55 / 61
第三章
3-4
しおりを挟む「リア、ようやく二人になれたね。もう、身体の調子は、大丈夫か?」
ウィルティム様の用意してくれた邸宅に用意された部屋で、私は今なぜか彼の膝の上に横になって座っている。
「あのね、ウィル、私、普通に椅子に座って食べたいよ?」
目の前のワゴンに用意された食事は、美味しそうに湯気をだしている。
「恋人同士は、こうして食べ合うものだと聞いた。ほら、口を開けて」
ビーフシチューらしきものをスプーンですくって、口元に運ぶ。美味しそうなその匂いに、思わず口を開けるとウィルティム様はスプーンを入れてきた。
「ん、美味しい!」
よく煮込まれている。本当に、こんな短時間でよく準備できたものだ。
「では、次はコッチだよ、ほら、どうぞ」
フライドライスだろうか、少しパサッとしているけれど、この世界では珍しいお米。正直なところ、お米というだけで嬉しい。
もう、二人だけなのだから、恥ずかしいけど、とりあえず忘れて食べさせてもらう。
「あっ、すごい、美味しい! お米だぁ~」
感嘆の声を上げると、ウィルティム様も嬉しそうに眼を細めて私を見つめている。
「良かった、喜んでくれて。急だったが、ホテルに依頼して人を回してもらったが、腕はさすがだな」
思わずウグッと飲み込んでしまう。
「ウィル、もしかして、ホテルの人を呼んでいるの?」
「あ? あぁ、本当は丸ごと呼ぶつもりだったが、流石にお祭り前で予約がいっぱいだったらしい。そのため、一部になったが、それでもいいスタッフが揃っているようだな」
きっと、ウィルティム様のことだから、高級ホテルだろう、な。私たちのためだけに、と思うと申し訳ない。
「ウィル、明日はじゃぁ、外で食べよ? レストランとか、行ってみたいし」
「ん? 外は人の目があるが、個室のあるレストランを選ぼうか。それなら、君にも負担がないかな」
「はい、そうしてください」
配慮してくれるのは嬉しいけれど、やっぱり王族なんだよな、と思ってしまう。私は一応伯爵令嬢だけど、どちらかというと貴族の体面を保つのに精いっぱいな貧乏伯爵の娘だ。
こうした贅沢に免疫がない。
「ウィル、貴方も食べて。顔色、あまり良くないよ」
「ん、あぁ、しばらく寝不足だったからかな。でも、リアに会えて疲れも吹き飛んだよ」
今度は私の番、と思ってスプーンをとり、彼にシチューを食べさせる。
「はい、あーん、して」
上目遣いになって彼を見上げると、また嬉しそうに顔を蕩けさせている。
「ん、美味しいな。ありがとうリア」
もぎゅもぎゅと食べる彼は、私よりも早い勢いで食事を平らげている。
お互いに食べさせあうなんて、恥ずかしいことも実際してみたら楽しかった。何よりも、彼の嬉しそうな顔を見ることができた。
「ウィル、美味しかったね。ありがとう」
メイドの方がワゴンを片付けると、ウィルティム様はお茶を入れてくれた。私が入れようか? と聞くと
「このくらいは、俺がさせて」
と、さっと入れてくれる。こういう人のことを、スパダリと言うんだっけ?
紅茶も飲み終わると、もう疲れているだろうから、と、ベッドに横になるように言われる。
「リア、今夜は俺、何もしないから、一緒のベッドに寝てもいいか?」
ドキン、と胸が痛いほど鳴っている。
「うん、いいよ。でも、ウィルは私が隣にいて、ちゃんと休める?」
「リアが隣にいてくれたら、その方が嬉しい」
そう言うと、もう疲れが限界なのかウィルティム様はあくびを一つすると、私を抱えてベッドに二人で入り込んだ。
「リア、おいで」
彼の腕の中に入り込むと、昼間に嗅いだ柑橘系の香りがする。暖かい彼の身体の中で、私は果たして休むことが出来るのだろうか、
すると、さすがに疲れていたのかウィルティム様はすぐに寝息を吐いて寝始めた。
「私を探すために、こんなに疲れていたんだね」
おやすみのキスもなかった。きっと、私の体調とか気持ちとか考えて、いろいろと我慢しているのかもしれない。
そっと、彼の唇に自分の唇を当てる。一瞬の触れ合いだけど、今はそれで充分だから、
「おやすみ、ウィル」
私も休もうとして、ふと思いだす。そう言えば、お祭りの言い伝えをメイティーラさんから聞いていた。パンツを贈る日なのだ。
私は裁縫道具を探し出すと、用意してたった布を取り出し鋏で切っていく。彼に渡すパンツ、できれば手作りしたい。
しばらく作業すると、流石に眠気が出てきた。無理は良くないから、と、重くなってきた瞼を閉じる。ふわりと寝心地の良いベッドは、お日様の匂いがして私は今だけの幸せを噛みしめる。こんな風に、心地よく眠れることに感謝して。
0
お気に入りに追加
689
あなたにおすすめの小説
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
忘却令嬢〜そう言われましても記憶にございません〜【完】
雪乃
恋愛
ほんの一瞬、躊躇ってしまった手。
誰よりも愛していた彼女なのに傷付けてしまった。
ずっと傷付けていると理解っていたのに、振り払ってしまった。
彼女は深い碧色に絶望を映しながら微笑んだ。
※読んでくださりありがとうございます。
ゆるふわ設定です。タグをころころ変えてます。何でも許せる方向け。
いつかの空を見る日まで
たつみ
恋愛
皇命により皇太子の婚約者となったカサンドラ。皇太子は彼女に無関心だったが、彼女も皇太子には無関心。婚姻する気なんてさらさらなく、逃げることだけ考えている。忠実な従僕と逃げる準備を進めていたのだが、不用意にも、皇太子の彼女に対する好感度を上げてしまい、執着されるはめに。複雑な事情がある彼女に、逃亡中止は有り得ない。生きるも死ぬもどうでもいいが、皇宮にだけはいたくないと、従僕と2人、ついに逃亡を決行するのだが。
------------
復讐、逆転ものではありませんので、それをご期待のかたはご注意ください。
悲しい内容が苦手というかたは、特にご注意ください。
中世・近世の欧風な雰囲気ですが、それっぽいだけです。
どんな展開でも、どんと来いなかた向けかもしれません。
(うわあ…ぇう~…がはっ…ぇえぇ~…となるところもあります)
他サイトでも掲載しています。
王子殿下の慕う人
夕香里
恋愛
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。
しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──?
「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」
好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。
※小説家になろうでも投稿してます
ある王国の王室の物語
朝山みどり
恋愛
平和が続くある王国の一室で婚約者破棄を宣言された少女がいた。カップを持ったまま下を向いて無言の彼女を国王夫妻、侯爵夫妻、王太子、異母妹がじっと見つめた。
顔をあげた彼女はカップを皿に置くと、レモンパイに手を伸ばすと皿に取った。
それから
「承知しました」とだけ言った。
ゆっくりレモンパイを食べるとお茶のおかわりを注ぐように侍女に合図をした。
それからバウンドケーキに手を伸ばした。
カクヨムで公開したものに手を入れたものです。
誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。
木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。
彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。
こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。
だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。
そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。
そんな私に、解放される日がやって来た。
それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。
全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。
私は、自由を得たのである。
その自由を謳歌しながら、私は思っていた。
悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。
全ルートで破滅予定の侯爵令嬢ですが、王子を好きになってもいいですか?
紅茶ガイデン
恋愛
「ライラ=コンスティ。貴様は許されざる大罪を犯した。聖女候補及び私の婚約者候補から除名され、重刑が下されるだろう」
……カッコイイ。
画面の中で冷ややかに断罪している第一王子、ルーク=ヴァレンタインに見惚れる石上佳奈。
彼女は乙女ゲーム『ガイディングガーディアン』のメインヒーローにリア恋している、ちょっと残念なアラサー会社員だ。
仕事の帰り道で不慮の事故に巻き込まれ、気が付けば乙女ゲームの悪役令嬢ライラとして生きていた。
十二歳のある朝、佳奈の記憶を取り戻したライラは自分の運命を思い出す。ヒロインが全てのどのエンディングを迎えても、必ずライラは悲惨な末路を辿るということを。
当然破滅の道の回避をしたいけれど、それにはルークの抱える秘密も関わってきてライラは頭を悩ませる。
十五歳を迎え、ゲームの舞台であるミリシア学園に通うことになったライラは、まずは自分の体制を整えることを目標にする。
そして二年目に転入してくるヒロインの登場におびえつつ、やがて起きるであろう全ての問題を解決するために、一つの決断を下すことになる。
※小説家になろう様にも掲載しています。
闇黒の悪役令嬢は溺愛される
葵川真衣
恋愛
公爵令嬢リアは十歳のときに、転生していることを知る。
今は二度目の人生だ。
十六歳の舞踏会、皇太子ジークハルトから、婚約破棄を突き付けられる。
記憶を得たリアは前世同様、世界を旅する決意をする。
前世の仲間と、冒険の日々を送ろう!
婚約破棄された後、すぐ帝都を出られるように、リアは旅の支度をし、舞踏会に向かった。
だが、その夜、前世と異なる出来事が起きて──!?
悪役令嬢、溺愛物語。
☆本編完結しました。ありがとうございました。番外編等、不定期更新です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる