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第一章
1-4
しおりを挟む「はぁ、もうすぐ休みかぁ」
ブリス学園の騎士科に通う私は大きく伸びをした。この学園は、四か月間の前期が終われば、二か月間の休暇となる。その四か月間を父の国のブリス王国で過ごし、休暇中の二か月間を母の国のエール王国で過ごす。
それが学齢期になった私の日常だった。大変だけど、十二年も続ければもう慣れてしまった。
半年後には学園を卒業するから、父からも母からもそろそろ婚約者を決めろと言われているけれど……
ブリス王国にいる私の婚約者、レーヴァン・グランストレーム。
二歳年上の彼は学園を卒業して宮廷騎士団に所属したのに、今も指導官として学園にいる。
多分父が人事に口を出したのだろう、彼が私の傍にいるようにと。
「クローディア、次の課題は終わったか?」
「まだ。あと少しだから、図書室で調べてくる」
騎士団に所属して鍛錬や実践を積み重ねたい時期なのに、彼は実直に私の面倒を見ている。
本人曰く、学園の休暇中に辺境地に行って実践を積んでいるから大丈夫らしい。
優しく強い彼はまっすぐに育ち、私の面倒を見てくれる幼馴染、いや、もはや兄としか思えない。
「俺も資料探しを手伝おうか? 高いところの図書は見つけにくいだろう」
私は女性の中では背の高い方だけど、背の高い彼は私より頭一つ分視線が上になるからうらやましい。
「大丈夫、自分で探すから。レーヴァンはレーヴァンで、やることがあるでしょ」
学園を卒業してから、レーヴァンは私の父の仕事を手伝うようになっていた。
これまで身体を鍛えることばかりしてきたレーヴァンだけど、私と結婚したら彼が公爵位を継ぐ身となる。
その時のために今から学んでいるから、なかなか忙しい。
正直、幼馴染の彼には兄のような親愛さを感じても、恋愛対象と思ったことがない。
常に傍にいる気心の知れた友達のレーヴァンと結婚するなんて、どちらかと言うと気恥ずかしい。
「わかったよ、探せなかったらいつでも声かけて」
そうしてレーヴァンの研究室を後にすると、友人から声をかけられた。
「よぉ、クローディア。お前、図書室か?」
「あぁ、レオン。今から行くところだ。レオンは? 鍛錬場か?」
騎士科で同じクラスのレオン。彼とは何かしら話が合うから、よく一緒に鍛錬をしている。
「あぁ、今から手合わせをしようと思って。どうだ、お前も来るか? 後輩たちを集めているから、いっちょ指導してやらないとな!」
レオンは竹を割ったような性格をしているから付き合いやすい。
背は低いが身体能力が高いため繰り出す技の種類も多く、面倒見がいいから後輩たちからも慕われている。
「そうかぁ、私もレオンと訓練したいところだけど遠慮しておくよ。また|私のお目付け役(レーヴァン)に叱られるからな」
「お前の腕なら、面白い手合わせになりそうだけどな。いい加減、レーヴァン指導官から許可が出るといいな」
レーヴァンは私が男子学生と手合わせをすることを禁止しているから、相手は常に彼か同じく女騎士を目指す女子生徒だけだ。
本当はレオンのように多彩な技を持つ相手と手合わせがしたい。
技量も向上するだろうし、なによりも面白いだろう。
けれどレーヴァンは許してくれない。
他の教官たちも父から睨まれたくないため、補佐をしている彼の言葉をしっかりと守る。
なぜダメなのか聞いてみたけれど、話にもならなかった。
「ダメだ、許可できない。文句があるなら俺から一本でもとってみろ」
睨むように言われた私は、それ以上何も言葉がでない。なぜなら私はレーヴァンに勝ったことがない。
レーヴァンは長身を生かしたしなやかな体躯と、優れた剣技で大振りの剣を扱う騎士となった。
実際に辺境地では大振りの剣でもって敵を威嚇することで有名だ。
もはや学園では彼から一本をとることのできる生徒はいない。最終学年では一番のレオンでさえ、毎回厳しくやられている。
実はレーヴァンがいないときを見計らってレオンを誘ったことがある。
けれど意気揚々と鍛錬場に着いた私たちを迎えていたのは、なぜかいないはずのレーヴァンだった。
「レーヴァン。確か、仕事があるって」
恐る恐る声をかけるとレーヴァンは、組んでいた腕を解き私のところに来て頭をさらりと撫でた。
そしてレオンの方を向くと、地をはうような低い声で彼に言った。
「レオン。お前。誰を誘ったのかわかっているだろうな」
「ひっ」
その声と視線でレーヴァンが非常に怒っていることを悟ったレオンは、「すっ、すいませんっ!指導官の婚約者殿と、今後許可なく手合わせは致しませんっ」と謝りだした。
レオンに近づいたレーヴァンは彼の耳元で何かを囁いた。
それ以後、レオンは私と何かをするときは必ずレーヴァンの許可を得るようになった。
けれど、正直なところ面白くない。
私は自分が騎士に向いているとは思えないけど、それなりに努力しているから、せめて女騎士としては一番の成績で卒業したい。
私は剣技よりは小刀や毒針といった小道具を扱う方が得意だった。どちらかといえば暗殺道具だから騎士の間では評判がよろしくない。要するに卑怯な手段、とみられてしまう。だけど、私にしてみれば体格で劣る私が勝つための手段なのだ。
卑怯で上等、私はすっかり開き直っている。
けれど、剣技の授業ではそうはいっていられない。技のバリエーションも少ない私は実技ではいい点数をとることができなかった。それもこれも実践練習が少ないからだと思うのだけど。
レーヴァンは優しいだけの兄ではない。私の父に認められた彼は、十分鬼のように厳しい面を持つ武官になってしまっていた。
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