61 / 61
第三章
3-10
しおりを挟む「リアリム様、ご婚約、おめでとうございます」
無事に婚約の儀も終わり、人々はダンスや歓談を始める。私は祝辞を述べる人達の群れの中に、メイティーラ様とグレン・ゴウ侯爵を見つけた。
「メイティーラ様、わざわざお越しくださり、ありがとうございます」
「ほんと、まさか騎士様がウィルストン殿下だったなんて、教えてくだされば良かったのに」
「ふふっ、すみませんでした。騎士の姿をしているのは、秘密でしたので」
「まぁ、グレンも知っていて、私には教えてくださらなかったのよ」
メイティーラ様もふふふ、と笑うと無口なグレン様が珍しく口を挟む。
「リアリム嬢、あの、殿下に贈られた一風変わったパンツとは」
「あ、あれはフンドシというものですわ。私の読んだ本では、お祭りの日に使う特別なものでした」
「そうか」
ふむ、と頷いているグレン様。どうしたのかな、と思うと実は、と話してくれた。
「以前、メイティーラからも同じ形状のものを贈られてね。そうか、特別なものだったのか」
それを隣で聞いていたメイティーラ様が、お顔を真っ赤にしている。お二人はとっても仲が良い。
「メイティーラ様、今度フンドシの使い方をお伝えしますわ」
いろいろと用途がありますよ、縛ったり。縛ったり。縛ったり。きっと、マンネリ防止に役立ってもらえるような気がする。
本当はあまり知識はないけれど、今度ユウ君に聞いておこう。さっきの様子なら、きっといろいろと知っていそう。
他にも挨拶をしたいと行列ができ始めたので、「また今度、ゆっくりと食事でも」と約束をしてお二人と別れる。本当に、ゴウ侯爵夫妻に助けてもらえて良かった。
一連の挨拶を終えると、今度はディリスお兄様がそっと近づいてきた。私の誘拐事件では、犯人を突き止めた一番の功労者だと聞いている。
「お兄様、本当に、心配ばかりかけてすみません」
「全く、手のかかる妹だけど、今度からは、俺ではなくてウィルストン殿下を頼るんだぞ」
ポン、とその手を私の頭の上に置いた。それはこれまで、妹の私を慈しんできた手だった。
「お、お兄様」
思わず感激で涙ぐみそうになる。
「コラ、リアリム。まだ婚約だけで、結婚式ではないからな。お前はまだ、ミンストン伯爵令嬢だから、そのことを忘れるなよ」
「は、はい。そうですね、これから忙しくなります」
結婚式の用意だけでなく、これからは王子妃としての勉強も始まると聞いている。
「そうだぞ、ユゥベール殿下が気になることを言っていたからな。確か、悪役令嬢がどうとか、あれ? イザベラ嬢がそうだったと言っていたのかな、うーん」
ディリスお兄様と話をしていると、ウィルストン殿下がスッと近づいてきて、私の手をとった。
「ディリス、今夜から彼女は王宮で過ごすことになる。婚約期間中ではあるが、王宮で私が守るから、心配するな」
そうだった、私はこれから嫁入り修行、ならぬ、王子妃、いや、未来の王太子妃としての修行が待っている。
「はぁ、そうだったな。まぁ、俺としても警備の薄い我が家よりは、王宮の方が安心だ。これからは頼むぞ、ウィル」
そう言って、お兄様は片手をひらひらと上げて去っていく。
私が王宮に居を移すことはウィルストン殿下の強い要望で決まったのだけれど。お父様も誘拐事件があったから、私の安全を第一にして許可してくれたのだけど。
この、殿下のにやけた顔を見る限り、なんだかそれは違う意図が隠れているとしか思えない。
「リア、今夜からいっぱい愛し合おうね。いつでも、傍に君がいるなんて最高だよ」
ああっ、この腰を抱く手が怪しすぎる。誰か、誰か教えてください。私のライフ、あと残りどれだけでしょうか。
チュン、チュンと鳥のさえずりが聞こえる。この部屋では二度目になる眩しい朝を迎えた。昨夜は、初めての夜と違い、ウィルストン殿下の無尽蔵の体力で貪られたのだ。身体のあちこちが、痛い。
隣にいるのは、銀色の髪の王子様。もう、驚かない。ウィルティム様の姿の彼も好きだけれど、本来の姿であるウィルストン殿下も大好きになっている。
彼の髪をちょっと撫でて、その髪にキスをする。漆黒でも蒼色でもなく、アメジストの瞳で見つめて欲しい。
私が動いたからか、彼がふわりと目を覚ました。そしてギュッと私を抱きしめなおす。
「おはよう、リア。あぁ、隣に君がいると、やはり良く寝られるようだ」
それは、夕べ散々体力を使ったからじゃないかなぁ、と思わなくもないけれど。
「ふふっ、おはよう。私の王子様」
ウィルの額にキスをすると、彼は顔を綻ばせながら微笑んだ。
そして私を腕に抱いたまま、眠気を弄びながら質問された。
「そう言えば、夜会の後で、ユゥベールと親し気に話していたけれど、あれは何?」
あれは、ちょっと忘れたいのだけど忘れられない。
最後にユウ君から甘く囁かれたのだ。
「リア、あのね、実はハーレムエンドになると隠れキャラが出てくるんだ。隣国のツンデレ系王子様なんだけど、楽しみだね」
『のぉぉぉーーーー!』
もうっ、溺愛王子様は一人で十分ですっっ。
【嘘つくつもりはなかったんです!お願いだから忘れて欲しいのにもう遅い。王子様は異世界転生娘を十分溺愛しているので、他の王子様はちょっと勘弁して欲しい】
(おわり)
0
お気に入りに追加
689
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(2件)
あなたにおすすめの小説
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
忘却令嬢〜そう言われましても記憶にございません〜【完】
雪乃
恋愛
ほんの一瞬、躊躇ってしまった手。
誰よりも愛していた彼女なのに傷付けてしまった。
ずっと傷付けていると理解っていたのに、振り払ってしまった。
彼女は深い碧色に絶望を映しながら微笑んだ。
※読んでくださりありがとうございます。
ゆるふわ設定です。タグをころころ変えてます。何でも許せる方向け。
いつかの空を見る日まで
たつみ
恋愛
皇命により皇太子の婚約者となったカサンドラ。皇太子は彼女に無関心だったが、彼女も皇太子には無関心。婚姻する気なんてさらさらなく、逃げることだけ考えている。忠実な従僕と逃げる準備を進めていたのだが、不用意にも、皇太子の彼女に対する好感度を上げてしまい、執着されるはめに。複雑な事情がある彼女に、逃亡中止は有り得ない。生きるも死ぬもどうでもいいが、皇宮にだけはいたくないと、従僕と2人、ついに逃亡を決行するのだが。
------------
復讐、逆転ものではありませんので、それをご期待のかたはご注意ください。
悲しい内容が苦手というかたは、特にご注意ください。
中世・近世の欧風な雰囲気ですが、それっぽいだけです。
どんな展開でも、どんと来いなかた向けかもしれません。
(うわあ…ぇう~…がはっ…ぇえぇ~…となるところもあります)
他サイトでも掲載しています。
王子殿下の慕う人
夕香里
恋愛
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。
しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──?
「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」
好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。
※小説家になろうでも投稿してます
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。
木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。
彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。
こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。
だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。
そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。
そんな私に、解放される日がやって来た。
それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。
全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。
私は、自由を得たのである。
その自由を謳歌しながら、私は思っていた。
悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。
全ルートで破滅予定の侯爵令嬢ですが、王子を好きになってもいいですか?
紅茶ガイデン
恋愛
「ライラ=コンスティ。貴様は許されざる大罪を犯した。聖女候補及び私の婚約者候補から除名され、重刑が下されるだろう」
……カッコイイ。
画面の中で冷ややかに断罪している第一王子、ルーク=ヴァレンタインに見惚れる石上佳奈。
彼女は乙女ゲーム『ガイディングガーディアン』のメインヒーローにリア恋している、ちょっと残念なアラサー会社員だ。
仕事の帰り道で不慮の事故に巻き込まれ、気が付けば乙女ゲームの悪役令嬢ライラとして生きていた。
十二歳のある朝、佳奈の記憶を取り戻したライラは自分の運命を思い出す。ヒロインが全てのどのエンディングを迎えても、必ずライラは悲惨な末路を辿るということを。
当然破滅の道の回避をしたいけれど、それにはルークの抱える秘密も関わってきてライラは頭を悩ませる。
十五歳を迎え、ゲームの舞台であるミリシア学園に通うことになったライラは、まずは自分の体制を整えることを目標にする。
そして二年目に転入してくるヒロインの登場におびえつつ、やがて起きるであろう全ての問題を解決するために、一つの決断を下すことになる。
※小説家になろう様にも掲載しています。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
むむ!どこか読んだお話が?おパンツの都でしたか!
【認証不要です】
1-1 大学入学を期に←機に
報告です