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第一章
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しおりを挟む「で? クローディア。そろそろ覚悟を決めたのかしら?」
母は遠方に出張していたが、戻ってくるなり私を追い詰める。
「あなた、十八歳の誕生日はもうすぐでしょ、そうね。そろそろ用意し始めなくてはね」
「お母様。用意って、まさか」
「そう、そのまさかよ。あなたの結婚式なんだから、派手にしなくてはね。クレイグも正式な後継者としてのお披露目を兼ねるから、招待客も大勢になるわね」
私は思わず口を開けてしまう。け、結婚式って、結婚!
「お母様、私、まだクレイグと結婚するとは決めていません!」
「あら、私の選んだ彼が気に入らないの? まさか、クローディア。あの朴念仁の選んだ筋肉男子の方を選ぶというの?」
「お、お母様。私はただ、まだ決めていないとだけで」
「では、早く決めなさい。そうね、十八歳の誕生日には発表できるといいわね」
十八歳の誕生日なんて、あと一か月もない。それに、このエール王国の滞在期間中に誕生日を迎えることになるから、クレイグではなくてレーヴァンを選んだ場合、私は生きていられるのだろうか。
「お、お母様。せめて、卒業までは待ってください。私、学業に集中したいのです」
「卒業、ねぇ。まぁ、そう言うならば仕方がないわね」
いつか決断しないといけないことはわかっている。でも、まだ私は学生なのだ。
「でもお母様。なぜ私が決めるのですか? 普通は親が決めることでしょう?」
私ほどの地位の貴族令嬢となると、結婚相手は親が決めてそれに従うだけのことが多い。私のように、親が選択肢を用意するのは珍しい。
「あら、人生の大切な伴侶なのよ。自分で決めたいでしょ。といっても、誰でもいい訳ではないから二人も婚約者がいるんじゃない」
「だから、それが普通ではないと思うのですが」
要するに二人とも『絶対ダメ』という要素がない。クレイグのことは好きだけれど、彼は私を女として見ていないし、レーヴァンのことは兄としか思えない。
「クローディア。選択することは難しいことよ。でもね、決断しなくてはいけない時が、どうしてもあるわ。貴方は特に、二つの国の、二つの公爵位を受け継ぐ者よ。その責任が大きいことは、わかるわね」
「はい、お母様」
「あなたに選択を委ねているのは、それがあなたにとって必要な試練だから、よ。よく考えて、決断しなさい。そして、決断したらそれを後悔してはいけないわ」
「はい、お母様」
母の言葉はいつでも重い。普段は自由奔放な母は、時として厳しいことを言う。振り回されてばかりの私だけれど、そろそろ自立しなければ。あぁ、でも! でも!
二人のうちの一人だけなんて、決められない。私にとっては二人とも、とても大切な存在になっていた。
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