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第二章
2-13
しおりを挟む自宅軟禁であったけれど、それを無視するようにユゥベール殿下からの招待状が届く。もうすぐ絵が完成するので、最後の仕上げのためにモデルとして来て欲しい、というものだった。
今は、外出を控えた方がいい。けれど最後の仕上げとなると、あと1回だけでなら大丈夫だろうか。
私は着替えを持って、いつものように迎えに来た馬車に乗り込むと王宮へ向かった。
私が出かける姿を見張る者がいるとは思わずに。安易にも、私は伯爵邸の外へ出てしまったのだった。
王宮に着いた私は、ユゥベール殿下のアトリエに行く道を歩いていると見知った顔の方を見かけた。
「チャーリー様!」
手を振ると、彼は一瞬驚いた顔をして私を見つめる。そして、近づいてくると廊下の隅の方で話をしようと手招いてきた。
「リアリム嬢、もう、頬は大丈夫ですか? あの夜は、だいぶ赤くなっていたようですが」
「は、はい。もう、翌日には治りました。すっかり、元に戻っています」
「そうですか、良かったです。殿下もですが、私も心配しておりました」
「チャーリー様、ありがとうございます」
ウィルストン殿下のみならず、チャーリー様にまで心配をかけてしまった。私がイザベラ様を煽らなければ、さすがに頬を叩くようなことはされなかったはずだ。
「リアリム嬢、不安なことはないか?その、もし、どこか一時、身を隠したいようであれば、私が手配するが」
「えっ、チャーリー様?身を隠すなど、」
「いや、今、君の立場はとても不安定だから、もし、ウィルストン殿下との婚約を進めたくないのであれば、距離を持つことが解決策になるかと思いますが。いかがでしょうか」
チャーリー様は、濃紺の瞳を少し揺らしながら、私の瞳を覗き込む。身を隠す提案をされたけれど、魅力を感じる一方で、それをチャーリー様にお願いしてもいいものかどうか、判断がつかない。
「正直申しますと、今は距離をとりたいのですが、決心がつきません。殿下を好いている思いがあるのも、本当です。後は、私の覚悟なのかと。それが、とても難しいのですが」
思わず下を向いてしまうが、そんな私の顔を覗き込むようにして、チャーリー様は私の手をとった
「リアリム嬢、無理をしないで、私を頼ってくださってもいいのです。その、将来のことが心配なら、私が責任を持ちますので、どうか」
「えっ、責任って、チャーリー様」
言葉の意味を考えると、まるで求婚されているようだ。
チャーリー様は、握った手を更に強く握りしめようとすると、またバチバチっと火花が散る。
「痛いっ」
私は叫んで、思わず手を離してしまう。ディリスお兄様の時と同じだ。まるで、好意を持って近づいてくる男性を跳ね除ける魔法にかかっているようだ。
「あっ、これ、もしかして」
また、熱をもっているピアスを触る。あの時も、このピアスが暖かくなっていた。
「魔法石のピアスですか、殿下もやりますね」
一瞬、睨むようにピアスを見つめるチャーリー様。怖い、と思ったけれど、私の方を向いた時は、いつものように穏やかな顔になっていた。
「リアリム嬢、きっと、このピアスの魔法でしょうね。貴方に近寄る男性を許さない、そんな執念を感じる魔法ですよ、それは。まぁ殿下らしいといえば、そうなのでしょうが」
最後の方はよく聞き取れなかったが、とにかくウィルストン殿下のくれたピアスは、また私を守ってくれたようだ。
「すみません、時間になりますので、行きますね。その、ご提案はありがとうございます。でも、今は屋敷にいますので大丈夫です」
チャーリー様に断りを告げると、彼も「そうですか」と一瞬悲しそうな顔をしたが、その後は普段と同じように、応えてくれた。
私は急いでアトリエを目指す。これ以上、チャーリー様の顔をみていられなかったからだ。こんな、告白めいた言葉を聞いて、私は自分に「勘違いするな」と念じながら、廊下を進んでいった。
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