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第二章

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「あ、兄上。こ、これは、その。あっ、ようこそ、僕のアトリエへ」

 ユウ君はそれでも気を取り直して、ウィルストン殿下をもてなすように中に招き入れた。ウィルストン殿下の後ろには、いつものようにチャーリー様も控えている。

「で、殿下、ご、ごきげんよう」

 私もしまらない恰好だけど、失礼のないようにたち上がり、お辞儀をして挨拶をした。

「ごふっ」

 え? 誰かがむせたような声が聞こえる。キョロキョロと辺りを見渡すと、殿下の側近のチャーリー様が顔に手を当てている。よく見ると顔が赤い。

「リア、服を着ろ。足を見せるな」

 あっ、と思い自分の足をみる。確かに、この世界では淑女はホットパンツなど着ない。ユウ君はともかく、見慣れていないチャーリー様にとっては目の毒だろう。

「ごっ、ごめんなさい、えっと、スカート」

「はい、これ」

 用意のいいユウ君が、巻きスカートを手渡してくれた。巻き巻きすると、ちょうどいい感じになる。

「これでいい? 殿下」

 伺うように彼を見上げると、目元を赤くしながらも「それでいい」と言うように頷いてくれた。

「リア、身体の調子はどうだ? 臥せっていたと聞いたが、無理をさせたか? ん? 初めてだったから、2回に抑えておいたが、それでも、大変だったよな」

 つかつかと私のところに近寄ったウィルストン殿下が、私の髪を梳きながら甘く囁くように気遣ってくれた。

 でも頼むから、ここでその話は恥ずかしい。今いる場所はユウ君のアトリエなのだ。傍にはチャーリー様もいる。

「だが、私の招待では来なかったのに、ユゥベールの誘いであれば、こうして来るのか? ん?」

 あ、ダメ。また黒っぽくなり始めている。

 はっとしてユウ君を見ると、なんと私と殿下が二人でいるところをガン見している。

「ユ、ユウ君?」

「リア、またユゥベールのことをユゥクンだなどと、お仕置きされたいのか?」

「ひえっ、で、殿下! す、すみませんっ、そのっ」

 言い訳も何もでてこない。ワタワタしていると、そんな私を見たユウ君が叫んだ。

「兄上っ、リアっ、しばらくっ、しばらくそのまま!」

 いきなりスケッチブックを取り出して、私たちを怒涛の勢いでスケッチし始めた。「すげぇ、イイ、推しカプやべぇ」と、何か不穏なことを言いながらも一心不乱に絵を描いている。

 そんなユウ君の姿を見たウィルストン殿下は、彼に伝えるように話す。

「ユゥベール、お前、本当に、何の下心もないのだな。リアリムに触れた場合、その手に絵筆を持てなくなると思えよ」

 さすがにその言葉にはぴくっと反応して、「はいっ、決して、決して触りませんっ! だから、描かせてください」と懇願している。

「仕方ない、リア、立っているのは大丈夫か? 腰を悪くしているのではないか?」

「ウィルストン殿下、ええと、は、はい。ちょっと、まだ万全ではないのですが」

 正直に答えると、殿下ははぁ、と息を吐いていきなり私を横抱きにした。

 突然抱えあげられて、彼の吐息がかかる距離に顔が近づいた。首筋を見ると、あの夜の光景をパッと思い出してしまう。時折聞いた彼の苦し気な吐息と喘ぎ声。あの声が、この喉から出たのかと思うと、思わず顔が赤くなるのがわかる。

 そんな私の顔を見て、ウィルストン殿下はふっと顔を綻ばせた。

「ユゥベール、リアは体調不良だ。今日はここまでだ、いいな」

 そう言って出ようとすると、ユウ君が「でたっ、激ヤバスチール!」といってまた叫んでいた。が、その言葉は無視するように、殿下は私を抱えたままアトリエを出て、すたすたと歩いていく。

「殿下、殿下っ、私っ、歩けますっ」

 王宮の廊下を横抱きにされて移動するなど、誰かに見られたりしたら! と思うが、もう婚約者一歩手前なのだから、と再び現実を思い出す。誰に見られても、誤解されてもいいのだ。王子様は痛くも痒くもない。

「また殿下だなどと、他人行儀な。ウィルと呼べ、と言っただろう」

 どうやら向かっている先は、あの夜を過ごしたウィルストン殿下の私室のようだ。

「殿下っ、ダメっ! あのお部屋は、イヤ、イヤなのっ!」

「リア、そんなに嫌がるのか、仕方ない」

 殿下は行先を変えて、園庭にあるガゼボに向かう。燦燦と輝く太陽に照らされた庭園は、気持ちの良い風が吹いていた。

「はぁっ、あ、ありがとうございます」

 ここなら、周囲の目もあるだろう。また流されて不埒な真似をされるのも嫌だった。

 ホッとしたのもつかの間、ウィルストン殿下は私の隣に座り、私の手を握り締めた。


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