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ララクライン

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「はい、アイリス・ギューエと申します。この者は、私の信頼する師です。ララクライン様、少しお話をさせていただきたいのですが。」

 私は彼女と向かい合わせのソファーに座る。サボは、後ろに立ったままだ。万一の場合の退路を確保してくれている。

「その前に、お二人だけでしょうか?その、沼地に魔物が解き放たれていたと思いますが。あと、ここには結界が張られていて、外から入ることは難しいと聞いていたのですが。」

「二人だけだ。問題ない。」

 サボが、低い声で答える。手の内は、見せないのは鉄則だ。結界は、多分サボ師匠が手を加えていたのだろう。私一人だったら、この部屋まできっと辿り着けていなかったと思う。

「では、どこからお話をしたらよいのか・・・」

スイレン宮にいるかもしれない、と思っていたが、沼地の魔物を見た時、最悪、死体になっているのかもしれない、とも思っていた。こうして無事に、話ができることはありがたい。

「そうですね、まずはなぜ、出身地の南の地方の赤の日に参加せず、遠方の東の地で、赤の日に参加されたのですか。これまで、正直なところ、お会いしたことがありませんでしたので、不思議に思いました。」

「はじまりは・・・はい、私がソルディーエル様を帝都で拝見し、お慕い申し上げたからでしょうか。」

 やはり。そうではないかと思っていたが、原因はやっぱりソルへの一目ぼれだった。

「それから、親にお願いして、この地方での赤の日に入らせてくださり、ソルディーエル様との組み合わせを、無理やりに希望しました。皇族に近い私であれば、リクエストが通りやすいこともありましたので。」

 リード公爵家といえば、宰相や皇妃などが代々いる、力のある貴族だ。その娘の願いであれば、叶えられないことも、ないであろう。

帝国も、最近力をつけつつある王制復古派を抑えるために、ソルに見合う立場の帝国貴族か皇族を探していたはずだ。

「そして、私の希望を叶えるべく、帝都でお見合いと申しますか、直接お会いして、話をする機会を設けていただきました。リード家としては、そこで現実をみて、諦めてもらいたかったのでしょうが、実際にお会いできた私は、有頂天になりました。」

 深層の令嬢らしく、きっとソルの外面の優しさと美しさを、愛してしまったのであろう。

「そして、希望どおり、赤の日では婚約者に選ばれることができました。」

 頬にちょっと、赤みをさす。微笑む姿は、可愛らしい。

「それが、どうしてこのように行方不明となられたのですか。だれが、貴方をここへ幽閉させたのですか。」

「・・・あの赤の日の夜、ソルディーエル様とお話をしました。そして、あの方に長年の想い人がいたことを、知りました。アイリス様、本当に申し訳ございません。」

「あの、もう少し詳しく聞かせてもらえますか。私に謝られても、困ります。」

「あ、はい。ソルディーエル様にとって、アイリス様は幼少時からの婚約者で、本来は赤の日に組み合わされる予定であったと、聞きました。それが王国民の希望となることも、説明していただきました。ですので、私は自分がソルディーエル様のみならず、サルベニア王国の皆様にとっても、邪魔な存在となってしまったことを、その時はじめて、気が付いたのです。」

「はぁ。そんなことをソルは言ったのですね。」

「赤の日の発表はすでにされていましたので、これを覆すには、私が行方不明になるしかない、と思いました。そうしたらリード家の者が助けてくれました。…リード家は、私がこの地方に嫁ぐことを、望んでいませんでしたので。」

「そうですか、リード家のもの・・・それが、あの別の部屋にいた者たちですか?」

「あ、はい。何名かは、私の世話と監視のために、こちらの宮殿に滞在しています。」

「監視?ここには貴方の意思で、滞在されているのではなくて?」

「ええ、リード家の者たちは、私の気持ちがいつ変わって、ソルディーエル様のところに戻りかねないと危惧しています。」

「ということは、ララクライン様は、まだソルのことを想ってくださっている、のですね。」

「あの方への初恋は、忘れられるものではありません。」

 少しほっとする。これから、ララクライン嬢を説得して、ソルと婚約してほしいのだ。少しでも、ソルのことを好きでいてほしい。

「では、ソルのところに行きましょう。私たちが、お手伝いします。」

 そう言って立ち上がり、ララクライン嬢の手をとると、彼女は恐ろしいことを告白した。

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