嘘つくつもりはなかったんです!お願いだから忘れて欲しいのにもう遅い。王子様は異世界転生娘を溺愛しているみたいだけどちょっと勘弁して欲しい。

季邑 えり

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第三章

3-7

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(はっ、お、おかしい! 何がって、何故私は)

 数日間の記憶が曖昧になっている。何故なら目まぐるしく時が過ぎて、一つ一つを整理して考えることが出来ていない。

 いや、考えられないように、忙しなくされているの、かもしれない。

 だって、だって、今日は。



「なんで私とウィルストン殿下の婚約式なのーー!」



 花の都でのお祭りの前夜、居酒屋で食事をした。エールを飲んだ、そこまでは覚えている。

 明日はお祭りだから、と、楽しみにしていた。まさかその日の夜に、王宮から迎えが来て、酔っているのに馬車に乗せられた。

 なんでも、ウィルストン殿下が陛下に呼ばれたため、急遽王宮に戻ることになったと馬車の中で説明された。

 それなら私はお祭りの後に帰るから、置いて行ってくれたら良かったのに。殿下は私を離してくれなかった。

(うー、ロマンチックに告白したかったのに)

 そう、私はお祭りの日にウィルティム様に恋人期間の終了と、ウィルストン殿下の婚約を喜んで受けると答えたかったのだ。

 その為に、用意したのに。異世界風パンツ。

(ぐすっ、まぁ結局はこうなることはわかっていたからいいけど。いいんだけど!)

 今夜の王宮での舞踏会で、ウィルストン殿下と私、リアリム・ミンストンの婚約が発表される。招待客の前で宣誓書に署名するのだ。

 今朝から身体を隅々まで洗われて、コルセットを死ぬほどきつく絞られて、このドレスを着ている。もう、値段とかいろいろと考えるのは止めておこう。銀色のボール・ガウン・ドレスは、肩口が出ていていろいろと心もとない。

 けれどお椀型のバストも綺麗におさまって、デコルテに輝くアメジストのネックレスが美しい。

「まさしく、殿下の色よね」

 今日は殿下も正装をしている。黒の燕尾には銀色の刺繍が至る所に刺されている。トラウザーズも同色で、ウィルストン殿下の長身の体躯に合わせて仕立てられていた。本来であれば白のタイを、私の髪の色であるピンクに合わせて、薄い桃色にしている。

 入場するための待機場で、久しぶりに顔を合わせた。

「殿下、素敵」

「リア、今日は輝く妖精だね。綺麗だよ、誰よりも」

 腰をかがめて、額にキスを落とす。唇にはもう輝くような紅を指してあるから、落とすわけにはいかない。

「リア、こんなにもなし崩し的に婚約式になってしまって、ゴメンよ」

 手袋越しに、頬に触れる殿下の紫の瞳が揺れている。それはそうだろう、私はこの婚約式に出席することを了解した覚えがない。

 ただ、これほど慌ただしく私たちが婚約することになった原因は、私にもあった。

 攫われた事件の犯人が、やはりスコット公爵令嬢のイザベラ様だったのだ。彼女一人の犯行だったため、幸いにもプロの暗殺集団などではなく、街のごろつき程度への依頼となった。

 あの男は結局、禁固刑となった。そしてあの日、男をおじさん、と呼んだ少年も捕らえられたが、保護者である男の命令に背くことなどできない。

微力ながら私を助けたこともあり、少年院のような、更生施設を兼ねている場所へ送られたと聞く。

 問題は、イザベラ様だった。決定的な証拠がなく、もとはといえば高位貴族令嬢の嫉妬ともいえる行いに、厳罰を科すことができない。

 けれど、ウィルストン殿下の怒りは収まらず、彼の意見で彼女はなんと異国の王様の側室として送り出されることになった。

 私はイザベラ様に、遠方の、それも側室として嫁ぐようなことを望まなかったのだけど、ウィルストン殿下はとにかく、彼女が私の瞳に映ることのないようにしたかったようだ。

「全く、リアにしたことを思えば、もっとこう、いろいろとしたかったのだが」

「ウィル、お願い。もう十分だよ。急に決まって、すぐに出国したんでしょ、」

 そうなのだ、あのイザベラ様はもう既にこの国にいない。まるで攫われたように行ってしまわれた。

「まぁ、あの国の王には、何人もの側室がいるが外に出ることは許されないようだ。その中で寵愛を得るのも、あの性格では難しいだろう。まぁ、それで良しとした」

 ウィルストン殿下はそう言うけれど、あの性格だからこそ、イザベラ様は側室の中でも苛烈に生き抜いてしまうのでは。と思ったけれど、それを口にするのは止めておいた。

 イザベラ様は何と言っても公爵令嬢だ。送り出すためにウィルストン殿下も陛下と交渉が必要となり、王である陛下からはある条件が言い渡された。

ウィルストン第一王子も早急に婚約し、1年以内に結婚すること、という条件だった。

 陛下としては、いつまでも婚約もしない第一王子にヤキモキしていたし、殿下は私と早く婚約したかった。というわけで、いろいろとすっ飛ばして今夜の婚約式となったわけである。

「さぁ、リア、行こう。私たちの婚約式だよ」

 エスコートしてくれる殿下の腕に、そっと手を添える。もう、逃げないと覚悟を決めたのだ。



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