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思いがけない提案
しおりを挟む赤の日から三日後、私は領主館に招かれていた。そこで、領主から思いがけない提案がされた。
「実は、赤の日の翌日から、ララクライン嬢が行方不明となっている。」
あの夜、ソルの婚約相手として選ばれていた、リード公爵令嬢が、行方不明となっている。私は嫌な予感がした。
「君も知っての通り、帝国の定めたララクライン嬢の婚約相手は、ソルディーエル王子だ。」
「はい、知っています。あの、行方不明というのは・・・」
「探さないでください、というメモが残されていただけだ。赤の日の決定が不服だったのかもしれない。」
『赤の日』の相手が原因で行方不明となることは、実は珍しくない。本人の独断の場合もあるし、家族が匿うこともある。1年たったところで、また『赤の日』に参加すれば、お咎めなし、となることも多い。
「ララクライン嬢が見つからなければ・・・ソルディーエル王子は、どうなるのでしょうか。」
「婚約相手が行方不明では、婚約式を行うことができない。彼は、旧サルベニア王国の国民にとって、精神的にも重要な存在ということは、帝国もわかっている。その彼の婚約相手を公表できないことは、ゆゆしき問題であると、帝国は判断した。」
「はい。」
「さらに、ソルディーエル王子はもう既に20歳だ。今年、結婚することができなければ、帝国の制度に反することになる。・・・あまり例外はつくりたくなくてな。ソルディーエル王子には、今年中に結婚式を行うように、帝国は進めることになった。」
次に何を言われるのだろうか。嫌な予感しかしなかった。
「そこで、ララクライン嬢が婚約式までに見つからなかった場合、君が、彼の婚約者となることが決定した。」
背中に氷水をかけられたように、全身が冷えた。
「私が、ソルと婚約するということでしょうか。・・・そうしたら、レオンはどうなるのでしょうか。」
「レオンハルト皇子は、帝国の第7皇子である。帝国の事情は、彼自身が一番よくわかっているはずだ。彼はまだ18歳だから、来年、また赤の日に参加すればいい。」
ようするに、ソルの相手としての家格を考えると、私しかいない。その私の相手は帝国の皇子と、身内でもある。もみ消すことも、説得することも容易・・・と、帝国は判断したのであろう。
「今のお話は、あの、レオンはご存じでしょうか。」
あれだけ、私との婚約を喜んでいた。レオンの笑顔が脳裏に浮かぶ。
「ああ、既に了解してもらっているよ。そういうわけで、皇子との接触は今後控えるように。」
領主は、私の気持ちを思いやるでもなく、言い放つとその場を去ろうとした。いやな予感は、的中したのだ。
「あの、領主様、今回のお話ですが、王制復古派の動きはよろしいのでしょうか。私とソルディーエル王子が結婚すると、復古派が力を増すのでは、と聞いています。」
私がストレートに王政復古派のことを聞いてきたことに、少し驚いた領主は、しかし冷静に返答をした。
「確かに、その懸念は残るが・・・ただ、かえって君達夫妻の動きを見れば、復古派の動きも容易に監視できるからね。帝国としては、それも手段の一つだよ。」
「・・・そうですか。」
要するに、私がソルと結婚した後は、生涯、今以上に帝国から監視される。そう宣言されたようなものだ。
「では、領主様。婚約式までにララクライン嬢が見つかり、彼女が式に参加するのであれば、今回の提案はなかったことになる、ということでよろしいですね。」
こうなると、何としてもソルではなく、レオンと婚約しなければ。そのためには、ララクライン嬢を見つけ出さなければ。
「―――そうだね、帝国は元々、そのプランであったからね。」
そう告げると、領主はサッと部屋を出て行った。これ以上の交渉はできない、ということを表していた。
今回の話は、ララクライン嬢がカギであるに違いない。南の領地の彼女が、わざわざ東へ来た理由。そして、今、消えた理由。地の利のない彼女を、誰かが支えているに違いない。
思い浮かぶのは、―――ソルディーエル王子。
やはり、どうあっても私と婚約しようとしているのだろうか。あれだけ、愛を囁いてくれた人だけど、今、私の心は決まっている。レオンだ。レオンに会いたい、会って、話がしたい。
領主が退出したことを確認すると、アイリスはすぐにその場を離れた。
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