14 / 88
第一章
1-14
しおりを挟む「レーヴァン様、プレゼントは選び終わりましたか?」
丁度いいタイミングで、サーシャ嬢が戻ってくる。俺は会計を終わらせて包みを受け取るところだった。
「あぁ、おかげでいい色のピアスを購入できました。サーシャ嬢のおかげです」
慣れないことをしていたので緊張していたが、ようやく終えることができてホッとした顔をすると、またサーシャ嬢はクスクスと笑いはじめる。
「本当に、レーヴァン様は純情ですのね。そんなお顔で愛されている婚約者の方が、羨ましいですわ。どんな方なのですか?」
「えっ、クローディアですか? アイツとは幼い頃から一緒にいるので、一番身近な存在というか。普段は男と変わらない恰好をしているので、あぁ、女騎士を目指しているのですよ」
「あら、女騎士ですか? ですから、ピアスなのですか?」
「はい、これならアイツも付けることができるかな、と。夜会でもドレスを着ないで、騎士服を着ているような奴なので、女性らしい宝飾品を贈ってもどうかと思ってしまって」
「そうなのですね。それは、また……」
少し下を向いたサーシャ嬢は、何かを考えるようなそぶりをしていた。俺はそこで、話を続けようとして不躾なことを聞いてしまう。
「ところでサーシャ嬢にも婚約者がおられるのですか?」
領主の娘で、この美貌だ。婚約者がいないとは思えなかった俺は、ただ確認するつもりで聞いたのだった。だがそれは彼女にとってはタブーだったらしい。
「いえ、私はまだ。婚約者とか、決まった相手はおりませんので」
サッと顔色を変えた彼女を見て、俺は自分が間違えたことに思い至る。
「それは、失礼しました」
「いえいえ、父が申すには、辺境を守れる強い騎士を探しているそうです。候補の方も、何人かおられるとか。私の意思などは二の次ですわ」
「そうでしたか、事情も分からず申し訳ない。どうも俺はそうした事情に疎いから、つい余計なことを聞いてしまう」
「ふふっ、レーヴァン様ほどお強い方でしたら、父も迷わないと思うのですが生憎ですわ。もう婚約者の方がおられるのですから」
また答えるのに難しいことを言われて戸惑ってしまう。やはり女性相手は難しい。
「いかがですか? この先にいいカフェがあるので、よろしければ」
サーシャ嬢はなんとお茶に誘ってきた。だが未婚女性とカフェに入り、誰かに見られると誤解されかねない。
「いえ、もう時間のようですね。帰城しないといけないようだ。申し訳ないが、また次回ということで」
さっと馬に跨ると、彼女は俺に向かって手を振った。
「まぁ残念ですわ。では、また次回ですね。約束ですよ」
ふふふ、と笑う彼女の瞳はどうも笑っていないように見える。まるで女豹が獲物を定めて狙っているような不穏な色を思い浮かべるが、まさか婚約者のいる俺に興味を持つとは思えない。
何事もなかったようにその場で別れた俺は、彼女が再度店に戻りオーナーと話をしたことに気がつかなかった。
そして俺がクローディアへ愛を伝えるためのラベンダー色をしたブローチは、すぐに手元に届くことはなかった。
*****
6
お気に入りに追加
214
あなたにおすすめの小説
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。
石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。
ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。
それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。
愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。
王子殿下の慕う人
夕香里
恋愛
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。
しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──?
「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」
好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。
※小説家になろうでも投稿してます
永遠の隣で ~皇帝と妃の物語~
ゆる
恋愛
「15歳差の婚約者、魔女と揶揄される妃、そして帝国を支える皇帝の物語」
アルセリオス皇帝とその婚約者レフィリア――彼らの出会いは、運命のいたずらだった。
生まれたばかりの皇太子アルと婚約を強いられた公爵令嬢レフィリア。幼い彼の乳母として、時には母として、彼女は彼を支え続ける。しかし、魔法の力で若さを保つレフィリアは、宮廷内外で「魔女」と噂され、婚約破棄の陰謀に巻き込まれる。
それでもアルは成長し、15歳の若き皇帝として即位。彼は堂々と宣言する。
「魔女だろうと何だろうと、彼女は俺の妃だ!」
皇帝として、夫として、アルはレフィリアを守り抜き、共に帝国の未来を築いていく。
子どもたちの誕生、新たな改革、そして帝国の安定と繁栄――二人が歩む道のりは困難に満ちているが、その先には揺るぎない絆と希望があった。
恋愛・政治・陰謀が交錯する、壮大な愛と絆の物語!
運命に翻弄されながらも未来を切り開く二人の姿に、きっと胸を打たれるはずです。
---
「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。
あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。
「君の為の時間は取れない」と。
それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。
そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。
旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。
あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。
そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。
※35〜37話くらいで終わります。
結婚した次の日に同盟国の人質にされました!
だるま
恋愛
公爵令嬢のジル・フォン・シュタウフェンベルクは自国の大公と結婚式を上げ、正妃として迎えられる。
しかしその結婚は罠で、式の次の日に同盟国に人質として差し出される事になってしまった。
ジルを追い払った後、女遊びを楽しむ大公の様子を伝え聞き、屈辱に耐える彼女の身にさらなる災厄が降りかかる。
同盟国ブラウベルクが、大公との離縁と、サイコパス気味のブラウベルク皇子との再婚を求めてきたのだ。
ジルは拒絶しつつも、彼がただの性格地雷ではないと気づき、交流を深めていく。
小説家になろう実績
2019/3/17 異世界恋愛 日間ランキング6位になりました。
2019/3/17 総合 日間ランキング26位になりました。皆様本当にありがとうございます。
本作の無断転載・加工は固く禁じております。
Reproduction is prohibited.
禁止私自轉載、加工
복제 금지.
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
裏切りの先にあるもの
マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。
結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる