上 下
1 / 61
第一章

1-1

しおりを挟む

 ――――長いものには巻かれろ――――

 これは異世界転生を果たした私の信条である。

 風にそよぐ緩やかなウェーブの桃色の髪に、日に当たると空色となるが、普段は落ち着いた藍色の瞳を持つ私、リアリム・ミンストンは今日もイザベラ・スコット公爵令嬢の招きを受けて、お茶会に参加している。

 正直、つまらないけれど、私には大切な役目がある。

「イザベラ様、今日も輝くような金色の髪が、とても麗しいですわ。ドレスもドレープがたっぷりで、素晴らしいです。ほんと、美しすぎてため息しか出ないですわ」

「ほほ、リアリムさんも、我が家でのお茶会を楽しんでくださいね」

 ほっ、良かった。今日は名前を呼んでいただけたわ。機嫌が悪いと、まるっきり無視されるからな~

 にっこりと微笑むイザベラに、私もにっこりと微笑みを返しながら、今日も作り笑いを顔に張り付ける。

 スコット公爵家のお茶会に招かれなくなったら、社交界では生きていけない。社交界で生きていけないと、優良結婚相手と出会えない。というのが、今年18歳となった私の現実である。

 特に今日は、殿方も来られる昼間のお茶会だ。伯爵家のことを考えると、やはり優良物件の独身男性貴族と出会う必要がある。今日も頑張らねば。

 といっても、今日もイザベラ様のご機嫌伺いかな?

 そう、なんといっても私はイザベラ様の腰ぎんちゃくなのだ。友人枠に入れない腰ぎんちゃく。彼女を褒めたたえるのが役目なのだ。





 現代ニホンに生きていた記憶のある私。10歳頃に突然、異世界転生していることに気が付いた。転生前は、しがない会社で事務員をしていた。そのまま結婚もしないで30歳になる直前、目の前が真っ暗になった。

 で、気が付いたら10歳の伯爵令嬢だったのだ。

 中世ヨーロッパのような世界に転生した直後は驚いたが、子どもだったおかげで何となく馴染んでしまった。

 転生前は両親とは大学入学を機に離れて住んでいたし、当時は別れを惜しむような彼氏もいなかった。

 どうやら中立派のお父様の影響もあり、私はひたすらに平和を追い求める。

 そう、平和。長い物には巻かれろ、これは転生前の私の経験則だったりする。

 で、今やりっぱな腰ぎんちゃく。





「あら、リアリムさん。ごきげんよう。早速ですけど、第一王子殿下のお噂を聞かれましたか?」

「サリエルさん、ごきげんよう。殿下って、あの留学を終えて帰られてきた方?」

「そうそう、その第一王子殿下のこと。どうやら、イザベラ様がご執心よ。今度の王宮でのお茶会は、婚約者候補を集めているらしいわ。そのお茶会に招待されていても、行っちゃダメよ。、、わかると思うけど」

 腰ぎんちゃく仲間のサリエル嬢、いつもホットな情報をくれるありがたい友達。

 良かった、王宮でのお茶会は×、っと。万一聞かれても、「私は招待されていません」が正解の答え、っと。

 私の中にあるイザベラ様ノートに書きこむ。万一イザベラ様の地雷を踏むと、しばらくは社交界に顔をだせなくなってしまうから。あぁ、恐ろしい。

 でも、あの第一王子にご執心とは、確かに、先日の夜会で見かけた彼は、とても眉目秀麗な貴公子だった。

 遠いところから見ただけだけど、夜会のシャンデリアの光を受けてキラキラと光る長いストレートの銀髪と、アメジストのような紫の瞳が特徴的な、クールで美しい王子様だ。

 留学していた先からは、優秀な成績で帰国されたと聞く。

 会話するような機会も、共通の知り合いもいないから、遠目で見ただけ。それでも憧れる令嬢が続出するのはよくわかる。

 ま、私には関係のない話だわ。第一王子なんて将来の王太子、ゆくゆくは王様だなんて。うう、近寄りたくもない!

 そう、私は外見はちょっと派手だけど、平凡な生活がしたい普通の令嬢なのだ。オール庶民のニホンに生きた私にとって、「平凡」こそが一番なのである。

「あ、ほら、イザベラ様が会話されているわ。早くいかないと。リアリムさんも、行きましょ」

 サリエルさんと一緒に、庭園で話をされているイザベラ様のお話の輪に入る。今日の話題はやっぱり第一王子のことみたい。

「ほんと、あの銀色を纏われた姿は麗しかったですわ、あの隣に立てるようなお方は、イザベラ様以外にありませんね」

 あ、サリエルさんに先を越されてしまった。私も話題についていかなくちゃ。

「えぇ、先日の夜会でのお姿といったら!アメジストのように美しく光る瞳に見つめられて、胸をときめかせない方はいませんわ。怜悧な眼差しに麗しいお顔の、絵にかいたような王子様。本当に、結婚相手として最高の方ですね、」

 あれ、周囲がざわついている。私、おかしなことを言ったかしら。

「やっぱり、そんな方に相応しいのはイザ、、」

「おや、私のことをそんな風に言ってくれるなんて、嬉しいですね」

 突然、後ろから男性の声が聞こえてくる。

 発言の内容からすると、もしかして――


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

家庭の事情で歪んだ悪役令嬢に転生しましたが、溺愛されすぎて歪むはずがありません。

木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるエルミナ・サディードは、両親や兄弟から虐げられて育ってきた。 その結果、彼女の性格は最悪なものとなり、主人公であるメリーナを虐め抜くような悪役令嬢となったのである。 そんなエルミナに生まれ変わった私は困惑していた。 なぜなら、ゲームの中で明かされた彼女の過去とは異なり、両親も兄弟も私のことを溺愛していたからである。 私は、確かに彼女と同じ姿をしていた。 しかも、人生の中で出会う人々もゲームの中と同じだ。 それなのに、私の扱いだけはまったく違う。 どうやら、私が転生したこの世界は、ゲームと少しだけずれているようだ。 当然のことながら、そんな環境で歪むはずはなく、私はただの公爵令嬢として育つのだった。

【完結】名ばかりの妻を押しつけられた公女は、人生のやり直しを求めます。2度目は絶対に飼殺し妃ルートの回避に全力をつくします。

yukiwa (旧PN 雪花)
恋愛
*タイトル変更しました。(旧題 黄金竜の花嫁~飼殺し妃は遡る~) パウラ・ヘルムダールは、竜の血を継ぐ名門大公家の跡継ぎ公女。 この世を支配する黄金竜オーディに望まれて側室にされるが、その実態は正室の仕事を丸投げされてこなすだけの、名のみの妻だった。 しかもその名のみの妻、側室なのに選抜試験などと御大層なものがあって。生真面目パウラは手を抜くことを知らず、ついつい頑張ってなりたくもなかった側室に見事当選。 もう一人の側室候補エリーヌは、イケメン試験官と恋をしてさっさと選抜試験から引き揚げていた。 「やられた!」と後悔しても、後の祭り。仕方ないからパウラは丸投げされた仕事をこなし、こなして一生を終える。そしてご褒美にやり直しの転生を願った。 「二度と絶対、飼殺しの妃はごめんです」 そうして始まった2度目の人生、なんだか周りが騒がしい。 竜の血を継ぐ4人の青年(後に試験官になる)たちは、なぜだかみんなパウラに甘い。 後半、シリアス風味のハピエン。 3章からルート分岐します。 小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。 表紙画像はwaifulabsで作成していただきました。 https://waifulabs.com/

〘完〙前世を思い出したら悪役皇太子妃に転生してました!皇太子妃なんて罰ゲームでしかないので円満離婚をご所望です

hanakuro
恋愛
物語の始まりは、ガイアール帝国の皇太子と隣国カラマノ王国の王女との結婚式が行われためでたい日。 夫婦となった皇太子マリオンと皇太子妃エルメが初夜を迎えた時、エルメは前世を思い出す。 自著小説『悪役皇太子妃はただ皇太子の愛が欲しかっただけ・・』の悪役皇太子妃エルメに転生していることに気付く。何とか初夜から逃げ出し、混乱する頭を整理するエルメ。 すると皇太子の愛をいずれ現れる癒やしの乙女に奪われた自分が乙女に嫌がらせをして、それを知った皇太子に離婚され、追放されるというバッドエンドが待ち受けていることに気付く。 訪れる自分の未来を悟ったエルメの中にある想いが芽生える。 円満離婚して、示談金いっぱい貰って、市井でのんびり悠々自適に暮らそうと・・ しかし、エルメの思惑とは違い皇太子からは溺愛され、やがて現れた癒やしの乙女からは・・・ はたしてエルメは円満離婚して、のんびりハッピースローライフを送ることができるのか!?

もしもし、王子様が困ってますけど?〜泣き虫な悪役令嬢は強気なヒロインと張り合えないので代わりに王子様が罠を仕掛けます〜

矢口愛留
恋愛
公爵令嬢エミリア・ブラウンは、突然前世の記憶を思い出す。 この世界は前世で読んだ小説の世界で、泣き虫の日本人だった私はエミリアに転生していたのだ。 小説によるとエミリアは悪役令嬢で、婚約者である王太子ラインハルトをヒロインのプリシラに奪われて嫉妬し、悪行の限りを尽くした挙句に断罪される運命なのである。 だが、記憶が蘇ったことで、エミリアは悪役令嬢らしからぬ泣き虫っぷりを発揮し、周囲を翻弄する。 どうしてもヒロインを排斥できないエミリアに代わって、実はエミリアを溺愛していた王子と、その側近がヒロインに罠を仕掛けていく。 それに気づかず小説通りに王子を籠絡しようとするヒロインと、その涙で全てをかき乱してしまう悪役令嬢と、間に挟まれる王子様の学園生活、その意外な結末とは――? *異世界ものということで、文化や文明度の設定が緩めですがご容赦下さい。 *「小説家になろう」様、「カクヨム」様にも掲載しています。

旦那様の様子がおかしいのでそろそろ離婚を切り出されるみたいです。

バナナマヨネーズ
恋愛
 とある王国の北部を治める公爵夫婦は、すべての領民に愛されていた。  しかし、公爵夫人である、ギネヴィアは、旦那様であるアルトラーディの様子がおかしいことに気が付く。  最近、旦那様の様子がおかしい気がする……。  わたしの顔を見て、何か言いたそうにするけれど、結局何も言わない旦那様。  旦那様と結婚して十年の月日が経過したわ。  当時、十歳になったばかりの幼い旦那様と、見た目十歳くらいのわたし。  とある事情で荒れ果てた北部を治めることとなった旦那様を支える為、結婚と同時に北部へ住処を移した。    それから十年。  なるほど、とうとうその時が来たのね。  大丈夫よ。旦那様。ちゃんと離婚してあげますから、安心してください。  一人の女性を心から愛する旦那様(超絶妻ラブ)と幼い旦那様を立派な紳士へと育て上げた一人の女性(合法ロリ)の二人が紡ぐ、勘違いから始まり、運命的な恋に気が付き、真実の愛に至るまでの物語。 全36話

悪役令嬢はSランク冒険者の弟子になりヒロインから逃げ切りたい

恋愛
王太子の婚約者として、常に控えめに振る舞ってきたロッテルマリア。 尽くしていたにも関わらず、悪役令嬢として婚約者破棄、国外追放の憂き目に合う。 でも、実は転生者であるロッテルマリアはチートな魔法を武器に、ギルドに登録して旅に出掛けた。 新米冒険者として日々奮闘中。 のんびり冒険をしていたいのに、ヒロインは私を逃がしてくれない。 自身の目的のためにロッテルマリアを狙ってくる。 王太子はあげるから、私をほっといて~ (旧)悪役令嬢は年下Sランク冒険者の弟子になるを手直ししました。 26話で完結 後日談も書いてます。

記憶を失くした代わりに攻略対象の婚約者だったことを思い出しました

冬野月子
恋愛
ある日目覚めると記憶をなくしていた伯爵令嬢のアレクシア。 家族の事も思い出せず、けれどアレクシアではない別の人物らしき記憶がうっすらと残っている。 過保護な弟と仲が悪かったはずの婚約者に大事にされながら、やがて戻った学園である少女と出会い、ここが前世で遊んでいた「乙女ゲーム」の世界だと思い出し、自分は攻略対象の婚約者でありながらゲームにはほとんど出てこないモブだと知る。 関係のないはずのゲームとの関わり、そして自身への疑問。 記憶と共に隠された真実とは——— ※小説家になろうでも投稿しています。

王子殿下の慕う人

夕香里
恋愛
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。 しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──? 「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」 好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。 ※小説家になろうでも投稿してます

処理中です...