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第一章
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大丈夫。多分、大丈夫。二人が会うことはないだろう。
「そうでしたか、やはり大きな商会を任されているだけのことはありますな。これを機会に販路を広げてくだされば、我が国とブリス王国にとっても双方の利益となりますな」
ははは、とご機嫌になった宰相様は、そのまま部屋を後にすると私たちは、日程や移動手段の確認をするために王太子殿下と打ち合わせとなった。
「クローディア、久しいな。元気にしているか? クレイグも一緒だったか、それなら話が早い」
執務室に入るとスーレル王太子殿下がにこやかに挨拶をしてきた。
「スーレル殿下もご機嫌いかがですか? 今回は私のような者でも外交の一助になれれば幸いです」
「なんだクローディア。硬いことを言うな、お前が同伴すると聞いて私は嬉しいぞ。クレイグも一緒とあれば、何も遠慮はいらないからな、お前の国の面白い所を紹介してくれ」
どうやら私は殿下から直々に指名されていたようだ。付き合いが薄くなったとはいえ、幼い頃から親族として親しくしている。婚約者のクレイグも連れて行けば私との仲を誤解されることもない。そう思った殿下の策略だった。
「今回は私のパートナーだからな、頼むから女性に見える服装でいてくれ」
さらに私が男装をしていることも知っている。先が思いやられるが、説明を一からするよりは話が早い。
「わかりました、お力になれると嬉しいです」
ふわりと笑顔で挨拶をしながらも嫌な予感がする。
不思議とそうした予感は大抵外れない。それを私は身をもって体験することになった。
その日、ブリス王国の宮殿で開催されたスーレル王太子殿下の歓迎舞踏会では驚きの声が上がった。エール王国の王太子殿下の隣に立つシュテファーニエ公爵令嬢は、ブリス王国でも有名なルートザシャ公爵令嬢、クローディアでもあったのだ。
いつもの男装の騎士姿ではなく女性として麗しいドレスを着ている。デコルテを思いっきり出したマーメイドラインのドレスは銀色の布地にビジューがふんだんに縫い付けられ、輝いていた。
普段はトップで縛られることの多い髪を今夜はさらりと流して、ハーフトップで纏められている。ラベンダー色の髪は普段以上に艶やかで、大振りの耳飾りと共にティアラを冠していた。
「クローディア、今夜は特に美しいね。エールを代表する姫だね、私も鼻が高い」
「スーレル殿下、ドレスなどご用意くださりありがとうございます」
一緒にいるスーレル王太子殿下は金色にふわふわと輝く髪に紺碧の瞳をした、物語に出てくるような王子様だ。夜会服を纏った彼は高貴さを漂わせながらも親し気で会場にいる人々を魅了している。
「なに、エール王国としても君には輝いて貰わないとね。本来なら私の婚約者がする役割だけど、今夜は助かったよ」
最近、フェーブ国が不穏な動きをしていることもあり、エール王国とブリス王国の和平協定が再締結された。
そのことを祝う舞踏会だから、いつも以上に華やかな装いをした私は注目の的だった。
「クローディア、ダンスを」
既に殿下とは踊り終えている私のところに、クレイグが誘いに来た。彼もエール王国からの使節団の一員として一緒に来ている。
今夜の彼は銀色の刺繍のついた裾の長い上衣に、黒い脚衣を着ている。漆黒の髪がほっそりした輪郭を覆い、目尻が少し垂れ気味で右目の下の黒子が甘い顔立ちを際立たせていた。このブリス王国でも貴婦人方の注目を集めている。
ホールドをとり、彼のリードで踊りだすと周囲がまた騒めいた。なぜなら私が女性パートで踊るからだ。
「今夜は普段と違って視線が痛いけど、ディア、もしかして君のせい?」
「そうね、私の可愛い子猫ちゃん達からすると、あなたと殿下は何者? でしょうね……」
そう、普段は男装の麗人として絶大な人気を誇る私が、今夜はドレスを着て見目麗しい殿下と、これまた極上の男であるクレイグを隣に張り付けている。その為ここにいる女性陣の多くはクレイグを敵視しているのだ。
さすがに王太子殿下を睨むのは不敬なので、その痛い視線はクレイグに集中している。
「そうでしたか、やはり大きな商会を任されているだけのことはありますな。これを機会に販路を広げてくだされば、我が国とブリス王国にとっても双方の利益となりますな」
ははは、とご機嫌になった宰相様は、そのまま部屋を後にすると私たちは、日程や移動手段の確認をするために王太子殿下と打ち合わせとなった。
「クローディア、久しいな。元気にしているか? クレイグも一緒だったか、それなら話が早い」
執務室に入るとスーレル王太子殿下がにこやかに挨拶をしてきた。
「スーレル殿下もご機嫌いかがですか? 今回は私のような者でも外交の一助になれれば幸いです」
「なんだクローディア。硬いことを言うな、お前が同伴すると聞いて私は嬉しいぞ。クレイグも一緒とあれば、何も遠慮はいらないからな、お前の国の面白い所を紹介してくれ」
どうやら私は殿下から直々に指名されていたようだ。付き合いが薄くなったとはいえ、幼い頃から親族として親しくしている。婚約者のクレイグも連れて行けば私との仲を誤解されることもない。そう思った殿下の策略だった。
「今回は私のパートナーだからな、頼むから女性に見える服装でいてくれ」
さらに私が男装をしていることも知っている。先が思いやられるが、説明を一からするよりは話が早い。
「わかりました、お力になれると嬉しいです」
ふわりと笑顔で挨拶をしながらも嫌な予感がする。
不思議とそうした予感は大抵外れない。それを私は身をもって体験することになった。
その日、ブリス王国の宮殿で開催されたスーレル王太子殿下の歓迎舞踏会では驚きの声が上がった。エール王国の王太子殿下の隣に立つシュテファーニエ公爵令嬢は、ブリス王国でも有名なルートザシャ公爵令嬢、クローディアでもあったのだ。
いつもの男装の騎士姿ではなく女性として麗しいドレスを着ている。デコルテを思いっきり出したマーメイドラインのドレスは銀色の布地にビジューがふんだんに縫い付けられ、輝いていた。
普段はトップで縛られることの多い髪を今夜はさらりと流して、ハーフトップで纏められている。ラベンダー色の髪は普段以上に艶やかで、大振りの耳飾りと共にティアラを冠していた。
「クローディア、今夜は特に美しいね。エールを代表する姫だね、私も鼻が高い」
「スーレル殿下、ドレスなどご用意くださりありがとうございます」
一緒にいるスーレル王太子殿下は金色にふわふわと輝く髪に紺碧の瞳をした、物語に出てくるような王子様だ。夜会服を纏った彼は高貴さを漂わせながらも親し気で会場にいる人々を魅了している。
「なに、エール王国としても君には輝いて貰わないとね。本来なら私の婚約者がする役割だけど、今夜は助かったよ」
最近、フェーブ国が不穏な動きをしていることもあり、エール王国とブリス王国の和平協定が再締結された。
そのことを祝う舞踏会だから、いつも以上に華やかな装いをした私は注目の的だった。
「クローディア、ダンスを」
既に殿下とは踊り終えている私のところに、クレイグが誘いに来た。彼もエール王国からの使節団の一員として一緒に来ている。
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さすがに王太子殿下を睨むのは不敬なので、その痛い視線はクレイグに集中している。
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