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第二章
2-11
しおりを挟む「何があったんだ、リアリム。まぁ、話したくないなら、無理に話さなくてもいいが、」
馬車に乗ると、さすがに緊張がとれてきたのかぐったりとしてしまう。
「お兄様、ごめんなさい。その、私が二人の王子殿下をたぶらかしていると言われて。いい加減、頭に来てしまって」
「だが、先にワインをかけたのは先方の方だろう。イザベラ・スコット公爵令嬢か」
「彼女を怒らせてしまったのは、私なの。私がいい加減だから」
そうなのだ、ウィルストン王子からの求婚に、ユゥベール殿下の誘い。それぞれ二人とも注目を集める人物で、そんな目立つ二人とダンスを踊ったのは私だ。嫉妬されても仕方がない。
「リアリム、お前は悪くないよ。まぁ、ワインをかけたのはいただけないが」
「ごめんなさい、お兄様。このことで、ミンストンの家にお咎めがないといいのだけど」
「それは、気にしなくていい。あの場にいた者ならば、どちらが被害を受けているかは明らかだ。むしろ、スコット公爵の方が今頃顔を青くしているだろうな」
馬車は静かに夜の道を駆けていく。その揺れに身を任せていると、ディリスお兄様は「俺に寄りかかればいい」と、肩を貸してくれた。
ガタンゴトンと揺れながら馬車は進んでいく。
私は揺られながら、これからもこうした嫉妬の目を向けられるのだろうか、と思うと気持ちが一気に沈んでいくようだった。
覚悟を決めなくてはいけない。そう思えば思うほど、私は憂鬱になっていく自分の気持ちをどうすればいいのか、わからなくなっていた。
私の逡巡する想いを、ディリスお兄様は静かに受け止めてくれている。私の乱れた髪を撫でるその手は、とても暖かかった。
「チャーリーっ、お前っ、なぜ止めた。あんなっ、ワインをかけられ頬を叩かれていたのだぞ、リアリムはっ」
興奮する俺は側近のチャーリーを連れて、執務室に移動していた。頬を赤らめて、手で押さえているリアリムの顔が思い浮かぶ。
「ウィルストン殿下。殿下があの場に出られますと、収拾するものも収まらなくなります。ディリスがいましたので、彼が適切に対処しました。殿下はお控えくださって、正解でした」
「それは、そうだが。だがっ、リアリムの気持ちはどうなるっ」
まだ怒りが収まらない。ただでさえ、今日のリアリムは注目されひどく噂されていた。
俺としては、はやく俺の婚約者に決定したことを表明したい。そうすれば、今夜のような嫉妬による混乱から彼女を守ることが出来る。
「殿下、よく、お考え下さい。今日の騒ぎの原因を。リアリム嬢は滅多に夜会に出席しないユゥベール殿下と踊られ、そして直後にウィルストン殿下と踊られたのです。皆がいいように誤解しても、仕方ありません」
チャーリーは冷静に説明する。わかる、わかっている。
俺と、ユゥベールの失態だ。リアリムは、今はただの伯爵令嬢にすぎない。それも、議会でも力のない、ミンストン伯爵の娘だ。
ドンっと机を叩く。俺は頭を掻きむしると、「くそっ」と悪態をついた。
リアリムの返事を待つ、と言った俺だが、今夜のようなことがこれ以上起こることは耐えきれない。
何とかして、彼女を守ることができないのか。
焦る俺は、どうにもできない自分自身に怒りを覚える。あの、震える手をとって、支えたかった。
やりきれない怒りに、俺は自分の拳を睨む。すぐにでも動きたいのに、動くことが出来ない。王子と言う身分を、この時ほど恨んだことはなかった。
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