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赤の日 1
しおりを挟む『赤の日』となった。
雲一つない晴れ渡る空を見て、自分の心の雲も、今日で取り払われ、晴れるだろうか。そんなことを考えながら、学園の卒業式に出席したアイリスは、友人との別れを惜しんでいた。遠くにレオンの姿を見つけたが、お互い会話することはなかった。
そして婚約者の発表の場となる夜会へ出席するため、午後はドレスを着る準備をした。
今日は、髪の色に合わせた赤の強い桃色のドレスを選んでいた。裾に向かってグラデーションが入り、つま先周辺は薄い桃色となっていた。普段は制服に隠れている、胸のふくらみも腰の細さもはっきりとわかる、立体感のあるドレスだった。
首にはソウから贈られていた、サファイアのペンダントトップに、銀の鎖のネックレスをつけていた。それはソウの紺碧の瞳と、輝く銀髪を思い起こさせた。
ただ、ピアスはそのままだった。自分の瞳の色の紫と、レオンの瞳の色の赤。お揃いでつけていることは、誰にも知られていない。
サボからは、香水が贈られていた。「白く滑らかな全身に、僕の香りを着てほしい」とメッセージがついていた。普段からサボが使っているものと同じなのか、その香りはあの日の朝を思い起こさせた。
「ふぅ、こんな感じかな。」
夜会用のドレスを着て、化粧するのは久しぶりだった。特に最近は、妖銃の訓練のため、魔窟の森に入りびたっていたため、手袋やドレスの下は、生傷だらけであった。
顔周辺は傷が残らないように気を付けていたが、首元には、ドレスで見え隠れするギリギリの所に、サボが残したキスマークが、白い肌の上に赤く散っていた。
『赤の日』の、婚約相手の発表は夜会の終盤である。今日の発表の2週間後に、全てのカップルの合同婚約式となる。そこで初めて、相手が公にされ、結婚への準備が始まる。
婚約式までの2週間は、一般的には両親や、親族の挨拶と準備期間とされている。
「アイリス様。今日も輝くように美しいですわ。さすが、スイレン姫の名の通りですわね。」
侯爵令嬢のエリーゼが、話しかけてきた。彼女も、今日は婚約者を知る日である。
「エリーゼも、すっごく素敵よ。きっと、相手の方に気に入ってもらえるわよ。」
今日、女性が着飾るのは、将来のパートナーの印象を良くしたい、ということが主な目的だった。
「私、赤の日の名前の由来を、聞いて驚きました。アイリス様はご存じでしたか?」
「え?赤の日の赤は、帝国のシンボルカラーだからではなくて?」
「表向きはそうですが、やはり裏の意味があるそうですよ。以前は、発表の直後に合同結婚式を設けていたらしく、その夜、すぐに初夜を迎えるカップルもいたそうです。それで、処女の血を散らすから、赤、とか。」
「それは・・・言葉にならないわね。」
「まだありますの。想いあっていた者が引き離された場合、自ら命を絶つ者もいたそうです。ある者は、帝国への抵抗の意味を込めて、自ら剣を胸に突き刺したとか。その時流れた血の色から、赤、とか。」
「エリーゼ、それは恐ろしい話ね。」
「ええ、ですから今日は、この会場に騎士団が派遣され、厳重に守られているようですね。」
確かに、普段の夜会とは違って、警備をする騎士が多いとは思っていたが、そんな意味もあるなんて。望まぬ相手をあてがわれ、将来に絶望した若者が、愚かな行動を起こさないようにする為とはいえ、物々しい。
今日の会場で、久しぶりにソルと会った。ソルは瞳に合わせた濃い青に、銀の刺繍の入ったフロックコートを纏っている。元王族らしく、立っているだけで周囲を圧倒する雰囲気を醸し出していた。
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