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第一章
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しおりを挟む「レーヴァン様、プレゼントは選び終わりましたか?」
丁度いいタイミングで、サーシャ嬢が戻ってくる。俺は会計を終わらせて包みを受け取るところだった。
「あぁ、おかげでいい色のピアスを購入できました。サーシャ嬢のおかげです」
慣れないことをしていたので緊張していたが、ようやく終えることができてホッとした顔をすると、またサーシャ嬢はクスクスと笑いはじめる。
「本当に、レーヴァン様は純情ですのね。そんなお顔で愛されている婚約者の方が、羨ましいですわ。どんな方なのですか?」
「えっ、クローディアですか? アイツとは幼い頃から一緒にいるので、一番身近な存在というか。普段は男と変わらない恰好をしているので、あぁ、女騎士を目指しているのですよ」
「あら、女騎士ですか? ですから、ピアスなのですか?」
「はい、これならアイツも付けることができるかな、と。夜会でもドレスを着ないで、騎士服を着ているような奴なので、女性らしい宝飾品を贈ってもどうかと思ってしまって」
「そうなのですね。それは、また……」
少し下を向いたサーシャ嬢は、何かを考えるようなそぶりをしていた。俺はそこで、話を続けようとして不躾なことを聞いてしまう。
「ところでサーシャ嬢にも婚約者がおられるのですか?」
領主の娘で、この美貌だ。婚約者がいないとは思えなかった俺は、ただ確認するつもりで聞いたのだった。だがそれは彼女にとってはタブーだったらしい。
「いえ、私はまだ。婚約者とか、決まった相手はおりませんので」
サッと顔色を変えた彼女を見て、俺は自分が間違えたことに思い至る。
「それは、失礼しました」
「いえいえ、父が申すには、辺境を守れる強い騎士を探しているそうです。候補の方も、何人かおられるとか。私の意思などは二の次ですわ」
「そうでしたか、事情も分からず申し訳ない。どうも俺はそうした事情に疎いから、つい余計なことを聞いてしまう」
「ふふっ、レーヴァン様ほどお強い方でしたら、父も迷わないと思うのですが生憎ですわ。もう婚約者の方がおられるのですから」
また答えるのに難しいことを言われて戸惑ってしまう。やはり女性相手は難しい。
「いかがですか? この先にいいカフェがあるので、よろしければ」
サーシャ嬢はなんとお茶に誘ってきた。だが未婚女性とカフェに入り、誰かに見られると誤解されかねない。
「いえ、もう時間のようですね。帰城しないといけないようだ。申し訳ないが、また次回ということで」
さっと馬に跨ると、彼女は俺に向かって手を振った。
「まぁ残念ですわ。では、また次回ですね。約束ですよ」
ふふふ、と笑う彼女の瞳はどうも笑っていないように見える。まるで女豹が獲物を定めて狙っているような不穏な色を思い浮かべるが、まさか婚約者のいる俺に興味を持つとは思えない。
何事もなかったようにその場で別れた俺は、彼女が再度店に戻りオーナーと話をしたことに気がつかなかった。
そして俺がクローディアへ愛を伝えるためのラベンダー色をしたブローチは、すぐに手元に届くことはなかった。
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