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レオンの挨拶
しおりを挟む次の日、約束通りレオンがギューエ公爵家にやってきた。昨夜の黒い軍服とは違い、今日は青の騎士の正装で来た。煌びやかな徽章をつけ、帝国の皇子として、威厳ある姿であった。
「レオンハルト皇子、ようこそ、我がギューエ公爵家にお越しくださいました。」
父も、本心はともかく、レオンを歓迎して客間へ通した。レオンは、自身の瞳と同じ赤い薔薇の花束を持っていた。呼ばれてから、客間に入った私を見て、レオンはすぐに片足を膝まずき、私の片手をとった。騎士が忠誠を誓う姿勢だ。
「アイリス、俺たちは選ばれた組み合わせではあるが、それを抜きにしても、君を愛している。・・・我、レオンハルト・サザン・フォートレイは、アイリス・ギューエ公爵令嬢に、結婚を申し込む。生涯をかけて、愛し、守ると誓う。」
父の前で、正式なプロポーズをしてくれるとは思わず、私は感極まって声がでなかった。あの、意地悪なレオンが、変態なレオンが・・・。
「アイリス、返事を。」
待ちかねた父が、そっと囁く。
「あ、はい。私、アイリス・ギューエは、レオンハルト様の結婚の申し出をお受けいたします。」
レオンは、私の手の甲に軽く唇を落とすと、嬉しそうに立ち上がり、私の銅に腕を回した。
「やった、ありがとう!アイリス、嬉しいよ!」
レオンは、私をふわっと浮かばせると、クルクルと回った。無邪気に喜ぶ様は、私も、そして父さまも喜んでいるようだった。
「レオン、もう、下して。目が回るわ。」
そうして静かに私を下すと、私の腰に手を回し、父に向かって礼をした。
「ギューエ公爵、私とご息女のアイリス嬢との、結婚を認めていただけますでしょうか。本来であれば、公爵に伺うのが先かと思いましたが、すみません、気持ちが先走ってしまいました。」
神妙な顔つきで、父を見るが、父はそうしたレオンの態度も、気に入ったようだ。
「レオンハルト皇子、娘と、皇子の様子を拝見して、安心して答えることができるよ。娘をよろしく頼む。婚姻を結ぶことを、許そう。」
「ありがとうございます、ギューエ公爵。必ず幸せにします。」
父も、実際にレオンをみて、ずいぶんと気持ちに変化があったようだ。レオンの皇子らしからぬ、素直で明るい性格は、父の硬い心を溶かしてくれたのかもしれない。
「私は、帝国には未だ複雑な思いをもっているが、皇子はそれとは違うようだな。よかったな、アイリス。」
父の言葉が、嬉しかった。やはり、唯一の肉親である父には、喜んでほしかった。
レオンの持ってきてくれた赤い薔薇を、花瓶に入れようとしたら、残っていた棘の一つで、指をちょっとケガしてしまった。
「いたっ!しまった、棘があった。」
「ちょ、見せてみろ。あぁ、血が出ているな。」
ケガした私の指を、レオンがペロッと舐めた。顔が熱くなる。きっと、赤くなっている・・・
「ホレ、治ったぞ。やっぱり俺の治癒魔術は、きれいに治るだろう。」
「レオンハルト皇子・・・」
父があきれた顔をして、私たちを見つめる。ちょっと居たたまれなくなってきたので、レオンに私の自室に入ってもらうことにした。
私の部屋、といっても最近までは寮生活だったので、さっぱりしたものだ。残っているのは、12歳当時の私が好きで集めていた、可愛らしいものが多い。
「へぇ~、これがアイリスの部屋か。意外と子供っぽいんだな。」
「え、当たり前でしょ。12歳から、私は寮生活だったから、当時のものしか置いてないし。寮からまだ引っ越していないから、私のものといっても、子どもの時のものだけよ。」
「そうか、そうだよな・・・。」
当時の私が色濃く残るこの部屋に、青の騎士姿のレオンがいるのが、可笑しかった。当時の私にとって、騎士のイメージはソルだったからだ。自ずと、ソルのくれたものも多く残っている。
「この、いびつなマグカップは?アイリスが作ったのか?」
「あ、それはソルが初めてつくったって、記念にくれたものだけど。」
ソルからのプレゼントが多いから仕方ない。これまでの私は、ソル一色だったのだ。
「この絵姿も、かわいいな。」
当時の私が、にっこりと笑っているスケッチ。とても気に入っている。が・・・
「あ、それもソルが描いてくれたんだけど。」
「・・・そうか。」
あ、なんか元気がなくなってきている。大丈夫かな。こういう時は、話題を変えておこう。
「ええと、そういえばレオンは卒業したらどうするの?夕べは帝国魔術師とか言っていたけど。」
「ああ、そういえば、俺に拝領される領地が決まったんだ。南西にある、フォートレイ辺境伯領だ。」
「あ、それで名前にフォートレイとついたのね。」
レオンハルト・サザン・フォートレイ、聞きなれない名前だったけど、こうした意味があったのか。そうすると。
「アイリス・ギューエ・フォートレイだな。結婚したら、フォートレイ辺境伯夫人だぞ。」
なんだか、くすぐったい。夫人と呼ばれるようになるなんて、実感が全然わかない。
「でも、2年間は冒険者だからね、結婚するのは2年後よ。」
大切なことなので、もう一度念を押しておく。ちょっと悲しげなレオンな顔をしたけれど、これは譲ることができない。
「わかったよ。でも、2年後には一緒に領地に行こうな。俺も、お前と一緒に行ってやるよ。結婚する前に、ケガとか、最悪亡くなったら困るからな。」
思いがけず、レオンも一緒に冒険するときいて、驚いてしまった。一緒は心強いけど・・・。
「え、いいの?皇子の務めとか、領地管理とか、大丈夫なの?帝国魔術師になるとかは?」
「アイリスの方が、大切だろ。いいじゃないか、2年間、お前のバディになって、一緒に冒険して、旅しようぜ。アイリスを守るって、誓っただろ?」
確かに、私の弱さでは、初級クエストもできるかわからない。レオンと一緒なら、中級もできるかもしれない。
「なんだか、夢みたい・・・冒険者になれるんだ、私。」
まだ、ふわふわした感じがするけど、とにかくレオンと婚約できることが、こんなに嬉しいことになるとは、思っていなかった。
私たちは、婚約に浮かれている間、恐ろしい出来事が進んでいることに、全く気が付くことができなかった。
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