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第二章
2-17
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懲りずに男がもう一度私に触ろうとすると、またバチバチっと火花が炸裂する。
「ううぅっ」と呻いた男は、やはり手首を庇うようにさすっている。
「ダメだ、触れねぇ。これじゃ、何も出来ないぜ」
「お、おじさん、こ、この人、魔法か何かかかっているのかもしれない、」
男はそれを聞くと、仕方ねぇ、と言って私をその場に捨て置いていくことに決めたようだ。
「どうせ、こんなお嬢様が、こんなところに捨てられれば、見つかることなんてねぇ」
日が暮れようとしている。男は帰路を考え、その場を立ち去ろうとした。
男が立ち去ろうと私に背を向けた瞬間、少年が私の手元に男の落としたナイフを置いた。
「ごめんなさい、これ使って。あと、枝を折っておくから、」
そう言って、少年はすぐに男の後を追っていった。行きながら、枝をパチンパチンと折っている。
(良かった、とりあえず、まだ生きてる)
やはり男はその道のプロではなかったのだろう。邪な想いで私に触ろうとしなければ、魔法石は力を発揮しなかったハズだ。
中途半端な力だな、と思いつつも、このピアスのおかげで助かった。
でも、手を縛られている状態では、立ち上がることもままならない。日が暮れる前に、街道まで戻りたい。
ふと、少年が残していったナイフが目に留まる。あの刃をどうにかして、手首を刃に添わせ、皮膚を切らないように気をつけながら紐を切る。
ギリ、ギリ、ギリ、何とか、1本だけでも切ることが出来れば。
男の縛り方は適当だった。ようやく紐が1本切れると、その後はパラパラっと解ける。
(よしっ、できた!)
自由になった手で、口を縛っていた紐を解く。
「ハァ、ハァ、ハァ、助かった」
まだ、安心できないけれど手も足も口も、自由になったのだ。街道からもそれほど離れていない。
私は立ち上がると、迷子にならないように少年の折った枝を探しながら歩き、街道へ向かって歩いて行く。
しかし薄暗い森の中で、木の根に躓いた私は大きく転んでしまう。
「いっ、痛い」
思わず手をつくが、そこも木の根が張っていて腕に擦り傷を作ってしまう。
転んだ時に足を捻っていたのか、右足の足首が痛い。骨が折れていないと思うけど、これでは長いこと歩けないだろう。
引きずるようにして、少年の残していった枝を探す。日が暮れかかっている。何とかして、街道に出なければ。
痛む足を庇い、ゆっくりと歩いていく。
(どうして、私、こんな目に合わないといけないの)
どうしても気分が塞いでしまう。このまま森を出ることが出来なかったらどうしよう、、このまま、もうウィルティム様に、ウィルストン殿下に会えなかったらどうしよう、
ほんの少し前までは、王宮にいたのに。会おうと思えば、会うことが出来たのに。もっと素直になって、会っていれば良かったのに。
最後に会った夜会でのダンス。彼と踊った時、嬉しそうに口角を上げていた殿下。もう、踊ることもできなくなってしまうのか。
(ダメ、前に、前に進まなきゃ)
殿下に貰ったピアスを思わず触る。まるで殿下が傍にいるように、私を守っているピアス。
気力を振り絞り前に進む。こんな時でも、少年が渡してくれたナイフと、折った枝に助けられている。
前に、前に進まなきゃ。
歩き続けるとその先に森が開け、街道が見えてくる。
(良かった、街道に出られた)
ホッとした安心感と、もう痛くて歩けないという思いが重なり、私は街道で座り込んでしまう。マズイ、と思ったけれど、私はそこで意識を手放し道端に倒れてしまった。
暮れかかっていた日は、もう落ちる寸前だった。
「ううぅっ」と呻いた男は、やはり手首を庇うようにさすっている。
「ダメだ、触れねぇ。これじゃ、何も出来ないぜ」
「お、おじさん、こ、この人、魔法か何かかかっているのかもしれない、」
男はそれを聞くと、仕方ねぇ、と言って私をその場に捨て置いていくことに決めたようだ。
「どうせ、こんなお嬢様が、こんなところに捨てられれば、見つかることなんてねぇ」
日が暮れようとしている。男は帰路を考え、その場を立ち去ろうとした。
男が立ち去ろうと私に背を向けた瞬間、少年が私の手元に男の落としたナイフを置いた。
「ごめんなさい、これ使って。あと、枝を折っておくから、」
そう言って、少年はすぐに男の後を追っていった。行きながら、枝をパチンパチンと折っている。
(良かった、とりあえず、まだ生きてる)
やはり男はその道のプロではなかったのだろう。邪な想いで私に触ろうとしなければ、魔法石は力を発揮しなかったハズだ。
中途半端な力だな、と思いつつも、このピアスのおかげで助かった。
でも、手を縛られている状態では、立ち上がることもままならない。日が暮れる前に、街道まで戻りたい。
ふと、少年が残していったナイフが目に留まる。あの刃をどうにかして、手首を刃に添わせ、皮膚を切らないように気をつけながら紐を切る。
ギリ、ギリ、ギリ、何とか、1本だけでも切ることが出来れば。
男の縛り方は適当だった。ようやく紐が1本切れると、その後はパラパラっと解ける。
(よしっ、できた!)
自由になった手で、口を縛っていた紐を解く。
「ハァ、ハァ、ハァ、助かった」
まだ、安心できないけれど手も足も口も、自由になったのだ。街道からもそれほど離れていない。
私は立ち上がると、迷子にならないように少年の折った枝を探しながら歩き、街道へ向かって歩いて行く。
しかし薄暗い森の中で、木の根に躓いた私は大きく転んでしまう。
「いっ、痛い」
思わず手をつくが、そこも木の根が張っていて腕に擦り傷を作ってしまう。
転んだ時に足を捻っていたのか、右足の足首が痛い。骨が折れていないと思うけど、これでは長いこと歩けないだろう。
引きずるようにして、少年の残していった枝を探す。日が暮れかかっている。何とかして、街道に出なければ。
痛む足を庇い、ゆっくりと歩いていく。
(どうして、私、こんな目に合わないといけないの)
どうしても気分が塞いでしまう。このまま森を出ることが出来なかったらどうしよう、、このまま、もうウィルティム様に、ウィルストン殿下に会えなかったらどうしよう、
ほんの少し前までは、王宮にいたのに。会おうと思えば、会うことが出来たのに。もっと素直になって、会っていれば良かったのに。
最後に会った夜会でのダンス。彼と踊った時、嬉しそうに口角を上げていた殿下。もう、踊ることもできなくなってしまうのか。
(ダメ、前に、前に進まなきゃ)
殿下に貰ったピアスを思わず触る。まるで殿下が傍にいるように、私を守っているピアス。
気力を振り絞り前に進む。こんな時でも、少年が渡してくれたナイフと、折った枝に助けられている。
前に、前に進まなきゃ。
歩き続けるとその先に森が開け、街道が見えてくる。
(良かった、街道に出られた)
ホッとした安心感と、もう痛くて歩けないという思いが重なり、私は街道で座り込んでしまう。マズイ、と思ったけれど、私はそこで意識を手放し道端に倒れてしまった。
暮れかかっていた日は、もう落ちる寸前だった。
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