上 下
17 / 61
第一章

1-17

しおりを挟む


「で? 殿下はお忙しい中に抜け出して、一体何をされていたのですか?」

 私は今、昨日のデートで抜けた穴を埋めるための膨大な書類を目の前にして、リチャードに問い詰められている。今日一日は、この王宮の執務室からは出られないだろう。

「いや、なんだ、その、ほら、婚約者選定のための、大切な時間だった」

「殿下、では、決められたとでも言うのですか?」

「あぁ、もう決めた。彼女しか考えられない」

「は? もう決めた、ですか?」

「あぁ、彼女だけだ。私の隣に立って、私と一緒に考えて、私を支えられるのは。彼女しかいない」

「それは、婚約者にはリアリム・ミンストン伯爵令嬢を指名するということですか?」

「もちろんだ。だが、まだ彼女は承諾していない。余計な手を出すなよ」

「そうは言われましても、はい、ではもう少し様子をみましょうか。でも殿下、決められたのでしたら、早めに手を打たれた方がよろしいですね。他の令嬢たちに期待を持たせて、待たせている状況ですから、ね」

「あぁ、わかっている」

 そう、承諾してもらえれば。リアリム、君の答えが欲しい。どうか、私の婚約者となって欲しい。その為には、そろそろ、正体を伝える必要があるかもしれない、と。

 目の前の書類にため息をつきながら、次のお茶会まであと少し、と思うのであった。





 家に無事、送り届けられた私は酷く驚いていた。

 あの、ウィルティム様からキスされたのだ。その上、抱きしめられてしまった。
 前世の記憶は遠くて、霞んでいる。今の身体で、初めて触れられたその腕の逞しさと、厚い胸板の感触が忘れられない。

「ハァ、あのキス。すごかった」

 温かい唇の感触を、思い出すたびにキュンとする。彼のテノールの声ではぁ、とキスの後についた吐息に、甘く囁く声。

 ウィルティム様は私を口説く、と言われたけれどもう既に私の中に、彼は大きな存在になっている。けれど

「でもどうしようも、ないよね」

 いくら想っていても、相手は貴族ではない。その壁の大きさを改めて感じてしまう。

「でも、恋人関係も期間限定のことだし。もうちょっと、いいよね」

 それでも、あまり長引かせないように。次のお茶会では、きちんと殿下に断ろう。
 恋人がいます、と言えば殿下もこれ以上、私に拘ることもないだろうし

「うん、何とかして諦めてもらおう。また、目立たないようにしなくちゃね」

 寝苦しさを感じながら、私はどうやって次のお茶会をやり過ごそうかと、思うのであった。



しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

【完結】婚約者が好きなのです

maruko
恋愛
リリーベルの婚約者は誰にでも優しいオーラン・ドートル侯爵令息様。 でもそんな優しい婚約者がたった一人に対してだけ何故か冷たい。 冷たくされてるのはアリー・メーキリー侯爵令嬢。 彼の幼馴染だ。 そんなある日。偶然アリー様がこらえきれない涙を流すのを見てしまった。見つめる先には婚約者の姿。 私はどうすればいいのだろうか。 全34話(番外編含む) ※他サイトにも投稿しております ※1話〜4話までは文字数多めです 注)感想欄は全話読んでから閲覧ください(汗)

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

うたた寝している間に運命が変わりました。

gacchi
恋愛
優柔不断な第三王子フレディ様の婚約者として、幼いころから色々と苦労してきたけど、最近はもう呆れてしまって放置気味。そんな中、お義姉様がフレディ様の子を身ごもった?私との婚約は解消?私は学園を卒業したら修道院へ入れられることに。…だったはずなのに、カフェテリアでうたた寝していたら、私の運命は変わってしまったようです。

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

「お前を愛するつもりはない」な仮面の騎士様と結婚しました~でも白い結婚のはずなのに溺愛してきます!~

卯月ミント
恋愛
「お前を愛するつもりはない」 絵を描くのが趣味の侯爵令嬢ソールーナは、仮面の英雄騎士リュクレスと結婚した。 だが初夜で「お前を愛するつもりはない」なんて言われてしまい……。 ソールーナだって好きでもないのにした結婚である。二人はお互いカタチだけの夫婦となろう、とその夜は取り決めたのだが。 なのに「キスしないと出られない部屋」に閉じ込められて!? 「目を閉じてくれるか?」「えっ?」「仮面とるから……」 書き溜めがある内は、1日1~話更新します それ以降の更新は、ある程度書き溜めてからの投稿となります *仮面の俺様ナルシスト騎士×絵描き熱中令嬢の溺愛ラブコメです。 *ゆるふわ異世界ファンタジー設定です。 *コメディ強めです。 *hotランキング14位行きました!お読みいただき&お気に入り登録していただきまして、本当にありがとうございます!

【完結】元お飾り聖女はなぜか腹黒宰相様に溺愛されています!?

雨宮羽那
恋愛
 元社畜聖女×笑顔の腹黒宰相のラブストーリー。 ◇◇◇◇  名も無きお飾り聖女だった私は、過労で倒れたその日、思い出した。  自分が前世、疲れきった新卒社会人・花菱桔梗(はなびし ききょう)という日本人女性だったことに。    運良く婚約者の王子から婚約破棄を告げられたので、前世の教訓を活かし私は逃げることに決めました!  なのに、宰相閣下から求婚されて!? 何故か甘やかされているんですけど、何か裏があったりしますか!? ◇◇◇◇ お気に入り登録、エールありがとうございます♡ ※ざまぁはゆっくりじわじわと進行します。 ※「小説家になろう」「エブリスタ」様にも掲載しております(アルファポリス先行)。 ※この作品はフィクションです。特定の政治思想を肯定または否定するものではありません(_ _*))

処理中です...