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婚約相手
しおりを挟むララクライン嬢は、黄金の髪をハーフアップにしていた。その瞳はソルよりも薄い、空色をしていた。すこしぽっちゃりとした感じの彼女は、可愛らしい印象だった。
リード公爵家は、サザン帝国の皇族との結びつきも深いと聞いている。中央から遠く、辺境ともいえるこのサルベニア領で、なぜ『赤の日』に参加しているのだろうか・・・。
「それではこれより、婚約相手の発表を行う。呼ばれた二人は、前方に来ること―――」
いよいよ、発表が近づいてきた。思わず手を握り締めてしまう。その様子を見たソルは、アイリスにしか聞こえないように、小声で話しをした。
「アイリス、何があっても、私を信じて待つように。」
ハッとしてソルの顔を見上げるが、普段と同じく、周囲に感情を読み取らせない、曖昧な表情をしていた。
「―――家―――、並びに、―――家―――」
発表は進んでいく。組み合わせが読み上げられるごとに、感嘆の声が挙がる。意外な組み合わせも見られる。今年、一番注目されているのは、やはり私たちだ。王族に近い私や、ソル、皇族のレオンの発表は、多分最後。
エリーゼは、大丈夫だろうか。以前は、誰と組み合わされても、喜んで受け入れると言っていたが。年頃の女性としては、やはり相手の容姿が気にならないだろうか。結婚相手でもあるから、やはり経済状況も気になるといえば、気になるはず・・・
「エルデリア侯爵家フィリップ、並びに、ミテイラ侯爵家エリーゼ」
エリーゼが呼ばれた。相手は・・・フィリップ・エルデリア、帝国の侯爵家であれば、家格もあっている。きっと、経済状況も似通っているであろう。そして、エリーゼを見て微笑んでいる。優しそうな人だ。
二人は前方に移動して行き、領主から書類を受け取る。その後、二人でお互いを紹介しあっているのだろうか、仲良さそうに、話している二人がいた。
「エリーゼ、幸せそうな顔で笑っているわ。よかった・・・」
合同婚約式は、2週間後だ。その日までには、どこかで会えるかもしれない。相手の方とも、話してみたいな、と思いつつ、名前を読み上げる声は、続いていた。
そして、名前の呼ばれていない者が、ついに私たち4人となった。
「旧サルベニア王国王子ソルディーエル、並びに、リード公爵家ララクライン」
ドクン、と大きな衝撃を受ける。ソルが、私と組み合わされていない、ということは―――
そして会場全体に、驚きの声が挙がる。ソルは、すっと前にでると、ララクライン嬢の隣に立ち、書類を受け取っていた。
よかった、落ち着いている。万が一、私が相手ではなかった場合、ソルがどう行動するのか、少し不安があった。
そして―――
「サザン帝国第7皇子レオンハルト、並びに、ギューエ公爵家アイリス」
最後に残った私たちの名前が、呼ばれた。
前に出ていくと、レオンが私の隣に立った。領主から、書類を受け取る。そこにははっきりと、レオンと私の名前が書かれていた。レオンは私の方を振り向くと、力強く抱きしめた。
「アイリス、アイリス。やっと、やっとだ!お前を捕まえることができた!」
「―――レオン、私の婚約者は、あなたなのね。」
「そうだ、俺だ。・・・アイリス、俺が婚約者だ。」
レオンは私を抱きしめながら、その瞳から涙を流していた。―――レオンが泣いている。あの、レオンが。
私の心の中には、嬉しい、という思いが確実にあった。レオンと婚約することが、嬉しい。―――嬉しいのだ。
だが、抱きしめられて固まったままの私の耳に、領主の「ゴホン」という咳払いが聞こえてきた。
「レオンハルト皇子、感動しているのは良いが、話は後から、二人でするように。」
思わず赤くなる私の手をとり、レオンはグイグイと引っ張って、庭園へ連れて行こうとした。
「まって、まってレオン。私、ソルと話がしたい・・・」
「今夜は、他の男の名前を言うな。」
俺様レオン様が復活している。マズイ。
ソルの様子を見たいが、やっぱり今夜は話はできないかなぁ。私は既に会場だった大広間から離れてしまっていた。周囲を照らすのは、明るい満月であった。
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