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第一章
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しおりを挟む「で? 殿下はお忙しい中に抜け出して、一体何をされていたのですか?」
私は今、昨日のデートで抜けた穴を埋めるための膨大な書類を目の前にして、リチャードに問い詰められている。今日一日は、この王宮の執務室からは出られないだろう。
「いや、なんだ、その、ほら、婚約者選定のための、大切な時間だった」
「殿下、では、決められたとでも言うのですか?」
「あぁ、もう決めた。彼女しか考えられない」
「は? もう決めた、ですか?」
「あぁ、彼女だけだ。私の隣に立って、私と一緒に考えて、私を支えられるのは。彼女しかいない」
「それは、婚約者にはリアリム・ミンストン伯爵令嬢を指名するということですか?」
「もちろんだ。だが、まだ彼女は承諾していない。余計な手を出すなよ」
「そうは言われましても、はい、ではもう少し様子をみましょうか。でも殿下、決められたのでしたら、早めに手を打たれた方がよろしいですね。他の令嬢たちに期待を持たせて、待たせている状況ですから、ね」
「あぁ、わかっている」
そう、承諾してもらえれば。リアリム、君の答えが欲しい。どうか、私の婚約者となって欲しい。その為には、そろそろ、正体を伝える必要があるかもしれない、と。
目の前の書類にため息をつきながら、次のお茶会まであと少し、と思うのであった。
家に無事、送り届けられた私は酷く驚いていた。
あの、ウィルティム様からキスされたのだ。その上、抱きしめられてしまった。
前世の記憶は遠くて、霞んでいる。今の身体で、初めて触れられたその腕の逞しさと、厚い胸板の感触が忘れられない。
「ハァ、あのキス。すごかった」
温かい唇の感触を、思い出すたびにキュンとする。彼のテノールの声ではぁ、とキスの後についた吐息に、甘く囁く声。
ウィルティム様は私を口説く、と言われたけれどもう既に私の中に、彼は大きな存在になっている。けれど
「でもどうしようも、ないよね」
いくら想っていても、相手は貴族ではない。その壁の大きさを改めて感じてしまう。
「でも、恋人関係も期間限定のことだし。もうちょっと、いいよね」
それでも、あまり長引かせないように。次のお茶会では、きちんと殿下に断ろう。
恋人がいます、と言えば殿下もこれ以上、私に拘ることもないだろうし
「うん、何とかして諦めてもらおう。また、目立たないようにしなくちゃね」
寝苦しさを感じながら、私はどうやって次のお茶会をやり過ごそうかと、思うのであった。
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