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第三章
3-10
しおりを挟む「リアリム様、ご婚約、おめでとうございます」
無事に婚約の儀も終わり、人々はダンスや歓談を始める。私は祝辞を述べる人達の群れの中に、メイティーラ様とグレン・ゴウ侯爵を見つけた。
「メイティーラ様、わざわざお越しくださり、ありがとうございます」
「ほんと、まさか騎士様がウィルストン殿下だったなんて、教えてくだされば良かったのに」
「ふふっ、すみませんでした。騎士の姿をしているのは、秘密でしたので」
「まぁ、グレンも知っていて、私には教えてくださらなかったのよ」
メイティーラ様もふふふ、と笑うと無口なグレン様が珍しく口を挟む。
「リアリム嬢、あの、殿下に贈られた一風変わったパンツとは」
「あ、あれはフンドシというものですわ。私の読んだ本では、お祭りの日に使う特別なものでした」
「そうか」
ふむ、と頷いているグレン様。どうしたのかな、と思うと実は、と話してくれた。
「以前、メイティーラからも同じ形状のものを贈られてね。そうか、特別なものだったのか」
それを隣で聞いていたメイティーラ様が、お顔を真っ赤にしている。お二人はとっても仲が良い。
「メイティーラ様、今度フンドシの使い方をお伝えしますわ」
いろいろと用途がありますよ、縛ったり。縛ったり。縛ったり。きっと、マンネリ防止に役立ってもらえるような気がする。
本当はあまり知識はないけれど、今度ユウ君に聞いておこう。さっきの様子なら、きっといろいろと知っていそう。
他にも挨拶をしたいと行列ができ始めたので、「また今度、ゆっくりと食事でも」と約束をしてお二人と別れる。本当に、ゴウ侯爵夫妻に助けてもらえて良かった。
一連の挨拶を終えると、今度はディリスお兄様がそっと近づいてきた。私の誘拐事件では、犯人を突き止めた一番の功労者だと聞いている。
「お兄様、本当に、心配ばかりかけてすみません」
「全く、手のかかる妹だけど、今度からは、俺ではなくてウィルストン殿下を頼るんだぞ」
ポン、とその手を私の頭の上に置いた。それはこれまで、妹の私を慈しんできた手だった。
「お、お兄様」
思わず感激で涙ぐみそうになる。
「コラ、リアリム。まだ婚約だけで、結婚式ではないからな。お前はまだ、ミンストン伯爵令嬢だから、そのことを忘れるなよ」
「は、はい。そうですね、これから忙しくなります」
結婚式の用意だけでなく、これからは王子妃としての勉強も始まると聞いている。
「そうだぞ、ユゥベール殿下が気になることを言っていたからな。確か、悪役令嬢がどうとか、あれ? イザベラ嬢がそうだったと言っていたのかな、うーん」
ディリスお兄様と話をしていると、ウィルストン殿下がスッと近づいてきて、私の手をとった。
「ディリス、今夜から彼女は王宮で過ごすことになる。婚約期間中ではあるが、王宮で私が守るから、心配するな」
そうだった、私はこれから嫁入り修行、ならぬ、王子妃、いや、未来の王太子妃としての修行が待っている。
「はぁ、そうだったな。まぁ、俺としても警備の薄い我が家よりは、王宮の方が安心だ。これからは頼むぞ、ウィル」
そう言って、お兄様は片手をひらひらと上げて去っていく。
私が王宮に居を移すことはウィルストン殿下の強い要望で決まったのだけれど。お父様も誘拐事件があったから、私の安全を第一にして許可してくれたのだけど。
この、殿下のにやけた顔を見る限り、なんだかそれは違う意図が隠れているとしか思えない。
「リア、今夜からいっぱい愛し合おうね。いつでも、傍に君がいるなんて最高だよ」
ああっ、この腰を抱く手が怪しすぎる。誰か、誰か教えてください。私のライフ、あと残りどれだけでしょうか。
チュン、チュンと鳥のさえずりが聞こえる。この部屋では二度目になる眩しい朝を迎えた。昨夜は、初めての夜と違い、ウィルストン殿下の無尽蔵の体力で貪られたのだ。身体のあちこちが、痛い。
隣にいるのは、銀色の髪の王子様。もう、驚かない。ウィルティム様の姿の彼も好きだけれど、本来の姿であるウィルストン殿下も大好きになっている。
彼の髪をちょっと撫でて、その髪にキスをする。漆黒でも蒼色でもなく、アメジストの瞳で見つめて欲しい。
私が動いたからか、彼がふわりと目を覚ました。そしてギュッと私を抱きしめなおす。
「おはよう、リア。あぁ、隣に君がいると、やはり良く寝られるようだ」
それは、夕べ散々体力を使ったからじゃないかなぁ、と思わなくもないけれど。
「ふふっ、おはよう。私の王子様」
ウィルの額にキスをすると、彼は顔を綻ばせながら微笑んだ。
そして私を腕に抱いたまま、眠気を弄びながら質問された。
「そう言えば、夜会の後で、ユゥベールと親し気に話していたけれど、あれは何?」
あれは、ちょっと忘れたいのだけど忘れられない。
最後にユウ君から甘く囁かれたのだ。
「リア、あのね、実はハーレムエンドになると隠れキャラが出てくるんだ。隣国のツンデレ系王子様なんだけど、楽しみだね」
『のぉぉぉーーーー!』
もうっ、溺愛王子様は一人で十分ですっっ。
【嘘つくつもりはなかったんです!お願いだから忘れて欲しいのにもう遅い。王子様は異世界転生娘を十分溺愛しているので、他の王子様はちょっと勘弁して欲しい】
(おわり)
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