嘘つくつもりはなかったんです!お願いだから忘れて欲しいのにもう遅い。王子様は異世界転生娘を溺愛しているみたいだけどちょっと勘弁して欲しい。

季邑 えり

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第一章

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 ランチを終えた私たちは、午後の散策ということで公園を歩くことにした。今は薔薇の季節で、美しく咲いている。散歩道を歩きながら、程よい木陰のベンチを見つけた私たちは、そこに移動して少し休むことにした。

「そういえば、殿下にも王宮の薔薇をみないか、って誘われました。あの時は、二人きりになるのが怖かったのですが。何とかなって、良かったです」

「そ、そうか。殿下と二人きりになるのが、怖かった?」

「ええ、だって、二人きりになって口説かれたら、私、断れませんよ? 相手は王子様ですから」

「そうかぁ、殿下の立場は大変だな。好きになった女性を口説く自由もないのか」

「へ? まぁ、自由ではないでしょうね。でも、誰しもが不自由ではありませんか。自由にみえて、不自由ですよ」

「それは、どうして?」

「だって、私は働かなくても生きていけますが、伯爵令嬢としての義務があります。王子もそうでしょう。平民の方が自由が多いように見えますが、生活の糧を得るために毎日労働をしなくてはいけない。ね、不自由ですよ」

「なるほど。そう、考えるのだね。君は」

「はい。だから、多かれ少なかれ、程度の問題です。要は、与えられた環境をどうやって楽しんで生きるか、です」

「ははっ、そんな風に考えられると、気持ちが楽になるだろうね。だから、殿下も君にロックオンしたんじゃないのかな?」

「へっ? そんなに変わっていますか? 私?」

「あぁ、十分に変わっていて、魅力的だよ。本当に、もう他の女性なんて目に入らないくらい」

 あ、また一人でぶつぶつ言っている。せっかくの公園デート、風が心地よく吹いている。

 ふと、ウィルティム様を見上げると日の光を浴びて髪がキラキラと輝いている。こうしてみると、まるでウィルストン殿下とそっくりだ。背の高さも、髪と瞳の色が同じであれば、本人と言われても信じてしまうだろう。

 ウィルティム様? もしかして殿下と双子だったとか?

 いや、そんなことはあり得ない。ウィルストン殿下は皇后さまの第一子だ。と言うことは、王様の隠し子?

 バカなことを思い浮かべた私は、一人でふふっと笑ってしまう。ウィルストン殿下とウィルティム様がそっくりなのは、もしかしたら。

「まさか。え、そんなこと、あるわけないよね」

 双子でも、兄弟でもなくて、これだけそっくりで、もしかしたら、同一人物だとしたら?

 私はその可能性を考えたが、そうではないと思いたかった。私が好きなウィルティム様が、本当はウィルストン殿下だとしたら。

 眩しく光る太陽と輝くような髪を見ながら、私は自分に降りかかっている事態から逃れられないかもしれない、という予感を感じた。

 そうではないと信じたい私とそうかもしれない、と疑う私。

 そんなことを考えていた私は、目前にウィルティム様の顔が近づいていることに気づかなかった。ふわっと柔らかい感触が唇に当たる。

 何だろうと思った時には、ウィルティム様の微笑みがすぐ近くにあった。

「あっ、あの、今」

 きっと頬が赤くなっている。血が顔中に上がってきているように思う。

「うん、もう一度、いいかな」

 そう言った途端に、また私の唇の上に、彼の唇を置いた。さっきよりも長く、そして暖かい。そして離れた唇のウィルティム様が、私を気遣うように囁いた。

「大丈夫かい? キスは初めてだった?」

 今、絶対に顔が赤い。ファースト・キスを、それも2度も。

「は、初めてですっ! もうっ」

「ははっ、ボーっとしているから、隙だらけだったよ」

 朗らかに笑うウィルティム様の顔を見ていたら、今度は「もっと俺に慣れるように」と言って、私を柔らかく抱きしめた。ふわりと香る匂いは、これまで嗅いだことのない男の人の匂いだ。

「あっ、あのウィルティム様、ち、近いです」

 抱きしめられて、目の前にはウィルティム様の厚い胸板しかみえない。

「あぁ、君をこのまま閉じ込めておきたい」

「あ、あの、ダメ、ですよ。私が頼んだのは、仮の恋人であって、その、こうしたことは」

 さっきから止まることのない胸の鼓動。抱きしめられる腕の力は変わらなくて、どうあがいても逃れられない。

 これ以上深入りしてはいけない、と、冷静な部分が私を止めようとしているが、その一方で今だけでも恋しい人と一緒に過ごしたい、という想いとせめぎ合う。

 このまま、ウィルティム様と一緒にいられる身分であったら。なぜ、私は伯爵令嬢なんかに転生しているのだろう。

 庶民として出会っていたら、ウィルティム様ともっと自由に恋愛できただろうか。

「リアリム。また、こうして君の瞳を見つめていたい」

 甘く囁く声に身体が震える。こんなにも切ない想いになるなんて。

「ウィルティム様、私、私」

 声にならない言葉を飲み込む。本当は、大きな声で言いたかった。

 ――私、貴方のことが好きです、と。


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