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第三章

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「リア、ようやく二人になれたね。もう、身体の調子は、大丈夫か?」

 ウィルティム様の用意してくれた邸宅に用意された部屋で、私は今なぜか彼の膝の上に横になって座っている。

「あのね、ウィル、私、普通に椅子に座って食べたいよ?」

 目の前のワゴンに用意された食事は、美味しそうに湯気をだしている。

「恋人同士は、こうして食べ合うものだと聞いた。ほら、口を開けて」

 ビーフシチューらしきものをスプーンですくって、口元に運ぶ。美味しそうなその匂いに、思わず口を開けるとウィルティム様はスプーンを入れてきた。

「ん、美味しい!」

 よく煮込まれている。本当に、こんな短時間でよく準備できたものだ。

「では、次はコッチだよ、ほら、どうぞ」

 フライドライスだろうか、少しパサッとしているけれど、この世界では珍しいお米。正直なところ、お米というだけで嬉しい。

 もう、二人だけなのだから、恥ずかしいけど、とりあえず忘れて食べさせてもらう。

「あっ、すごい、美味しい! お米だぁ~」

 感嘆の声を上げると、ウィルティム様も嬉しそうに眼を細めて私を見つめている。

「良かった、喜んでくれて。急だったが、ホテルに依頼して人を回してもらったが、腕はさすがだな」

 思わずウグッと飲み込んでしまう。

「ウィル、もしかして、ホテルの人を呼んでいるの?」

「あ? あぁ、本当は丸ごと呼ぶつもりだったが、流石にお祭り前で予約がいっぱいだったらしい。そのため、一部になったが、それでもいいスタッフが揃っているようだな」

 きっと、ウィルティム様のことだから、高級ホテルだろう、な。私たちのためだけに、と思うと申し訳ない。

「ウィル、明日はじゃぁ、外で食べよ? レストランとか、行ってみたいし」

「ん? 外は人の目があるが、個室のあるレストランを選ぼうか。それなら、君にも負担がないかな」

「はい、そうしてください」

 配慮してくれるのは嬉しいけれど、やっぱり王族なんだよな、と思ってしまう。私は一応伯爵令嬢だけど、どちらかというと貴族の体面を保つのに精いっぱいな貧乏伯爵の娘だ。

 こうした贅沢に免疫がない。

「ウィル、貴方も食べて。顔色、あまり良くないよ」

「ん、あぁ、しばらく寝不足だったからかな。でも、リアに会えて疲れも吹き飛んだよ」

 今度は私の番、と思ってスプーンをとり、彼にシチューを食べさせる。

「はい、あーん、して」

 上目遣いになって彼を見上げると、また嬉しそうに顔を蕩けさせている。

「ん、美味しいな。ありがとうリア」

 もぎゅもぎゅと食べる彼は、私よりも早い勢いで食事を平らげている。

 お互いに食べさせあうなんて、恥ずかしいことも実際してみたら楽しかった。何よりも、彼の嬉しそうな顔を見ることができた。

「ウィル、美味しかったね。ありがとう」

 メイドの方がワゴンを片付けると、ウィルティム様はお茶を入れてくれた。私が入れようか? と聞くと

「このくらいは、俺がさせて」

 と、さっと入れてくれる。こういう人のことを、スパダリと言うんだっけ?

 紅茶も飲み終わると、もう疲れているだろうから、と、ベッドに横になるように言われる。

「リア、今夜は俺、何もしないから、一緒のベッドに寝てもいいか?」

 ドキン、と胸が痛いほど鳴っている。

「うん、いいよ。でも、ウィルは私が隣にいて、ちゃんと休める?」

「リアが隣にいてくれたら、その方が嬉しい」

 そう言うと、もう疲れが限界なのかウィルティム様はあくびを一つすると、私を抱えてベッドに二人で入り込んだ。

「リア、おいで」

 彼の腕の中に入り込むと、昼間に嗅いだ柑橘系の香りがする。暖かい彼の身体の中で、私は果たして休むことが出来るのだろうか、

 すると、さすがに疲れていたのかウィルティム様はすぐに寝息を吐いて寝始めた。

「私を探すために、こんなに疲れていたんだね」

 おやすみのキスもなかった。きっと、私の体調とか気持ちとか考えて、いろいろと我慢しているのかもしれない。

 そっと、彼の唇に自分の唇を当てる。一瞬の触れ合いだけど、今はそれで充分だから、

「おやすみ、ウィル」

 私も休もうとして、ふと思いだす。そう言えば、お祭りの言い伝えをメイティーラさんから聞いていた。パンツを贈る日なのだ。

 私は裁縫道具を探し出すと、用意してたった布を取り出し鋏で切っていく。彼に渡すパンツ、できれば手作りしたい。

 しばらく作業すると、流石に眠気が出てきた。無理は良くないから、と、重くなってきた瞼を閉じる。ふわりと寝心地の良いベッドは、お日様の匂いがして私は今だけの幸せを噛みしめる。こんな風に、心地よく眠れることに感謝して。


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