嘘つくつもりはなかったんです!お願いだから忘れて欲しいのにもう遅い。王子様は異世界転生娘を溺愛しているみたいだけどちょっと勘弁して欲しい。

季邑 えり

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第一章

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「で、殿下。私、お伝えしたいことがあります」

 勇気を振り絞って、今日こそはきちんと断ろう。
 これ以上、婚約者選定のためのお茶会には出席できません、と。

 ん? と首を傾げた殿下は、腕を組みながら私の話を聞いてくれていた。

「あの、私には、その、心に決めた方がいます。その方と、先日ようやく恋人同士となれました。ついては、もうこれ以上、殿下の婚約者選定のためのお茶会には、出席できません。」

 プルプルと震えながら顔を上げると、殿下はにやり、と笑って私を眺めている。

「で、殿下?」

「あ、あぁ、そうか、心に決めた方ねぇ、その相手は、どういった人なの?」

「はい、あの、名前は言えませんが、とても優しい方です。私を包み込むような、いつも明るくて、その。私の存在を愛おしんでくれるような方で、私はとても安心できるんです」

「ふーん、そうなんだね。で? もっと聞かせてくれるかな?」

 どうしてだろう。殿下は私がどうしてウィルティム様を好きなのか、どこがいいのかを興味深そうに聞いてきた。

 納得して諦めて欲しい私は、必死になって説明する。

「彼の大きな手で、私の手を握ってくれると、その、胸がときめいて。剣ダコがごつごつとしているのですが、その固い手が不器用な感じで私の頬を撫でると、ドキドキが止まらないのです。先日はそのまま顎をくいっともたれて、あ」

 しまった。話しすぎたかな、これじゃあ、ただの惚気話を殿下にしているようなものだ。

 でも殿下は、「もっと、具体的に聞かせて欲しい」と言ってくる。

「その、はしたないのですが、彼が唇をふわっとくっつけてくれたのです。柔らかくて、私はびっくりしたのですが、天にも昇るような気持ちでいっぱいでした。もう、彼のことを2年以上も好きだったので、こうしてキスしてくれる関係になれたことが、本当に嬉しくて」

 チラッと殿下を見ると、なぜか嬉しそうな顔をしている。

 おかしい、でも続けて話せってことだよね。

「その後も、何度もこう、優しくキスしてくれたのですが、殿下? こんな私、幻滅されますよ、ね?」
  
 あれ? 殿下が耳を真っ赤にして震えている、ような?

「そうかぁ、君はキスが気に入ったんだね」

「はい、その後も彼が優しく私の瞳を褒めてくれて。その日の夜は、なかなか眠れなかったのです」

 おかしい。私、何故か恋愛小説を語っているのだけど。
 殿下はさっきからくつくつと笑いをこらえるようにしている。

「いや、君がその相手を本当に好きなことがわかったよ、君は愛情深い人だね。ますます気に入ったよ」

 そう言って殿下は私の顎を持ち上げた。
 あれ? この姿勢、以前もあったような?

 殿下は白い手袋をしているから、直接その指に触れているわけではない。だけど、こうして瞳を覗き込まれるのは

「あぁ、君の瞳が水色に変化している。やっぱり、綺麗だ」

 濃紺の瞳が、日の光に当たると変化する。でも、私自身はそれを見ることは少ない。
 鏡を見るのは、室内が多いからだ。

「殿下、そ、その。近すぎます、どうか、離れてください」

「イヤだと言ったら?」

 揶揄うような視線で、殿下は眺めてくる。
 吐息がかかるほど近づいてくる殿下に、私は狼狽えて目を逸らしてしまう。

「殿下、私には好きな方がいるのです、どうか、お許しください」

「ふーん、そんなにその男が好きなのか? この私よりも、か?」

「殿下のことは、あの、尊敬しておりますが、とにかく私には恋しい方がいるのです。どうか、この手を放してください」

 ちょっと涙目になってくる。おかしい、きちんと恋人の存在を説明して、お断りしているハズなのに。
 何か殿下のスイッチを押してしまったのだろうか。



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