23 / 61
第一章
1-23
しおりを挟む「ふっ、くく、く」
「ウィルストン殿下、ご機嫌ですね。でしたらこちらの書類を」
「チャーリー、お前は。私が浸っている時間くらい、邪魔をするな。全く、いつもお前に邪魔をされてばかりだから、何も進展しなかったではないか」
少し眉を寄せながらも、ウィルストン殿下は書類をさばいていく。王宮の、殿下の執務室では私と殿下の二人だけになっていた。朝から、顔を緩めていてどうやら集中できていない。
「で、殿下。ミンストン伯爵令嬢は了解していただけたのでしょうか? 婚約の方を進めさせていただいても、よろしいですか?」
「あ~、それだけど、な、ちょっと待ってくれ」
「はい?どうしましたか?殿下」
「いや、このおかしな状況も面白くなってきた。王子である私との婚約を止めるため、騎士である私と付き合い始めたリアリムがな、こう、可愛くて」
頬をポッと赤く染めた殿下は、普段は決してみせない恋する男の顔をしている。
「この前などは、王子である私に、騎士である私の好きなところを切々と説明する様など、本当に、食べてしまおうかと思うほど可愛かったぞ」
「殿下、顔がアホになっていますよ。蕩けすぎです。というか、そこまで言われるなら早く婚約してください」
殿下のお心が決まっているのであれば、もう強引に進めてしまえばいいものを、と思いつつも、あくまでも殿下はリアリム嬢の想いを大切にしているか、ただ単に面白がっているのか。後者かもしれない。
「リチャード、まぁ、そう言うな。私も時期を見て、きちんとプロポーズするから。そうだな、ロマンチックなところがいいかな」
いかん! また殿下の頭がお花畑になっている! こうなると、仕事がはかどらなくなるから、気をつけないといけない。
「殿下、あと、一つ気になる報告が上がっています」
「ん? なんだ? リアリムのことか?」
「はい、リアリム様ですが、どうやら先日のお茶会の後、王宮でユゥベール第二王子と偶然お会いしたそうです」
「何っ、ユゥベールだと? アイツはアトリエにいたのではなかったのか?」
殿下は焦ったように、頭を現世に戻してこられた。
「はい、どうやらユゥベール殿下がリアリム様の髪色をいたく気に入られて、アトリエに誘われたそうです。そして、中でお二人が抱きしめ合っていたところを影が目撃しています」
「なっ、なんだと! 抱きしめ合うだと! わ、私でさえこの姿で抱きしめたことはないのに」
顔色がサッと青くなっている。
「ですが、その後はお話をされるだけで、終始にこやかに過ごされていたようです。話の内容まではどうやら確認できなかったようです」
「そうかユゥベールか、全く。アトリエに引きこもっていたいと言うから、自由にさせているのだが」
殿下は何か考えられるように、腕を組みながら上の方を見ていた。
「その後のユゥベール殿下ですが、髪を切り、髭を剃って朝も早く起きて鍛錬に出られるようになったとのことです。リアリム様が何か言われたことが作用しているように思われます」
今度は殿下は、両手で頭を抱え込まれるようにして、下を向いてしまった。
「リアリム、君って人は、何をしているんだ」
はあっ、と一つ大きく息を吐いた殿下は、「続けて、ユゥベールとリアリムに影をつけておくように」と指示を出された。
「はい、既に手配しています」
私は殿下の憂いている顔を見ながら、厄介なことにならなければいいのだが、と思うしかなかった。
10
お気に入りに追加
692
あなたにおすすめの小説

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた
菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…?
※他サイトでも掲載中しております。
悪役令嬢は永眠しました
詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」
長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。
だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。
ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」
*思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m
【完結】お飾りの妻からの挑戦状
おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。
「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」
しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ……
◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています
◇全18話で完結予定
どうも、死んだはずの悪役令嬢です。
西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。
皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。
アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。
「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」
こっそり呟いた瞬間、
《願いを聞き届けてあげるよ!》
何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。
「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」
義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。
今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで…
ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。
はたしてアシュレイは元に戻れるのか?
剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。
ざまあが書きたかった。それだけです。

【完結】王女様の暇つぶしに私を巻き込まないでください
むとうみつき
ファンタジー
暇を持て余した王女殿下が、自らの婚約者候補達にゲームの提案。
「勉強しか興味のない、あのガリ勉女を恋に落としなさい!」
それって私のことだよね?!
そんな王女様の話しをうっかり聞いてしまっていた、ガリ勉女シェリル。
でもシェリルには必死で勉強する理由があって…。
長編です。
よろしくお願いします。
カクヨムにも投稿しています。

義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました
さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。
私との約束なんかなかったかのように…
それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。
そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね…
分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる