上 下
11 / 61
第一章

1-11

しおりを挟む
「は?」

 突然の申し出に、ウィルティム様は口を思わずポカンと開けてしまった。

「あ、フリでいいです、恋人のフリだけです。仮の恋人です!」

「あの、話が見えないのだけど」

 狼狽えたウィルティム様に、私は事の成り行きを説明した。

「えっと、今、第一王子殿下が婚約者を選定するためのお茶会が開かれていて、私も何故か選ばれていて。でもって、何故かウィルストン王子にロックオンされているみたいで、でも諦めてほしいの。普通に言っても聞いてくれそうにないので、いっそのこと恋人がいれば、諦めてくれるかな~って。だから、恋人のフリをして欲しいのだけど、ダメ?」

 確か、お願い事をするときは上目遣いで首を傾げるのがいいらしい。

 見上げていると、少し目を泳がせたウィルティム様が、ゴホン、と咳を一つしてから質問してきた。

「君は、ウィルストン王子が嫌いなのか?」

 改めて聞かれるが、やはり答えは同じだ。

「人として、ということの前に、王子の婚約者という立場が無理です。それが嫌なんです」

「そっか、王子の婚約者が嫌なんだね。では、王子の人となりを好きになれば、大丈夫なのかな」

 最後のところは呟くようだった。

「えっ? 何か言われましたか?」

「あ、いや、こっちの一人言だよ。ええっと、仮の恋人ってことだけど、俺としては、本物でも構わないけど?」

「はっ、はい?」

「本物の、恋人になろうって、話」

 想像していなかった答えに、思わずドキンとしてしまう。

「えっと、それは、それで問題があるかもしれませんし」

 ここでチラッとお兄様を見る。
 さっきから、私とウィルティム様のやりとりを傍観しているが、次期伯爵としてはやはり妹には堅実なところに嫁入りして欲しいだろう。

 貴族ではないウィルティム様と、あれこれあっては問題になるかもしれない。
 そう思っていると、ディリス兄さんが口を開いた。

「よし、リアリム。ウィルティムに期限付きの恋人になってもらう、で、どうかな?」

「期限付き?」

「あぁ、そうだ。とにかく、殿下がお前に執着しなくなればいいのだから、期間はそれまで。それでいいか?ウィルティム。その後のことは、また二人で決めればいい」

「お兄様がいいと言ってくれるなら、嬉しい」
「ああ、それでいい」

 ウィルティム様だけに負担が行きそうだけど、それでいいのかなぁ

「あー、ウィルティム。当たり前だけど、節度ある付き合いにしてくれよな。ある程度は目をつむるけど」

「ははっ、わかっているさ。お前の大切な妹君だからな」

「ウィルティム様、今更こんなこと言って何ですが、ご迷惑ではありませんか?」

「迷惑? そんなことないよ。君を口説く期間を貰えたと思って、頑張るよ」

「はっ、はい???」

 く、口説く期間?そんなことしなくても、既にウィルティム様に落ちています、私。

「うん、じゃぁ、早速デートを申し込まないと、な」

「デート?」

「あぁ、デート。街歩き。今度の休日に、王都を一緒に巡ろう。よし、休みの日を確認してくるから、わかったらまた知らせるよ」

 そう言って、ウィルティム様は駆け足で去って行った。

「お、お兄様、これで良かったのかなぁ、私、何か早まってしまったような」

「ん? まぁ、いいんじゃないか? お前の気持ちも前向きになれれば、それが一番だからな」

 ディリスお兄様は、そう言った途端私の顔を見てため息を吐いた。

 私はそのため息の意味を気にすることなく、ウィルティム様とのデートを想像しては浮かれていた。

 もうちょっと、気を付けていればわかったことなのに。

 ウィルティム様の背丈と、ウィルストン殿下の背丈が一緒だったこと。
 髪の色は違っていても、髪の長さが一緒だったこと。

 他にも共通点が多かったのに、私は気が付いていなかった。

 まさか、ウィルストン殿下の仮の姿が、ウィルティム様だったことを。

 ディリスお兄様をはじめ、騎士様たちにとって、暗黙の了解であったことなど。

 私は気が付かずに、頭の中はウィルティム様でいっぱいのお花畑になっていたのだった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

家庭の事情で歪んだ悪役令嬢に転生しましたが、溺愛されすぎて歪むはずがありません。

木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるエルミナ・サディードは、両親や兄弟から虐げられて育ってきた。 その結果、彼女の性格は最悪なものとなり、主人公であるメリーナを虐め抜くような悪役令嬢となったのである。 そんなエルミナに生まれ変わった私は困惑していた。 なぜなら、ゲームの中で明かされた彼女の過去とは異なり、両親も兄弟も私のことを溺愛していたからである。 私は、確かに彼女と同じ姿をしていた。 しかも、人生の中で出会う人々もゲームの中と同じだ。 それなのに、私の扱いだけはまったく違う。 どうやら、私が転生したこの世界は、ゲームと少しだけずれているようだ。 当然のことながら、そんな環境で歪むはずはなく、私はただの公爵令嬢として育つのだった。

【完結】名ばかりの妻を押しつけられた公女は、人生のやり直しを求めます。2度目は絶対に飼殺し妃ルートの回避に全力をつくします。

yukiwa (旧PN 雪花)
恋愛
*タイトル変更しました。(旧題 黄金竜の花嫁~飼殺し妃は遡る~) パウラ・ヘルムダールは、竜の血を継ぐ名門大公家の跡継ぎ公女。 この世を支配する黄金竜オーディに望まれて側室にされるが、その実態は正室の仕事を丸投げされてこなすだけの、名のみの妻だった。 しかもその名のみの妻、側室なのに選抜試験などと御大層なものがあって。生真面目パウラは手を抜くことを知らず、ついつい頑張ってなりたくもなかった側室に見事当選。 もう一人の側室候補エリーヌは、イケメン試験官と恋をしてさっさと選抜試験から引き揚げていた。 「やられた!」と後悔しても、後の祭り。仕方ないからパウラは丸投げされた仕事をこなし、こなして一生を終える。そしてご褒美にやり直しの転生を願った。 「二度と絶対、飼殺しの妃はごめんです」 そうして始まった2度目の人生、なんだか周りが騒がしい。 竜の血を継ぐ4人の青年(後に試験官になる)たちは、なぜだかみんなパウラに甘い。 後半、シリアス風味のハピエン。 3章からルート分岐します。 小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。 表紙画像はwaifulabsで作成していただきました。 https://waifulabs.com/

〘完〙前世を思い出したら悪役皇太子妃に転生してました!皇太子妃なんて罰ゲームでしかないので円満離婚をご所望です

hanakuro
恋愛
物語の始まりは、ガイアール帝国の皇太子と隣国カラマノ王国の王女との結婚式が行われためでたい日。 夫婦となった皇太子マリオンと皇太子妃エルメが初夜を迎えた時、エルメは前世を思い出す。 自著小説『悪役皇太子妃はただ皇太子の愛が欲しかっただけ・・』の悪役皇太子妃エルメに転生していることに気付く。何とか初夜から逃げ出し、混乱する頭を整理するエルメ。 すると皇太子の愛をいずれ現れる癒やしの乙女に奪われた自分が乙女に嫌がらせをして、それを知った皇太子に離婚され、追放されるというバッドエンドが待ち受けていることに気付く。 訪れる自分の未来を悟ったエルメの中にある想いが芽生える。 円満離婚して、示談金いっぱい貰って、市井でのんびり悠々自適に暮らそうと・・ しかし、エルメの思惑とは違い皇太子からは溺愛され、やがて現れた癒やしの乙女からは・・・ はたしてエルメは円満離婚して、のんびりハッピースローライフを送ることができるのか!?

もしもし、王子様が困ってますけど?〜泣き虫な悪役令嬢は強気なヒロインと張り合えないので代わりに王子様が罠を仕掛けます〜

矢口愛留
恋愛
公爵令嬢エミリア・ブラウンは、突然前世の記憶を思い出す。 この世界は前世で読んだ小説の世界で、泣き虫の日本人だった私はエミリアに転生していたのだ。 小説によるとエミリアは悪役令嬢で、婚約者である王太子ラインハルトをヒロインのプリシラに奪われて嫉妬し、悪行の限りを尽くした挙句に断罪される運命なのである。 だが、記憶が蘇ったことで、エミリアは悪役令嬢らしからぬ泣き虫っぷりを発揮し、周囲を翻弄する。 どうしてもヒロインを排斥できないエミリアに代わって、実はエミリアを溺愛していた王子と、その側近がヒロインに罠を仕掛けていく。 それに気づかず小説通りに王子を籠絡しようとするヒロインと、その涙で全てをかき乱してしまう悪役令嬢と、間に挟まれる王子様の学園生活、その意外な結末とは――? *異世界ものということで、文化や文明度の設定が緩めですがご容赦下さい。 *「小説家になろう」様、「カクヨム」様にも掲載しています。

旦那様の様子がおかしいのでそろそろ離婚を切り出されるみたいです。

バナナマヨネーズ
恋愛
 とある王国の北部を治める公爵夫婦は、すべての領民に愛されていた。  しかし、公爵夫人である、ギネヴィアは、旦那様であるアルトラーディの様子がおかしいことに気が付く。  最近、旦那様の様子がおかしい気がする……。  わたしの顔を見て、何か言いたそうにするけれど、結局何も言わない旦那様。  旦那様と結婚して十年の月日が経過したわ。  当時、十歳になったばかりの幼い旦那様と、見た目十歳くらいのわたし。  とある事情で荒れ果てた北部を治めることとなった旦那様を支える為、結婚と同時に北部へ住処を移した。    それから十年。  なるほど、とうとうその時が来たのね。  大丈夫よ。旦那様。ちゃんと離婚してあげますから、安心してください。  一人の女性を心から愛する旦那様(超絶妻ラブ)と幼い旦那様を立派な紳士へと育て上げた一人の女性(合法ロリ)の二人が紡ぐ、勘違いから始まり、運命的な恋に気が付き、真実の愛に至るまでの物語。 全36話

悪役令嬢はSランク冒険者の弟子になりヒロインから逃げ切りたい

恋愛
王太子の婚約者として、常に控えめに振る舞ってきたロッテルマリア。 尽くしていたにも関わらず、悪役令嬢として婚約者破棄、国外追放の憂き目に合う。 でも、実は転生者であるロッテルマリアはチートな魔法を武器に、ギルドに登録して旅に出掛けた。 新米冒険者として日々奮闘中。 のんびり冒険をしていたいのに、ヒロインは私を逃がしてくれない。 自身の目的のためにロッテルマリアを狙ってくる。 王太子はあげるから、私をほっといて~ (旧)悪役令嬢は年下Sランク冒険者の弟子になるを手直ししました。 26話で完結 後日談も書いてます。

王子殿下の慕う人

夕香里
恋愛
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。 しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──? 「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」 好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。 ※小説家になろうでも投稿してます

異世界で悪役令嬢として生きる事になったけど、前世の記憶を持ったまま、自分らしく過ごして良いらしい

千晶もーこ
恋愛
あの世に行ったら、番人とうずくまる少女に出会った。少女は辛い人生を歩んできて、魂が疲弊していた。それを知った番人は私に言った。 「あの子が繰り返している人生を、あなたの人生に変えてください。」 「………はぁああああ?辛そうな人生と分かってて生きろと?それも、繰り返すかもしれないのに?」 でも、お願いされたら断れない性分の私…。 異世界で自分が悪役令嬢だと知らずに過ごす私と、それによって変わっていく周りの人達の物語。そして、その物語の後の話。 ※この話は、小説家になろう様へも掲載しています

処理中です...