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第一章

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 目をカッと開いて驚いているウィルティム様。そのうち口をパクパクとさせてきた。

「な、何故、ど、どうしたというんだ、リアリム嬢、」

 私も、もう一度エールをぐいっと飲んで、勢いをつける。

「はい、純潔がなくなれば、いいかげんに王子も私のことを諦めてくれると思って。それに、初めてはウィルティム様がいい」

「――俺が、いいのか?」

「はい、大好きです」

 わわわ、はっきり告げてしまった。私、かなり酔っている。でも、でも、この恋は本気。そして、初めてを捧げたいのも、本当。

「そう、か、、だが、乙女の純潔をもらうからには、俺は責任をとりたい」

 真面目な顔をしたウィルティム様は、背筋を伸ばして真っすぐな目で私を見つめてくる。

「あ、そういうのは大丈夫です。気軽に考えてください。据え膳、くらいで。私、そんな結婚まで責任取って、というつもりはありません」

 私の返答が意外だったのか、ウィルティム様はまたもポカーンとしてしまった。確かに、こんなにも純潔を軽くみている貴族女性はいないだろう。

「くっ、君は本当に規格外だな。しかし、私にも騎士としての矜持がある。女性の純潔を奪って、そのままというわけにはいかない。リアリム嬢は、私と結婚することを考えられないのかな?」

「へっ、あ、いえ、もちろんウィルティム様と結婚出来たら嬉しいですけど、貴族ではない方と結婚することを、父が、伯爵家が許すとは思えなくて」

「そうか、では、ミンストン伯爵の許しがあれば、俺と結婚してくれるか? 俺がたとえ、どんな立場の男であっても」

「はい、父とか、ディリス兄さまとかが許してくだされば、嬉しいですねぇ、」

 どうやら酔いが回ってきているみたい。そんな夢物語、可能だろうか。私が貴族籍を抜けて庶民になることは構わない。けれど、それによって伯爵家がどれだけダメージを得ることになるか。考えるだけで恐ろしい。

 またエールをぐいっと飲むと、ジョッキが空になる。お代わりを頼もうと思ったところで、ウィルティム様が私の手を止めた。

「ちょっと、待ってくれ。今、この紙にサインして。ここ、そう、今君が言ったことを証明するだけだから。俺がどんな立場であっても、ミンストン伯爵の許可があれば結婚する、ってこと」

 ほわほわしているうちに、気が付いたら書面に血判を押すところまで用意された。

 ウィルティム様も、ここまでして騎士の矜持を保ちたいんだね~、やっぱり私の選んだ人は素晴らしい人だ。これがあれば、私の純潔を散らした責任を果たせなくても、それはミンストン伯爵の許可がでなかっただけで、ウィルティム様の責任にはならない。

 この紙が彼を守ることになるのであれば、、と思い私は思いきって指にチョンと傷つけ、血を垂らして指を押す。私のフルネームも書き記した。

「おーい、親父、ここの見届け人のところに署名を頼む」

 なんと、ウィルティム様は隣の机で陽気に酒を飲んでいたおじさんを捕まえて、署名を頼んでいた。

「お嬢ちゃん、大丈夫かい?」
 
 陽気なおじさんは、署名をする前にちょこっと私の顔を見た。

「へへっ、もちろんです! ウィルティム様と結婚出来れば、こんなにも嬉しいことはありませんっ!」

 完全に酔っ払いの私は、惚気にも近い言葉を平気で叫んでいた。

「じゃぁ、遠慮なく署名しておくからね。グッドラック」

 おじさんは署名すると、何かをぶつぶつと唱えて、それから親指をぐっと立てた。

 ウィルティム様はおじさんと何かおしゃべりした後、その書面を大切そうにしてカバンに入れた。

「さ、リアリム、行くよ」

 ほわっとしてた私の手をとったウィルティム様は、ガタっと音をたてて椅子から立ち上がりそのまま出口に向かう。

「へっ、え? ど、どこに行くのですか~」

 てっきり、居酒屋の二階で致すのかと思っていた私は、連れて行かれるままに馬車に乗せられた。

(あれ? いつのまに馬車が、どこに行くのかな、もう、ちょっと眠い、)

 馬車の揺れがいい感じで私の眠気を誘い、久しぶりのアルコールに酔った私は「少し寝るといいよ」という優しい声を聞いて、そのままウトウトと眠ってしまった。

 あ、あのおじさんにお礼も言えなかったな、

 そんな私は、自分がどこに連れ去られているのかさえ、わかっていなかった。そして、今押した書面の本当の意味も。

 夜は更けていき、気が付いた時には、私は天蓋付きの大きなベッドの上に横たわっていた。

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