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第一章
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なるべくならフェアでいたい私は、市場でお金をださせてしまったので、屋台での食事代を払うことにした。ウィルティム様は少し納得していなかった様子だったけど、私が主張するので、そのまま支払わせてくれた。
「本当に、君は変わっているな」
「ん? そうですか? ホラ、冷めないうちに食べてください。ガブッと行きましょう、ガブッと」
アツアツの串刺し肉を二つ買って、二人で食べる。香辛料がピリッとした味を付けていて、本当に美味しい。
普段はテーブルマナーとか気にしながらの食事だけれど、今日は噛り付いて食べる。
「そっか! こうしたマナー違反の食べ方を見せれば、殿下は私のことを諦めてくれるかな」
「ん? それは第一王子のことか? 彼も変わっているから、そういったことでは嫌いにならないと思うけどな。むしろ好きそうだが」
「え? ウィルティム様は殿下のことをご存知なの?」
「あ、いや、騎士団にいると、それなりに接する機会はあるから、な」
そう言ってウィルティム様も、串刺し肉をかじっている。普段は美しい所作の彼が、お肉をかじりついている。それはそれで、普段の姿と違って面白い。
「ふふっ、ウィルティム様の新しい姿を見ることが出来ましたわ」
「それを言うなら、俺の方が君の新しい姿をみてばかりだ」
「幻滅されましたか? 普通の令嬢ではなくて。私はこうして連れ出してくださって、嬉しい限りですが」
ちょっと拗ねた感じで彼をみると、そんなことはない、と目を開いて話してくれる。
「幻滅するだって? まさか! 君の新しい魅力を発見できて、嬉しい限りだよ」
社交辞令としても、嬉しかった。私はかなりこの世界に馴染んでいるけれど、時々こうして転生前の性格がでてしまう。それを「貴族らしくない」と言われてしまっては、やはり悲しい。
「ありがとうございます。そう言っていただけると、嬉しいです。今日も、市場を見ることが出来て良かった」
「本当に、まさか初めてのデートで市場に来ることになるとは思わなかったよ。でも、どうして市場だったの?」
「えっと人々の生きた姿と言うか、物価とか知りたかったし、他にも貨幣の価値とか。本当に、この国の王様はいい王様みたいですね。インフレもないし、貨幣の信用もどうやら高いみたいですし」
「え? インフレ?」
「あ、すみません、物価が急に上がることです。王様の政治が良くないと、急に物価が高くなったり、お金の信用が、えっと、お金の価値が下がることでも物価は高くなるので。そうしたことが、近年ないということですから、王様の政治はきちんとしているんだな、と」
「君は、そうしたことをどこで習ったのかな?」
ウィルティム様は、少し疑った目で私を見てきた。
しまった! 経済学の基本だけど。この国で習ったことはなかったわ。マズイかな?
「ほ、本です。確か本で読みました。ははは」
「そうか、君は変わっているだけではなくて、博識だな。経済に興味があるとは、ますます君を手放せないな」
「はいっ? 何か言いましたか?」
また何か、微妙なことを言われたような。気のせいだろうか。
「あ、デザートの代わりといっては何ですが、クッキーを焼いてきました」
そう言って、少しだけ焼いたクッキーを取り出して、ウィルティム様の目の前に差し出した。
「いつものクッキーですけど、ね。はい、あーん」
一つ取り出して、彼の口元へ運ぶ。その私の手元をみて、ウィルティム様は驚いて固まっていた。
「はい、どうぞ。口を開けてください、な?」
そう言うと、ようやく開いたウィルティム様の口へ、一つクッキーをポイっと入れてしまう。
むしゃむしゃと食べた彼は、手で目元を覆っていた。よく見ると耳元が赤い。
「もう一つ、いかがですか? あーん、してください?」
言われた通りに口を開けてくれたので、もう一つ入れてあげる。よかった、美味しそうに食べてくれている。
嬉しくてニコニコとしてしまう。やっぱり、手作りのものを美味しく食べてもらえることが、一番嬉しい。
「き、君も食べなよ、俺はもう、大丈夫だから」
そう言ったウィルティム様は、一つクッキーを取り出すと今度は私に「はい、あーん」と言って差し出してきた。
「あ、ありがとうございます」
これ、なかなか恥ずかしい。自分がウィルティム様にしていてなんだけど。されると恥ずかしいものだった。
「あーんっ」
口を開けて、クッキーと共にウィルティム様の指も食べてしまう。チュパッと音を立てて指を引き抜いた彼は、非常に微妙な顔をしていた。
「君って、本当に飽きないよ。ダメだ。振り回すつもりが、振り回されているな、俺」
またウィルティム様は斜め横を見ながら一人でぶつぶつと話していた。今日の彼は一人言が多い。
「本当に、君は変わっているな」
「ん? そうですか? ホラ、冷めないうちに食べてください。ガブッと行きましょう、ガブッと」
アツアツの串刺し肉を二つ買って、二人で食べる。香辛料がピリッとした味を付けていて、本当に美味しい。
普段はテーブルマナーとか気にしながらの食事だけれど、今日は噛り付いて食べる。
「そっか! こうしたマナー違反の食べ方を見せれば、殿下は私のことを諦めてくれるかな」
「ん? それは第一王子のことか? 彼も変わっているから、そういったことでは嫌いにならないと思うけどな。むしろ好きそうだが」
「え? ウィルティム様は殿下のことをご存知なの?」
「あ、いや、騎士団にいると、それなりに接する機会はあるから、な」
そう言ってウィルティム様も、串刺し肉をかじっている。普段は美しい所作の彼が、お肉をかじりついている。それはそれで、普段の姿と違って面白い。
「ふふっ、ウィルティム様の新しい姿を見ることが出来ましたわ」
「それを言うなら、俺の方が君の新しい姿をみてばかりだ」
「幻滅されましたか? 普通の令嬢ではなくて。私はこうして連れ出してくださって、嬉しい限りですが」
ちょっと拗ねた感じで彼をみると、そんなことはない、と目を開いて話してくれる。
「幻滅するだって? まさか! 君の新しい魅力を発見できて、嬉しい限りだよ」
社交辞令としても、嬉しかった。私はかなりこの世界に馴染んでいるけれど、時々こうして転生前の性格がでてしまう。それを「貴族らしくない」と言われてしまっては、やはり悲しい。
「ありがとうございます。そう言っていただけると、嬉しいです。今日も、市場を見ることが出来て良かった」
「本当に、まさか初めてのデートで市場に来ることになるとは思わなかったよ。でも、どうして市場だったの?」
「えっと人々の生きた姿と言うか、物価とか知りたかったし、他にも貨幣の価値とか。本当に、この国の王様はいい王様みたいですね。インフレもないし、貨幣の信用もどうやら高いみたいですし」
「え? インフレ?」
「あ、すみません、物価が急に上がることです。王様の政治が良くないと、急に物価が高くなったり、お金の信用が、えっと、お金の価値が下がることでも物価は高くなるので。そうしたことが、近年ないということですから、王様の政治はきちんとしているんだな、と」
「君は、そうしたことをどこで習ったのかな?」
ウィルティム様は、少し疑った目で私を見てきた。
しまった! 経済学の基本だけど。この国で習ったことはなかったわ。マズイかな?
「ほ、本です。確か本で読みました。ははは」
「そうか、君は変わっているだけではなくて、博識だな。経済に興味があるとは、ますます君を手放せないな」
「はいっ? 何か言いましたか?」
また何か、微妙なことを言われたような。気のせいだろうか。
「あ、デザートの代わりといっては何ですが、クッキーを焼いてきました」
そう言って、少しだけ焼いたクッキーを取り出して、ウィルティム様の目の前に差し出した。
「いつものクッキーですけど、ね。はい、あーん」
一つ取り出して、彼の口元へ運ぶ。その私の手元をみて、ウィルティム様は驚いて固まっていた。
「はい、どうぞ。口を開けてください、な?」
そう言うと、ようやく開いたウィルティム様の口へ、一つクッキーをポイっと入れてしまう。
むしゃむしゃと食べた彼は、手で目元を覆っていた。よく見ると耳元が赤い。
「もう一つ、いかがですか? あーん、してください?」
言われた通りに口を開けてくれたので、もう一つ入れてあげる。よかった、美味しそうに食べてくれている。
嬉しくてニコニコとしてしまう。やっぱり、手作りのものを美味しく食べてもらえることが、一番嬉しい。
「き、君も食べなよ、俺はもう、大丈夫だから」
そう言ったウィルティム様は、一つクッキーを取り出すと今度は私に「はい、あーん」と言って差し出してきた。
「あ、ありがとうございます」
これ、なかなか恥ずかしい。自分がウィルティム様にしていてなんだけど。されると恥ずかしいものだった。
「あーんっ」
口を開けて、クッキーと共にウィルティム様の指も食べてしまう。チュパッと音を立てて指を引き抜いた彼は、非常に微妙な顔をしていた。
「君って、本当に飽きないよ。ダメだ。振り回すつもりが、振り回されているな、俺」
またウィルティム様は斜め横を見ながら一人でぶつぶつと話していた。今日の彼は一人言が多い。
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