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第一章

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 お茶会の日は、憎らしい程に晴天だった。雨でも降れば、ガーデンでなく王宮の中で開催されるだろう。
その方が隠れる場所も多いのに、今日は遮るものもないので、ばっちり殿下やイザベラ嬢の姿が見える。

 今日のイザベラ様は、果敢にウィルストン殿下にアタックしているようだ。
薄紫のドレスに、今日は珍しく髪を巻いている。
いつもは美しいストレートの髪をすとんと降ろしていることが多いが、今日はこてを使ったのかくるり、と大きく巻いている。

やっぱり、イザベラ様は美しい。

 遠目でみても、イザベラ様とウィルストン殿下のカップルは美男美女だし、隣に立っている姿をみると本当にお似合いの二人だ。

 なぜか、胸の奥がキュッと鳴った。おかしい、ウィルストン殿下のことは、全く好きでも何でもないのに。
不思議に思って、また殿下をみると、少し難しい顔をしながら必死に何か話している様子が見えた。

 イザベラ様も、扇で口元を隠しているがあの顔は喜んでいる顔だ。

 ウィルストン殿下と会話すると、いつもイザベラ様は機嫌が良くなっている。
腰ぎんちゃくとしては、機嫌の良しあしは大変気になるところだけど、既にイザベラ様に敵認定されているみたいで、実は誰も私に話しかけてこない。

「ハァ、なっちゃった、イザベラ様に敵認定されるなんて」

 なぜか、殿下から花束付で招待状を貰ったこととか、宰相の選抜ではなく殿下推薦で私がお茶会に来ていることなどが、イザベラ様にバレた。

 よって、イザベラ様の新たなターゲットとして敵認定されたのだ。

 過去、イザベラ様から敵認定をされて生き残っている令嬢はいない。
皆、領地に引きこもるか不良物件と結婚して社交界から遠ざかっている。

 もう、殿下のロックオンを外しても社交界に戻れないかもしれない。
全くもって面倒な立場になってしまった。

 一人でポツンと立っているのもバカらしい、私はお菓子エリアに行って今日の焼き菓子を眺める。
やはり今日も美しく、そして美味しそうなお菓子たちが私を見つめている。

 そうね、今日はこのプチ・タルトを頂こうかしら。

 お淑やかな令嬢とは言い難いほど、口を大きく「あーん」と開けて、プチ・タルトを一つ丸ごと食べる。
これまで宮廷で出されるお菓子は、なるべく小さく刻んで口に入れていた。

けど、もう、マナーも何もあるか!
どうせもう嫌われているのだから、開き直って美味しいものを美味しくいただきたい。

「君は、本当に甘いものに目がないんだね」

 まだ口の中にはタルトがいて、幸せを噛みしめていたのに、私はごくん、と飲み込んでから振り返る。

 そこにいたのは、いつも通り銀色の髪を輝かせて微笑むウィルストン殿下であった。

「殿下、殿下も欲しいのですか? では、どうぞ」

 やけになっていた私。プチ・タルトを一つとって、殿下の口元に運ぶ。
こんな無礼なことをすれば、流石に引くだろう。

 と思っていたのに、殿下も大きく口を開けると、パクっと私の手からタルトをそのまま口の中に入れた。


「――!!!――」


 冗談半分だったのに! 私の指までちょろっと舐めて、殿下は口をもぎゅもぎゅと動かしてからごくん、と飲みこんだ。

「うん、このタルトも美味しかった。君の手から頂くと、何でも美味しくなるようだね」

 舌をペロッとだして唇についた屑を舐める仕草は、何とも言えない色気がある。
ぞくぞくっとした寒気のようなものが背中に走る。

「そ、それは、良かったですわ」

 どどど、どうしよう。何故か殿下はくくく、と揶揄うような視線で私を見つめてくる。
そしてその殿下の向こう側には、また般若のお面を被ったようなイザベラ様の顔が見えた。

マズイどころではない。イザベラ様の背後には黒いものが見えるようだ。

私、ライフ残っているのかな。


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