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第一章
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しおりを挟む――――長いものには巻かれろ――――
これは異世界転生を果たした私の信条である。
風にそよぐ緩やかなウェーブの桃色の髪に、日に当たると空色となるが、普段は落ち着いた藍色の瞳を持つ私、リアリム・ミンストンは今日もイザベラ・スコット公爵令嬢の招きを受けて、お茶会に参加している。
正直、つまらないけれど、私には大切な役目がある。
「イザベラ様、今日も輝くような金色の髪が、とても麗しいですわ。ドレスもドレープがたっぷりで、素晴らしいです。ほんと、美しすぎてため息しか出ないですわ」
「ほほ、リアリムさんも、我が家でのお茶会を楽しんでくださいね」
ほっ、良かった。今日は名前を呼んでいただけたわ。機嫌が悪いと、まるっきり無視されるからな~
にっこりと微笑むイザベラに、私もにっこりと微笑みを返しながら、今日も作り笑いを顔に張り付ける。
スコット公爵家のお茶会に招かれなくなったら、社交界では生きていけない。社交界で生きていけないと、優良結婚相手と出会えない。というのが、今年18歳となった私の現実である。
特に今日は、殿方も来られる昼間のお茶会だ。伯爵家のことを考えると、やはり優良物件の独身男性貴族と出会う必要がある。今日も頑張らねば。
といっても、今日もイザベラ様のご機嫌伺いかな?
そう、なんといっても私はイザベラ様の腰ぎんちゃくなのだ。友人枠に入れない腰ぎんちゃく。彼女を褒めたたえるのが役目なのだ。
現代ニホンに生きていた記憶のある私。10歳頃に突然、異世界転生していることに気が付いた。転生前は、しがない会社で事務員をしていた。そのまま結婚もしないで30歳になる直前、目の前が真っ暗になった。
で、気が付いたら10歳の伯爵令嬢だったのだ。
中世ヨーロッパのような世界に転生した直後は驚いたが、子どもだったおかげで何となく馴染んでしまった。
転生前は両親とは大学入学を機に離れて住んでいたし、当時は別れを惜しむような彼氏もいなかった。
どうやら中立派のお父様の影響もあり、私はひたすらに平和を追い求める。
そう、平和。長い物には巻かれろ、これは転生前の私の経験則だったりする。
で、今やりっぱな腰ぎんちゃく。
「あら、リアリムさん。ごきげんよう。早速ですけど、第一王子殿下のお噂を聞かれましたか?」
「サリエルさん、ごきげんよう。殿下って、あの留学を終えて帰られてきた方?」
「そうそう、その第一王子殿下のこと。どうやら、イザベラ様がご執心よ。今度の王宮でのお茶会は、婚約者候補を集めているらしいわ。そのお茶会に招待されていても、行っちゃダメよ。、、わかると思うけど」
腰ぎんちゃく仲間のサリエル嬢、いつもホットな情報をくれるありがたい友達。
良かった、王宮でのお茶会は×、っと。万一聞かれても、「私は招待されていません」が正解の答え、っと。
私の中にあるイザベラ様ノートに書きこむ。万一イザベラ様の地雷を踏むと、しばらくは社交界に顔をだせなくなってしまうから。あぁ、恐ろしい。
でも、あの第一王子にご執心とは、確かに、先日の夜会で見かけた彼は、とても眉目秀麗な貴公子だった。
遠いところから見ただけだけど、夜会のシャンデリアの光を受けてキラキラと光る長いストレートの銀髪と、アメジストのような紫の瞳が特徴的な、クールで美しい王子様だ。
留学していた先からは、優秀な成績で帰国されたと聞く。
会話するような機会も、共通の知り合いもいないから、遠目で見ただけ。それでも憧れる令嬢が続出するのはよくわかる。
ま、私には関係のない話だわ。第一王子なんて将来の王太子、ゆくゆくは王様だなんて。うう、近寄りたくもない!
そう、私は外見はちょっと派手だけど、平凡な生活がしたい普通の令嬢なのだ。オール庶民のニホンに生きた私にとって、「平凡」こそが一番なのである。
「あ、ほら、イザベラ様が会話されているわ。早くいかないと。リアリムさんも、行きましょ」
サリエルさんと一緒に、庭園で話をされているイザベラ様のお話の輪に入る。今日の話題はやっぱり第一王子のことみたい。
「ほんと、あの銀色を纏われた姿は麗しかったですわ、あの隣に立てるようなお方は、イザベラ様以外にありませんね」
あ、サリエルさんに先を越されてしまった。私も話題についていかなくちゃ。
「えぇ、先日の夜会でのお姿といったら!アメジストのように美しく光る瞳に見つめられて、胸をときめかせない方はいませんわ。怜悧な眼差しに麗しいお顔の、絵にかいたような王子様。本当に、結婚相手として最高の方ですね、」
あれ、周囲がざわついている。私、おかしなことを言ったかしら。
「やっぱり、そんな方に相応しいのはイザ、、」
「おや、私のことをそんな風に言ってくれるなんて、嬉しいですね」
突然、後ろから男性の声が聞こえてくる。
発言の内容からすると、もしかして――
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