く口づけた。

「!」

 今まで、こんな甘い仕草をされたことのなかった私はものすごく狼狽えてしまう。でも、そんな私をレーヴァンは優しい目で見つめている。

「クローディア、そのドレス姿は本当にきれいだ。驚いたよ、俺の贈ったものではないのが悔しいけど」

 レーヴァンはそう言うと、耳にかかっている髪をすっと撫でて、私の耳元をみつめた。

「そうだ、今日は君の誕生日だろう。この日にクローディアに会えると思って嬉しくて、辺境から急いで馬を走らせてきたよ」

 レーヴァンまで私の誕生日を覚えていてくれた! 驚く私を見つめながら、彼は内ポケットから何か小さな箱を取り出した。

「これは、誕生日プレゼント。今日君に上げることができて、嬉しいよ」

 それは小さな箱だったけれど、丁寧に包装されている。

「これ、プレゼント? いいの? …………ありがとう。今、開けていい?」

「あぁ、似合うといいのだけど」

 ガサゴソと包みを開けると、その中にあったのはピンクサーモンの色の宝石でできたピアスだった。

「あ、ピアス。可愛い、レーヴァンの髪の色だね」

 そう言って笑顔で彼を見ると、ちょっと照れているけれどレーヴァンも嬉しそうにしている。

「誕生日、覚えていてくれたんだね。ありがとう」

「あぁ」

 レーヴァンは何故か照れた顔をしているけれど、私の片手をとったままスッと片膝をついた。まるで、私に許しを請うようなこの姿勢は、そう、騎士が請願をする姿勢だ。

「クローディア、ようやく十八歳になった君に、結婚を申し込むよ。……君を生涯大切に守るから、私と結婚して欲しい」

 それは彼からのプロポーズの言葉だった。

 恭しく私の手に口づけを落とすレーヴァン。これは、この言葉が真実であることを示すものだ。

 私はまさか彼からプロポーズの言葉を聞くなんて想像していなかったから、言葉を出さなければと思うけれど何も出てこない。

 さっきから胸の鼓動が止まらない。体中の血がものすごい速さで全身を駆け巡っている。

「レ、レーヴァン。もしかして私のこと好きなの?」

 婚約者として傍にいたけれど、私のことは妹のような存在だと思っていた。
 今になってこんなことを聞く私を、レーヴァンは少し呆れたような顔をして見上げた。

「クローディア、好きでなければ君にプロポーズはできない」

 暗い庭園の中、ランプの灯りだけが周囲を照らしている。周囲には誰もいないのか、静寂なままだ。

「俺のことを、兄のようにしか思っていないことを知っている。でもクローディア、俺は君のことを一人の女性として……ずっと想ってきた。愛しているんだ」

 熱のこもった声で、レーヴァンが私に愛を囁く。

 あのレーヴァンが、私のことを愛している、と言っている。……信じられないくて、私は目を大きく見開いた。

「それに、君も今日でようやく成人だ。学園を卒業したら、そうだな、ゆっくり準備して二年後ぐらいに式を挙げるのはどうかな。それまでに俺のことを男として見てくれれば、それでいい」

 真剣な表情をした彼は、私を説得するように話してくれた。でも、私の気持ちがそれに追いつかない。

「レーヴァン、へ、返事は少し待って。私、クレイグのこともあって、直ぐに答えられない」

 私も声を震わせながら彼に応えると、レーヴァンは先ほど会ったクレイグの存在を思い出して立ち上がった。

「さっきの彼だね。彼も婚約者だと言っていたけれど。そのことは明日にでも閣下に聞くよ」

 レーヴァンは私の瞳の中に揺れる思いを見出したのか、それ以上何も聞かず、言わなかった。

 彼は腕を伸ばすと、私をゆっくりと抱きしめて囁いた。

「好きだよ、クローディア。俺の全てをかけて、君のことを愛している。……あんな男には、渡さない」

 最後にギュッと強く抱きしめて。けれどそれ以上は何もしないで、私たちはお互いのぬくもりを確かめ合う。

「も、もうホールに戻らないと」

 クレイグが探しに来るといけないから、という言葉は口にはしなかった。
 でも、それを感じたのであろうレーヴァンは、私の手を握りながら一緒にホールへと戻る。私は彼に、何も話すことができなかった。

 私は手の中にあるピアスを持ったまま、何も言葉を口にすることができなかった。

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