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第二章
2-16
しおりを挟む(イたたた、もうっ、いたいけな淑女なんだから、優しく扱ってよね、)
マルーン市場に寄って、気分転換と思ったらいきなり腕を掴まれた。
この魔法石のピアスは、どうやら性的に邪なことを考えて触ってくる手は阻むけど、ただ単なる暴力を抑えることはできないようだ。
「何するのっ」
叫んだけれど、いきなり口を押えられ、何も言えなくなる。その内、空気を吸えなくなった私は意識がフラフラし始めて、気を失ってしまった。
気が付くと、そこは馬車の中だった。口も縛られているから、やっぱり声を出すことが出来ない。
(もうっ、こんなことなら、ユウ君の馬車に乗れば良かった)
後悔しても始まらないが、私もイライラしすぎたのが悪かった。
ディリスお兄様からも忠告されていたのに、ホイホイと王宮に行ってしまったのだ。
(でも、どうしよう。日が傾いているから、結構な時間、馬車に乗っているよね、)
王宮を出たのが2時ごろだとすると、多分、攫われたのは3時ごろ。今の日の入りは大抵6時だから、この陰り方だと、5時くらいかな? 2時間の距離を走っていることになる。
ただ単に攫って殺すことが目的ならば、今頃は生きていない。だから、きっと、殺されることはないだろう。
身代金目的の誘拐であれば、それこそ王都を離れる理由は何だろう。
犯人の拠点が王都にない、とか? でも、それも考えにくい。我が家が貧乏貴族であることは、少し調べればわかることだ。
やっぱり、私怨の類だろう。一番に思い浮かぶのは、やっぱりイザベラ様。彼女のプライドを粉々に砕いたのだ。どこかにポイっと捨てられかねない。
(それでも、普通の令嬢なら、死んでしまうわね、)
こんな街中でもない街道沿いで捨てられれば、野犬に襲われるか、それこそ野宿できずに衰弱死するだろう。
私は、負けない。幸いなことに、転生前の記憶があるから、多少のことではへこたれない、と思う。
ピンチなのに、がぜんやる気が出てきた。必ず生きて戻って、犯人の、多分、イザベラ様を一発叩きたい。
(叩かれたから、一発くらい叩き返してもいいわよね、今度は遠慮しないわ)
でも、心配させてしまうだろうな、ディリスお兄様とか、お父さま。多分、病弱なお母さまには連絡しないと思うけど、それに。ウィルストン殿下も、心配するだろうな。
とにかく、何か考えていなければ恐怖で身体が動かなくなる。
ガタゴトと揺らされると、気持ち悪くなってくる。きっとこの馬車、安物だ、スプリングが悪くて、乗り心地が良くない。
ということは、やはり平民用の馬車だろう。
私を攫っている人たちが、いわゆるプロなのかどうか。もしかすると、森の奥まで運ばれて、遺体が見つかりにくいところで殺されるのかもしれない。
そうした怖い想像は止めておこう。とにかく。生き延びることが大切だから、この人たちがその道のプロでないことを願う。
そんなことを考えていたら、スピードが緩くなった。
「おい、ここら辺でいいだろう。停めろ」
「はいっ」
野太い声が聞こえる。御者台に座っているのは男と、少年なのだろうか、声が幼い。それでも護身術ぐらいしか習っていない私が、どうにかできるとも思えない。
そのうち、馬車はそっと止まるとドアがガチャリと開いた。
「ここだ、出ろ」
腕は縛られているけれど、足は自由だ。馬車から降りると、やはり周囲には何もない街道だ。鬱蒼とした森が広がる。
男が一人と、少年が一人。男は平民の着る服をだらしなく着ているし、少年もつぎはぎだらけの、汚れた服を着ている。男は街のごろつきだろうか。
「ハァ、こんな可愛い顔したお嬢様がなぁ、恨みっていうのは恐ろしいな。おいっ、連れて行くぞっ」
「はいっ、わかりましたっ」
男は私の腕を引っ張り、街道から森の中に入っていく。少年は私の後ろを歩く。この奥で、乱暴されたらどうしよう、奥に入って行かないように、足を動かさないで座り込む。
「チッ、めんどくせぇ。おい、ここでいいだろう」
男の一人が、動かない私を寝かせるとナイフを取り出した。
「おい、お前は一応、周囲をみておきな」
こんな少年の前で私を凌褥するのだろうか、男は興奮して鼻息が荒い。臭い息が鼻にかかる。
(いっ、嫌っ、こ、こんなところで襲われるだなんて、)
鈍く光るナイフを持った男が、私の服を破るために刃を近づけたその時。
――バチバチバチッ――
目の前で魔法石の効果が表れる。ナイフを手放して「イテェっ」と叫んだ男が、痺れた手をさすっている。
「なんだこりゃ? イテテ」
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