嘘つくつもりはなかったんです!お願いだから忘れて欲しいのにもう遅い。王子様は異世界転生娘を溺愛しているみたいだけどちょっと勘弁して欲しい。

季邑 えり

文字の大きさ
上 下
40 / 61
第二章

2-9

しおりを挟む

 一部のお嬢様たちには、大人の雰囲気を醸し出しているウィルストン殿下よりも、おちゃめな感じのするユゥベール殿下の方が親しみやすいのだろう。

 彼が近づくと、デビュタント達の間で黄色い声が上がる。

「兄上、踊りを代わりますよ。ホラ、あそこにリアリム嬢もいますので、兄上を待っているようでしたよ」

「ユゥベール、お前も少しは気配りが出来るようになったな、あぁ、彼女のところに行ってくるよ」

 何回も踊ったというのに、疲れを見せないウィルストン殿下が近づいてくる。

 夜会で殿下と踊ったことは、これまでなかった。私を見つめながら、まっすぐに歩いてくる殿下。その纏っている雰囲気は高貴で、優雅で、そして煌びやかなものだ。常人にはない、生まれながらの王子様としての風格を持っている。

「リア、待たせたね。今夜は特に、うん、綺麗だ。私の贈ったドレスがよく似合っているよ」

 甘いテノールが響く。本当はまだ、信じられない。本物の王子様から求婚されているなんて。

「私と踊ってくれるかな、リア、私の可愛い妖精姫」

「っは、はいっ」

 ふわりと笑ったウィルストン殿下は、私の手をとってダンスフロアに導く。デビュタント達と踊っていた時は、どこか冷たい壁を感じるような表情しかしていなかった殿下が、いきなり蕩けるような笑顔を見せた。そのことにまた、周囲の人たちはひそひそと囁き合う。

 さすがに踊り慣れている殿下のリードは、とてもスマートだった。

「ウィルストン殿下、とても、踊りやすいです」

「そう言っていただけると、嬉しいよ」

 私の桃色の髪がふわりと舞う。殿下は曲に乗せて私を上手に舞わせてくれる。

「リア、後から、一緒に噴水を見に行こう。この庭園の噴水は、夜はまた格別だよ、」

「えっ、それは、私」

 夜会の時に、噴水の辺りは逢引きの場所になると聞く。そんなところに殿下と二人で行くとなると、何をされるかわからない。

「君のさくらんぼのような唇、はっ、本当に美味しそうだ」

 この会話を誰かに聞かれたらどうしよう、内心、とても焦ってしまう。

「で、殿下、お願いだから、そんなこと言わないで」

 思わずステップを間違えそうになるけど、殿下はお構いなしにリードを続ける。

「可愛いリア、君は私の恋人だろう? 恋人を満足させるのも、大切なことだよ」

 ひぇぇ、殿下、そんなことを言われると益々噴水のところなんて行けません。

「ありがたくご辞退申し上げます、殿下」

「そんな切ないことを言わないで欲しいな」

 そう言うと、ぐっと私を引き寄せて額に唇を当てた。ダンスの途中だから、きっと傍目には距離が近づいただけに見えるだろう。

 だけど、不意に落とされたキスに、私は顔が真っ赤になっているのを感じる。

「でっ、殿下っ」

「ははっ、リアと踊るのは楽しいな、こんなにダンスが楽しいことはなかった。リア」

 曲が終わりを告げるが、殿下は私の手を離さずにいる。そのままテラスを出て、園庭に繋がる廊下へ連れて行かれそうになったところで、声がかかる。

「殿下、そこまですよ。ほら、デビュタント達が待っています」

 お約束のチャーリー様が、有無を言わさぬ雰囲気で殿下を止めてくれた。

「おのれ、チャーリー、お前、またいいところでなぜ止める」

 苦々しい顔をした殿下が睨んでいる。

「殿下、それが私の役割だからですよ。ホラ、遊んでいないで行きますよ」

 普段通り、チャーリー様は顔をしかめながらウィルストン殿下を連れて行こうとする。

「リ、リアっ、もう、私以外の男と踊るのではないぞっ、いいかっ」

 連れて行かれる殿下に、私は笑顔でひらひらと手をふった。良かった、これなら無事にお仕事(ダンス)をしてくれそうだ。

 私は痛いほどの視線を避けて、壁の花となるべく会場の隅へ向かう。ウィルストン殿下は、デビュタント達から挨拶を受けている。王子としての責務だ。

「すごいなぁ」

 さっきまでの情けないような顔と違い、今はキリっとすました顔をしている。かつては悩んだというけれど、今や立派な王子様をしているウィルストン殿下。

 いつか、あの隣に立つことになる自分など、やっぱり思い浮かぶことができない。

 壁の花になるにしても、せっかくの夜会だ。王宮のデザートは美味しい。

 昼間のお茶会では、いつも一工夫あるお菓子が並んでいた。今日も味わって食べよう、とそこに向かうと私の方に近づいてくる集団が目に入る。

「あ、イザベラ様」

 普段であれば、あの集団の後方にいる私だけど、この前からイザベラ様から敵認定されている。一緒にいられるわけがない。

「あら、ごきげんよう、リアリム様。今日は可愛らしいドレスですのね」

「は、はい。ごきげんよう、イザベラ様。イザベラ様も、今日も美しさが輝き出るようなドレスですね」

 今日のイザベラ様は濃い銀色のドレスだ。殿下の髪色を模しているのだろう、大振りのアメジストのネックレスにイヤリングと、普段以上に殿下の色を纏っていて、圧を感じる。

「あら、こちらでよろしいのですか? 最近、面白い噂を聞きましてよ。ピンク色の髪の令嬢が、二人の王子を惑わしていると、貴方も先ほどから、殿下達と踊っていらしたわね。何かご存じかしら?」

 イザベラ様が口を開くと、周囲にいる取り巻き令嬢達も話を合わせる。

「えぇ、私も聞きましたわ。同じ日に、ユゥベール殿下のアトリエにいた方が、その後はウィルストン殿下と園庭にいたとか」

「ユゥベール殿下のアトリエでは、なにやら裸に近い姿だったとか」

「私は、ウィルストン殿下を足蹴にしていたという噂を聞きましたわ、なんて酷い」

 根も葉もなくはない噂話は、だが少しずつ悪意が入っている。まるで、私が二人の王子殿下を誘惑して、堕落させているような話になっていた。

 

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

愚かな者たちは国を滅ぼす【完結】

春の小径
ファンタジー
婚約破棄から始まる国の崩壊 『知らなかったから許される』なんて思わないでください。 それ自体、罪ですよ。 ⭐︎他社でも公開します

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

処理中です...