13 / 88
第一章
1-13
しおりを挟む「サーシャ様、不愛想な男ですがブリス学園のレーヴァン指導官です」
少し時間ができたとレオンに言うと、早速サーシャ嬢を紹介してくれた。
「はじめまして。サーシャ・ウィドウです」
「どうも、俺はレーヴァン・グランストレームです。忙しいところすみませんが、レオンが言うにはあなたがこの辺りのお店について詳しいと聞いたもので」
サーシャ嬢は俺をその大きな紫の瞳で見上げてきた。確かに、レオンの言う「マドンナ」に相応しい美女だ。どうやらクローディアと同じ年のようだが、彼女より落ち着きがあるせいか年上に見える。
彼女は俺を見てはっと顔を強張らせた。どうしても、上背があるから女性を怖がらせてしまったのかもしれない。俺はなるべく笑顔を心掛けて彼女に話しかけた。
「髪飾りか、何か女性の喜ぶような飾り物を探しているのですが、いいお店があれば教えてもらえますか?」
「まぁ、女性にですか? でしたら大通りにいい店がありますわ」
彼女は小さな声で、だが俺の目をしっかりと見て答えてくれた。さらに、用事があるからその店まで案内してくれると言う。
「それは、助かります。俺は何度もこっちに来ているのに、街の方に行ったことは少なくて」
「でも、女性用の宝飾品でしたら王都の方が種類もあるのでは?」
「あぁ、もうすぐ俺の婚約者の誕生日が近いので、何かないかと思って。出来ればこの地方のものが手に入ると嬉しいです。俺の婚約者は、ちょっと変わっているので綺麗なものというより、珍しいものの方が好きで」
「婚約者の方ですか。それでしたらやはり、あのお店ですわ」
彼女は見かけ通りにしっかりしていて、てきぱきと指示をだして早速馬車を手配し、出かける準備を終えてしまった。
「レーヴァン指導官、俺は今から訓練に参加しないといけないので失礼します。あ、サーシャ様、指導官はこうみえて婚約者にぞっこんなのにプロポーズもしていないヘタレなんですよ、どうか女性の心ってやつを指導してください!」
レオンはそういい捨てると、走り去ってしまった。ふとサーシャ嬢をみると、レオンの言葉を聞いてクスクスと笑っている。
「ふふふっ、レーヴァン様は純情な方なのですね」
「いや、そういうわけでは……」
俺は頭をかきながら、恥ずかしさを誤魔化した。
「いえ、お噂を聞いたことがあったのですが、実際とは違ったので驚いています。赤髪のレーヴァン様、ですよね?」
確かに最近俺は腕を上げ赤髪のレーヴァンと呼ばれている。大剣を扱う俺の赤髪はよく目立つ。
「そう呼ばれることもありますが、噂になっていたとは」
「えぇ、父も褒めておりましたよ。あ、馬車が来たようです。さぁ参りましょうか」
サーシャ嬢の乗った馬車の後ろを馬に乗って後ろをついていくと、街の中心部にある大通りに着いた。店構えをみるとかなり大きくて立派なところだ。
「サーシャ嬢、こちらがその店ですか?」
「はい、私も懇意にしていますのでご紹介しますね」
「ありがとうございます。こうした店は不慣れなので助かります」
彼女は店に入ると店員に声をかける。流石に領主の娘を知らない者はいないのか、オーナーらしき男性が慌てた様子で奥から飛び出してきた。
「サーシャ様、ご用件がありましたら私どもがお城まで参りましたのに、足を運んでくださりありがとうございます」
オーナーの男性は丁寧に頭を下げる様子をみると、どうやら領主とも懇意にしているようだ。
「いえ、今日はご紹介したい騎士様がいらっしゃるの。グランストレーム様、こちらがお店のオーナーなので何でも聞いてくださいね。いつも素敵なものを紹介してくださるのよ」
そうしてサーシャ嬢は俺を紹介すると「ではまた後ほど」と言ってサッと別のフロアに行ってしまう。俺が選びやすいように、気を遣ってくれたのだろう。
「不慣れですが、よろしくお願いします」
俺はオーナーと話しながら、店にある商品の中からクローディアの瞳の色を探す。どうせ贈るのなら、彼女の美しい瞳の色がいい。だが、オーナーの意見は少し違っていた。
「グランストレーム様、婚約者の方に贈られるのでしたら、その方の瞳の色というよりも、殿方の色を思い起こさせるものの方が記念になるものですよ」
「俺の色、か? そうなのか?」
宝飾品については全くわからない。確かに、言われてみればクローディアが俺の色をつけていたら嬉しいかもしれない。
「はい、こちらの赤い宝石はグランストレーム様の髪の色ですし、こちらのグレーの石は瞳の色に似ていますね」
オーナーが紹介してくれたものはどれも立派なつくりをしていた。だが、夜会でドレスを着ることのないクローディアには似合いそうにない。
「オーナー、彼女は女騎士を目指している。だから、動いても邪魔にならないものの方がいいのだが」
説明すると、今度はピアスを見せてくれた。確かにこれなら普段から身に着けていても邪魔にはならないだろう。
俺は紹介してくれた赤い石のピアスに決めると、ふと紫色の大振りのブローチが目に入る。その紫はクローディアの瞳のブルーラベンダーを思い起こさせるものだった。
「オーナー、こちらもできれば包んでもらえないだろうか」
「おお、こちらのブローチですか。でしたら裏側にメッセージを彫ることができますが、いかがでしょうか。出来上がりましたら、お城の方へお届けさせていただきます。それほどお時間もかかりません」
「そうか、それも記念になるか。ではそうしてくれ」
俺は言われるがまま、メッセージを彫ってもらうことにする。少し照れ臭いが、レーヴァンから愛を込めて、と注文する。普段、言葉では伝えることは難しいが、これなら渡すことができそうだ。
俺はその紫色がクローディアだけでなく、サーシャ嬢も同じ瞳の色をしていることに気がついていなかった。メッセージの中にクローディアへ、と名前を彫ることも忘れてしまっていた。
5
お気に入りに追加
215
あなたにおすすめの小説
離婚した彼女は死ぬことにした
まとば 蒼
恋愛
2日に1回更新(希望)です。
-----------------
事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。
もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。
今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、
「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」
返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。
それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。
神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。
大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。
-----------------
とあるコンテストに応募するためにひっそり書いていた作品ですが、最近ダレてきたので公開してみることにしました。
まだまだ荒くて調整が必要な話ですが、どんなに些細な内容でも反応を頂けると大変励みになります。
書きながら色々修正していくので、読み返したら若干展開が変わってたりするかもしれません。
作風が好みじゃない場合は回れ右をして自衛をお願いいたします。
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
【完結】サキュバスでもいいの?
月狂 紫乃/月狂 四郎
恋愛
【第18回恋愛小説大賞参加作品】
勇者のもとへハニートラップ要員として送り込まれたサキュバスのメルがイケメン魔王のゾルムディアと勇者アルフォンソ・ツクモの間で揺れる話です。
不器用騎士様は記憶喪失の婚約者を逃がさない
かべうち右近
恋愛
「あなたみたいな人と、婚約したくなかった……!」
婚約者ヴィルヘルミーナにそう言われたルドガー。しかし、ツンツンなヴィルヘルミーナはそれからすぐに事故で記憶を失い、それまでとは打って変わって素直な可愛らしい令嬢に生まれ変わっていたーー。
もともとルドガーとヴィルヘルミーナは、顔を合わせればたびたび口喧嘩をする幼馴染同士だった。
ずっと好きな女などいないと思い込んでいたルドガーは、女性に人気で付き合いも広い。そんな彼は、悪友に指摘されて、ヴィルヘルミーナが好きなのだとやっと気付いた。
想いに気づいたとたんに、何の幸運か、親の意向によりとんとん拍子にヴィルヘルミーナとルドガーの婚約がまとまったものの、女たらしのルドガーに対してヴィルヘルミーナはツンツンだったのだ。
記憶を失ったヴィルヘルミーナには悪いが、今度こそ彼女を口説き落して円満結婚を目指し、ルドガーは彼女にアプローチを始める。しかし、元女誑しの不器用騎士は息を吸うようにステップをすっ飛ばしたアプローチばかりしてしまい…?
不器用騎士×元ツンデレ・今素直令嬢のラブコメです。
12/11追記
書籍版の配信に伴い、WEB連載版は取り下げております。
たくさんお読みいただきありがとうございました!
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
聞き間違いじゃないですよね?【意外なオチシリーズ第3弾】
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【まさか、本気じゃないですよね?】
我が家は系代々王宮に務める騎士の家系。当然自分も学校を卒業後、立派な騎士となるべく日々鍛錬を積んでいる。そんなある日、婚約者の意外な噂を耳にしてしまった――
* 短編です。あっさり終わります
* 他サイトでも投稿中
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

【完結】新皇帝の後宮に献上された姫は、皇帝の寵愛を望まない
ユユ
恋愛
周辺諸国19国を統べるエテルネル帝国の皇帝が崩御し、若い皇子が即位した2年前から従属国が次々と姫や公女、もしくは美女を献上している。
既に帝国の令嬢数人と従属国から18人が後宮で住んでいる。
未だ献上していなかったプロプル王国では、王女である私が仕方なく献上されることになった。
後宮の余った人気のない部屋に押し込まれ、選択を迫られた。
欲の無い王女と、女達の醜い争いに辟易した新皇帝の噛み合わない新生活が始まった。
* 作り話です
* そんなに長くしない予定です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる