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赤の日 2
しおりを挟む「アイリス、今夜は月から抜け出してきた女神のようだね。本当に、これほどまでに美しく成長するなんて。」
「ソル、ありがとう。相変わらず素敵ね。」
「・・・しばらくアイリスに会える時間が持てず、すまなかった。寂しくなかったかい?」
「私も、妖銃の訓練に明け暮れていたから、大丈夫よ。」
婚約者の発表まで、会場ではダンスを踊るものもいれば、歓談を楽しむ姿もあった。さすがに今日は踊る気になれなかった私は、壁を背にして佇んでいた。レオンの姿を探したが、帝国の皇族はまだ会場にいないようだ。
今夜、私の相手がソルとなれば、もうレオンと話をする機会はない。レオンは帝国の皇子だから、こことは違う遠方の領地を与えられ、今夜発表される婚約者を連れて、領主として暮らしていくのだろう。
現皇帝には8人の妻と、23人もの子どもがいた。継承権の第3位以下の皇子、皇女は、学齢期になると帝都から遠方の領主に預けられ、教育を受ける。その後、赤の日に将来の伴侶をあてがわれ、帝都と離れた領地に派遣されることが多い。
レオンはどこに領地が与えられるのかな。そのくらいは、聞いてもいいのかな。でも、何と話しかければいいのだろう。私が言葉を探していると、周囲の人が少し騒然としてきた。どうやら、領主とともに、帝国の皇族と高位貴族が入場したようだ。
そこには、レオンハルト皇子と共に、意外な人物―――帝国のララクライン・リード公爵令嬢が一緒にいた。
彼女は確か、帝国の南に位置する、広大な領地を持つ公爵の一人娘と聞いたことがある。皇帝の遠戚にもあたる、帝国内でも力を持つ貴族の、一人娘だ。レオンと同じ年齢なので、今年が『赤の日』に参加する年となる。帝国は広い。今日の『赤の日』も、地方ごとに開催される。
この場にリード公爵令嬢がいるということは、この会場にいる誰かが婚約相手ということになる。帝国の有力な公爵令嬢と釣り合う相手となると、おのずと限られている。―――可能性が高いのは、ラインハルト皇子と、元王族の、ソルディーエルだ。
アイリスは、隣に立っているソルを見上げた。彼は、周りにいる人と同じように、ララクライン嬢を見つめていた。ただ、その表情からは、感情を読み取ることはできなかった。
ララクライン嬢をエスコートしているレオンは、帝国の軍服に、黒の装飾のついたマントを着ていた。その耳には、アイリスとお揃いのピアスがついていた。
一瞬、レオンと視線が重なる。
その時、アイリスは自分の右耳についている、レオンの瞳の色の赤いピアスを触った。レオンが、その仕草をみて少し微笑んだように見えたが、すぐに上席に移動してしまった。
「今日は、もうレオンとは、話ができないかもね・・・アレン。」
最近、妖銃アレンに話しかけることが多くなった。あの午睡の夢以来、妖銃アレンと会話をすることはなかったが、常に話をきいてくれている。そのことが、アイリスには力強かった。
そして―――『赤の日』の婚約相手の発表が行われようとしていた。
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