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第一章
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しおりを挟む(Side レーヴァン)
辺境地での食事はいつも食堂だが、正直言って不味い。大きな声では言えないが不味い。だが今のうちに食べなければ次の予定が詰まっている。
毎年ブリス学園の休暇中、俺は辺境地の領主が指揮する辺境騎士団に参加させてもらっている。俺の父親が長らく宮廷騎士団長をしているから、いわば特例扱いだ。
初めの頃、体格はいいが実戦経験のなかった俺は使い物にならなかった。知識と訓練だけで、技術が実践とかみ合わない。そんな頭でっかちだった俺も、屈強な辺境騎士団のメンバーには鍛えられた。
十年以上も通えば地理にも人にも詳しくなっていく。ブリス学園を卒業した俺は、本来であれば宮廷騎士団に所属することになっていたが、婚約者の父の意向で学園の指導官として残ることになった。婚約者のクローディアがまだ学園にいるからだ。
だが彼女もあと半年したら学園を卒業する。誕生日が過ぎれば成人となり結婚もできる。
普段は男装していて少しとぼけたところのあるクローディアだが、根はしっかり者だということを知っている。俺は幼い頃から婚約者として彼女の傍にいるが、今は結婚する日が本当に待ち遠しい。
「それで、レーヴァン指導官はいつクローディアと結婚式を挙げるのですか?」
「レオン、お前。今それを俺に聞くのか?」
今、食堂で一緒のテーブルで食べているのはレオン・ガーゴイル、平民の彼は多彩な剣技を持つ器用な学生だ。俺が辺境地での実践経験について話をした時に興味を持ったのか、今回の休暇中は俺に同伴して一緒にここまで来た。
辺境とはいえ騎士団には違いない。厳しい規律と激しい訓練がある。それに加えて時々招集のかかる盗賊や蛮族との戦闘。すぐに音を上げるかと思っていたが意外と粘っている。これならば卒業後にはどの騎士団に所属してもやっていけるだろう。
宮廷騎士団員となるには貴族位が必要となる。王族の身辺警護を担うため人選については慎重に選んでいるからだ。
だから平民のレオンはどこかの領地の騎士団所属となる。この辺境地となる可能性も十分あるから、正式な任命前にこうして体験できることは彼にとってもメリットだ。
「はい、俺はクローディアの友達ですから、レーヴァン指導官との結婚式が楽しみですよ」
ニヤッと笑っているところをみると、強ち他の学生からも探るように言われたのだろう。
「まだクローディアも成人していないからな。そうだなぁ、卒業後に騎士団に所属するだろうから、二年は働きたいだろうし、まぁ、あいつが二十歳になる頃かもな」
おおよそ、その辺りになるだろう。まだはっきりと結婚する時期を話したことはないが、焦る必要もない。真面目なクローディアのことだから、仕事は仕事でしっかり勤めたいだろう。
「卒業してすぐ結婚しないのですか? それはやはりレーヴァン指導官がヘタレだからで」
「なに?」
ギロリと睨む。今、俺のことをヘタレと言ったか?
「いえ。失礼しました。では、レーヴァン指導官。今後の為に教えてください、プロポーズの言葉は何だったのですか?」
「なに?」
「プロポーズの言葉です」
俺は思わず食べていた食事をゴクン、と飲み込んでしまう。
「プ、プロポーズ。か」
「はい、プロポーズの言葉です。やっぱり騎士の正装をして、誓いをたてられたのでしょうか?」
騎士たるもの、求婚する時は剣に愛を誓うことが一般的だ。だが俺はまだ何もしていない。思わず冷や汗が背中を伝う。
「していない」
「はい?」
レオンが驚いた顔をこちらに向けている。
「していない。プロポーズはしていない、な」
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