38 / 67
決意
しおりを挟む私は、妖銃アレンを腰に下げ、いつもの冒険者スタイルに着替えた。これであれば、あまり「アイリス姫」と認識されにくいし、戦闘もできる。
まだ、人に向かって妖銃を撃ったことはないが、今回は必要になるかもしれない。そうしたこともあるかと、麻酔弾を開発してきた。魔獣相手ではあったが、一時動きを止めることはできた。
準備をしていると、コンコンと窓を叩く音がする。伝令魔鳩が、メッセージを持ってきたようだ。窓をそっと開け、手紙を受け取る。レオンからだ。あのピアスを買ったアクセサリー・ショップで会おう、と書いてある。目立たないように会うためだろう。宝飾店であれば、奥に個室もある。客の一人としてお店に入っても、怪しまれないだろう。
まずはレオン。その次はソルと会ってみよう。今、彼がどうしているのか気になるし、もしかしたら居場所を知っているのかもしれない。私たちのことは、一度きちんと話さないといけない。
「私、本当に誰と婚約することになるのかなぁ・・・、でも、弱気にならない!」
気合を入れるため、パン、パンと両手で頬をたたく。よし、まずはレオンに会わなくちゃ。
◇◇◇◇◇
俺は黒い指ぬきの皮手袋をつける。手の甲には、魔法陣を描いて、力を強めている。この方法を、帝都の魔術師団長から習っておいて、良かった。両手を握り、そして開く。よし、魔力の調子もいい。黒のパンツに黒のロングコートを着ると、黒ずくめになってしまった。
まさか、帝国の決定事項の『赤の日』の発表内容が、覆されるとは。説明されても、納得なんかできるわけがない。学園で、彼女と出会って、最初は照れ臭くもあって揶揄っていた。でも、それも終わりだ。アイリスが俺の婚約者だ。今更、覆されてたまるものか。
まずは、あのララクライン嬢を探す。そのために、戦う必要もでるかもしれない。対人魔術は、まだ付け焼刃だが、これまで身に着けてきた魔獣用の応用だ。あの剣豪と言われるソルディーエルとも、敵対することになるかもしれない。できれば、あの妖銃使いのサボとは戦いたくないが。
最悪の事態も、考える。万一ララクライン嬢を見つけられなかったら、アイリスを連れて、帝国から逃げるか・・・。できればその手は使いたくない。正直なところ、逃げ切れる自信がない。俺が、帝国にどうにかされても構わないが、アイリスが逃げ切れなくて、捕まった場合はやり切れない。
さっき、伝令魔鳩を飛ばしておいたから、アイリスもアクセサリー・ショップに向かっているだろう。主人に頼んで、個室を案内してもらえば、少しは会って話せるだろう。接近禁止令なんて、糞くらえだ。アイリスも不安に感じているだろう、俺が支えなければ。
―――いや、俺が不安になっているのかな。アイリスが俺を選んでくれるのか。もし、やはりソルディーエルと結婚したいのであれば、このまま静かにしていたいだろう。それなら、それでも構わない。俺は、俺の希望を叶えるために動く。
「よし、行くか。」
パチン、パチンと俺の相棒の二重鞭を鳴らし、コートの内側にセットする。婚約式まで、あと10日だ。それまでに、俺たちの未来を決めてやる。
レオンは決意を新たにすると、急ぎ足で街に向かった。
0
お気に入りに追加
130
あなたにおすすめの小説
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
記憶喪失のフリをしたら夫に溺愛されました
秋月朔夕
恋愛
フィオナは幼い頃から、自分に冷たく当たるエドモンドが苦手だった。
しかしある日、彼と結婚することになってしまう。それから一年。互いの仲は改善することなく、冷えた夫婦生活を送っていた。
そんなある日、フィオナはバルコニーから落ちた。彼女は眼を覚ました時に、「記憶がなくなった」と咄嗟にエドモンドに嘘をつく。そのことがキッカケとなり、彼は今までの態度は照れ隠しだったと白状するが、どんどん彼の不穏さが見えてくるようになり……。
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
王子殿下の慕う人
夕香里
恋愛
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。
しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──?
「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」
好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。
※小説家になろうでも投稿してます
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
散りきらない愛に抱かれて
泉野ジュール
恋愛
傷心の放浪からひと月ぶりに屋敷へ帰ってきたウィンドハースト伯爵ゴードンは一通の手紙を受け取る。
「君は思う存分、奥方を傷つけただろう。これがわたしの叶わぬ愛への復讐だったとも知らずに──」
不貞の疑いをかけ残酷に傷つけ抱きつぶした妻・オフェーリアは無実だった。しかし、心身ともに深く傷を負ったオフェーリアはすでにゴードンの元を去り、行方をくらましていた。
ゴードンは再び彼女を見つけ、愛を取り戻すことができるのか。
婚約破棄寸前の悪役令嬢に転生したはずなのに!?
もふきゅな
恋愛
現代日本の普通一般人だった主人公は、突然異世界の豪華なベッドで目を覚ます。鏡に映るのは見たこともない美しい少女、アリシア・フォン・ルーベンス。悪役令嬢として知られるアリシアは、王子レオンハルトとの婚約破棄寸前にあるという。彼女は、王子の恋人に嫌がらせをしたとされていた。
王子との初対面で冷たく婚約破棄を告げられるが、美咲はアリシアとして無実を訴える。彼女の誠実な態度に次第に心を開くレオンハルト
悪役令嬢としてのレッテルを払拭し、彼と共に幸せな日々を歩もうと試みるアリシア。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる